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強面虎獣人と甘い恋  作者: Latte


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6

穏やかな日々を過ごしていたある日、ミーナがニコニコしながら私のもとへ駆け寄ってきた。


「ねえ、明後日の休みの日、騎士団で公開演習があるんだけど一緒に行かない?」


「公開演習?」


「そう!30歳以下の若手騎士団員が集まって、剣技を競い合うの。去年は獣人部隊のゼノン様が優勝したって、知り合いから聞いたのよ」


私は知らない名前に首をかしげる。ミーナは呆れたようにため息をついた。


「本当にアドルフ様一筋なんだから……ゼノン様は今一番人気の狼獣人の騎士よ。細身なのに力強くて、しなやかでスマートで、しかもイケメン!」


「細身でイケメン……」


正直、あまり興味は湧かない。私の頭の中は、やっぱりアドルフ様のことでいっぱいだ。


ミーナはそんな私の様子に苦笑しつつ、「まあ、当日は屋台もたくさん出るし、きっと楽しいから!」と明るく誘ってくれる。


「それにアドルフ様だって出るはずよ。」


ミーナの言葉に、思わず胸が高鳴る。現金だなと思いつつも、アドルフ様の騎士としての姿をこの目で見られるかもしれないという期待で、心が浮き立った。


今まで一度も、アドルフ様が剣を振るう姿を見たことがない。こんな機会、逃してなるものか。


「一緒に行こう!!」


私が勢いよく返事をすると、ミーナも嬉しそうに頷いた。


そして、あっという間に公開演習の日がやってきた。


朝早くから町はにぎわい、演習場の周辺には屋台や見物客が集まっていた。アリスはミーナと並んで歩きながら、普段とは違う華やかな雰囲気に少し緊張しつつも胸を躍らせていた。


ミーナは屋台の焼き菓子を手に、「これ美味しいよ!」とアリスに勧める。アリスは遠くの演習場を見つめながら、「アドルフ様、もう来てるかな……」と心の中でそわそわしていた。


観客席に着くと、アリスは「アドルフ様の姿、見つけられるかな」と目を凝らす。


演習場に騎士たちが次々と現れ始めると、ミーナは身を乗り出して観客席の前方を見つめた。


「アリス、見て!あそこ、あそこ!」


ミーナが指さした先には、銀色の髪と狼の耳が特徴的なゼノンが、堂々とした足取りで入場してくる姿があった。


「本物のゼノン様だ……!」


ミーナは目を輝かせ、手を胸の前でぎゅっと握りしめる。「やっぱりかっこいい……!!」周囲からも黄色い声援が飛び交うが、ゼノンはまるで気に留める様子もなく、静かに前だけを見据えている。


アリスはその様子を微笑ましく見守る。ミーナは興奮を抑えきれず、「ゼノン様、こっち向いてー!」と小さく手を振るが、ゼノンは観客席に目を向けることはない。


(比べるなんてダメだけど、やっぱりアドルフ様の勝ちだな)とアリスは心の中でそっと思う。キョロキョロとアドルフを探していると、入り口から彼が現れるのが見えた。


うわぁ、うわぁうわぁ!!


黒と金の縞模様の髪が額から後頭部にかけてなびき、鋭い琥珀色の瞳が鎧の隙間から光っている。肩や胸部には部隊の紋章が刺繍された深緑色の軽量鎧を身にまとい、筋肉質な腕や広い肩が鎧越しにもはっきりと分かる。太くてしなやかな尻尾は、騎士服の背中の開口部からゆっくりと揺れている。


格好良過ぎて目が離せない。いつもと違う凛々しい姿に、胸の高鳴りが抑えられない。顔に熱が集まっていく。


「格好よすぎ、あんなのみんな惚れちゃうよ……」


ぽつりと呟くと、ミーナは呆れたように私を見た。


「それはないから安心して。相変わらず顔怖過ぎ、ムキムキすぎ、威圧感あり過ぎ。」


そこがいいんだけどなぁ、とため息をつく。


やがて、試合開始の合図が響く。一対一の勝ち抜き戦。場内の空気が一気に引き締まった。


アドルフがゆっくりと試合場の中央に歩み出ると、観客席からどよめきが起こった。深緑色の騎士服が筋肉質な体にぴたりと馴染み、尻尾が静かに揺れている。


対戦相手は一瞬ひるむが、気を取り直して剣を構える。アドルフは低く構え、鋭い琥珀色の瞳で相手を見据えた。


開始の合図と同時に、アドルフは地を蹴って一気に間合いを詰める。重厚な一撃が相手の剣を弾き飛ばし、続けざまに素早い身のこなしで背後に回り込む。その動きは獣のようにしなやかで、力強さと俊敏さが見事に融合していた。


相手が反撃しようとするが、アドルフは冷静にかわし、隙を突いて剣の柄で相手の腕を制する。観客席からは驚きと称賛の声が上がった。


最後は、相手の動きを完全に封じた上で、優雅に勝利の一礼をするアドルフ。その威圧感と気品に、会場の視線が釘付けになった。


アリスは祈るように手を組み、じっと試合を見守っていた。


(どうか怪我をしませんように……!)


そんな心配をよそに、アドルフは着実に勝ち進んでいく。その姿に、アリスの胸は高鳴りと不安でいっぱいだった。


やがてゼノンもまた勝ち続け、ついに決勝戦で二人が対峙することとなった。


決勝戦の舞台に立つアドルフとゼノン。観客席は熱気に包まれ、ほとんどの声援がゼノンに向けられている。「ゼノン様!」「頑張って!」と黄色い声が飛び交い、場内は一体感に満ちていた。


アドルフは静かに剣を構え、ゼノンと向き合う。ゼノンもまた、冷静な表情でアドルフを見据えている。


開始の合図が響くと、二人は一瞬で間合いを詰め、激しい剣戟が交錯した。ゼノンの鋭い動きに観客が沸き、アドルフの力強い一撃にどよめきが起こる。


その中で、アリスだけが必死に声を張り上げた。「アドルフ様、負けないで!頑張ってー!!」


一瞬、アドルフの動きが止まり、可愛い耳がぴこぴこと動く。気のせいかもしれないけれど、絶対にありえないけれど、アリスの声が届いた気がした。


再びゼノンに向き直ると、アドルフの動きが変わった。迷いのない力強い攻撃でゼノンを追い詰め、ついに決定的な一撃を決める。


勝利の合図が響き渡ると、観客席は驚きと歓声に包まれた。アリスは涙ぐみながら拍手を送り、胸がいっぱいになる。退場するアドルフが一瞬だけこちらを見た気がした。


(気のせいかな……?)


試合が終わり、ミーナと一緒に帰ろうとしたアリスだったが、ミーナは途中で知り合いに呼び止められてしまう。「先に帰ってて!」と手を振るミーナを見送り、アリスは一人で演習場を後にすることにした。


夕暮れの静かな通路を歩いていると、突然誰かに腕を引かれ、人気のない場所へと連れ込まれる。驚いて声を上げそうになった瞬間、目の前に現れたのはアドルフだった。


「見に来るなんて聞いてない」


少し不機嫌そうな表情でアドルフが言う。なぜ怒っているのかわからず戸惑いながらも、アリスは笑顔で「お疲れ様です。すごくかっこよくて、目が離せませんでした!優勝おめでとうございます」と伝えた。


その言葉に、アドルフの表情が少し和らぐ。


「応援する声が聞こえた。」


アリスは照れたように笑う。「恥ずかしいですが、応援が届いたようで嬉しいです。」


やっぱり聞こえてた。そうわかると、飛び跳ねたいほど嬉しかった。


「周りはゼノンを応援してたが、あー、お前は俺を応援してくれたんだな。」


「もちろんです!!」


アドルフは微妙な顔をした。「ゼノンは格好いいだろ?なのになんで」


「アドルフ様には敵いません!アドルフ様が1番格好良かったです!!」


本心だ。誰よりも格好良かった。惚れ直した。



私の言葉に照れたのか、アドルフは顔を背けてしまうが、尻尾はとても嬉しそうに揺れていた。


「……本当に、俺の応援してくれてたんだな」


「はい!アドルフ様のこと、ずっと見てました」


アドルフは少し照れたように視線を逸らす。


「……お前、他の騎士とか、気になったりしないのか?」


「え?全然。アドルフ様だけです。今日の試合も、アドルフ様が一番素敵でした」


アドルフは小さく息をつき、安心したように微笑む。


「……そっか。なら、よかった」


胸がぎゅーっと締め付けられる。この人は一体私をどうしたいんだろう。好き過ぎて悶え苦しんでいる私に気づいているだろうか。


「送る」


ぶっきらぼうにそう言って歩き出すアドルフを、慌てて追いかける。


好きが募っていく。困ったなぁ。この想い、どこにいくのかな。


夕日に伸びた影が並んで歩いている。幸せを噛み締めながらそれを眺めていると、手にふわふわしたものが巻き付いた。びっくりして体が跳ねる。


「嫌か?」


恐る恐る尋ねられる。私に触れたら壊してしまうとでも思っているような、気遣う声。


「嬉し過ぎて死にそうです」


私は満面の笑みを浮かべて、そっと尻尾を撫でた。


「そうかよ」


それ以上の言葉はなかった。ただ静かに二人並んで歩く。その時間がたまらなく愛おしかった。

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