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強面虎獣人と甘い恋  作者: Latte


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4

昼休憩に入ると、アリスは昨日と同じように差し入れを持ってそっと厨房を抜け出し、書庫へと向かった。心臓が早鐘のように鳴り、手のひらにはじんわり汗がにじむ。昨日の告白が頭を離れず、不安で押しつぶされそうになる。


書庫の扉を静かに開けると、昼下がりの柔らかな光が本棚の間に差し込んでいた。奥の窓際には、アドルフが静かに本を読んでいる。アリスは一瞬立ち止まり、深呼吸してからそっと近づく。


「……アドルフ様、こんにちは」


アドルフは本から顔を上げ、少し驚いたようにアリスを見つめる。昨日の余韻がまだ残っているのか、二人の間に静かな緊張が漂う。


「……もう来ないと思った。」

「来ない方が良かったでしょうか?」


可愛くない言い方をしてしまった。でも他に言葉が見つからなかった。


「いや、そんなことはない。ただ、俺といてもお前に得はないはずだ。」


まただ。また自分を卑下する。昨日の私の好意は届いていないようだ。


「好きです。私はアドルフ様のそばにいるだけで幸せになれます。これ以上の得はありません。」


はっきりと言い切る。顔に熱が上がっていくけれどまっすぐアドルフを見つめて伝える。すると、ふいっと顔を逸らされる。


「なんで、どこが。話したこともほとんどないくせに」


逸らされたことはショックだが、ぴょこぴょこ動く耳が可愛くて思わず顔が緩んでしまう。


「ぶっちゃけ顔です。最初に少しだけ微笑んでくれた顔に惚れました。」


「ぶっ!!」


正直に言うとアドルフは吹き出した。


「お前目が悪いのか?」

「田舎育ちなので視力には自信があります。」

「じゃあ頭か?」

「正常です。」


アドルフの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。獣人でも赤くなるんだなぁとまじまじと見てしまう。


「み、みるな!!」


そう言って顔を隠してしまう。しかし尻尾が可愛らしくゆらゆらと揺れている。誘惑されている。触りたい。


「颯爽と現れてスリを捕まえてくれたのも格好良かったです。私を怖がらせないように触れないように財布を渡してくれたのも、食堂で周りの人を怯えさせないようにここで過ごす優しさも、今知ってる部分全部好きです。不敬を覚悟でお伝えしますが、アドルフ様が伯爵家の人間でなければ良かったのにとさえ思いました。そしたら私にもまだ希望があったかもしれないのに。いや、ダメですね。こんなに素敵すぎるアドルフ様とどうにかなりたいなどと烏滸がましすぎ」


「もうやめろ!!・・・やめてくれ」


顔を真っ赤にしたアドルフ様と目が合う。きらきらの琥珀色。お星様の色。


「やっと目が合った・・・」


嬉しくて嬉しくて笑みが溢れてしまう。


「ご、ごめ」


謝りながらアドルフ様が身体を引く。私は慌てて手を掴んでしまった。


「嬉しかったんです!」


私の気持ちが間違いなく届くといい。この人にはまっすぐ伝えないと伝わらない。


アドルフが顔を真っ赤にして視線を逸らし、尻尾をゆらゆらと揺らしている。その動きはどこか落ち着きがなく、恥ずかしさや戸惑いが伝わってくる。


アリスはその様子を見て、胸がきゅんと締め付けられる。ふわふわとした毛並み、感情がそのまま表れるような尻尾の動き――思わず手を伸ばしたくなる衝動に駆られる。


(ああ、触ってみたい……どんな手触りなんだろう。怒られるかな、でも、すごく可愛い……)


アリスは自分の手が勝手に動きそうになるのを必死で抑えながら、ちらりとアドルフの尻尾に視線を送る。アドルフはそれに気づいたのか、さらに尻尾を隠すように身体をずらした。


「……そんなに見るな」


アリスは慌てて視線を逸らすが、心の中では尻尾への好奇心が膨らむばかりだった。


かっこいいのに可愛いなんてずるい。なんでこの人はこんなにも魅力的なんだろう。


「お前の気持ちはわかった。疑って悪かった。」


アドルフは赤い顔のまま、どこかバツが悪そうに視線を落としながら謝った。


「いえ、伝わって良かったです。あの、アドルフ様、大変烏滸がましいお願いだとはわかっているのですが、これから昼休憩に差し入れに来てもいいでしょうか?食事はしっかりとった方がいいですし、心配ですし、会いたいですし、少しでも顔見たいですし、話したいですし……」


一気に本音が溢れ出す。アドルフは呆れたように小さくため息をついた。


「最初の頃と違って本音がダダ漏れだな」


「アドルフ様相手に本音を隠す意味がないとわかりました。」


「少しは隠してくれ……」


アドルフは恥ずかしさに耐えきれず、降参と言わんばかりに項垂れる。


「アドルフ様に特定の相手ができるまででいいんです。恋人ができたらさっぱり……できるかは分かりませんが離れます!迷惑かけません。好きでいさせてください」


後半は涙声になってしまい、沈黙が苦しくて逃げ出したくなる。


「わかった。お前の趣味嗜好は理解できないが、今は特定の相手もいないし構わない。」


その言葉に、今度こそ涙が溢れて止まらない。


「な、なんで泣くんだよ!?」


アドルフの慌てた声とともに、乱暴に袖口で涙を拭かれる。貴族なのにハンカチで拭くとかじゃないんだ。そんな女慣れしていない彼の不器用な優しさに、また一つ彼を好きになる。


「嬉しいんです、例え一時でもアドルフ様のそばにいられることが泣くほど嬉しいんです。」


「そうかよ」


ぶっきらぼうにそう言ってそっぽを向くが、ふわふわの尻尾がそっとアリスの手に巻きつく。まるで宥めるように、優しく。


やっぱり、優しい。


その後、アリスはアドルフかに差し入れの包みを渡し、名残惜しさを胸に書庫を後にした。


書庫の扉を静かに閉めると、アリスはしばらくその場に立ち尽くした。胸の奥がじんわりと温かく、涙の跡がまだ頬に残っている。


(夢みたい……本当に、アドルフ様のそばにいられるんだ)


嬉しさと安堵、そして少しの信じられなさが入り混じり、心がふわふわと浮かぶようだった。袖でそっと涙を拭い、深呼吸をひとつ。


(泣いちゃったけど、ちゃんと伝わった。これからも会える……!)


足取りは自然と軽くなり、思わず小さく跳ねるように廊下を歩き出す。厨房へ戻る途中、窓から差し込む光がやけに眩しく感じられた。


(明日も、明後日も、アドルフ様に会いに行こう。もっとたくさん話したい。もっと、知りたい……)


アリスの胸には、希望と新しい日々への期待がいっぱいに広がっていた。


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