9 sideアドルフ
アドルフの耳はアリスのささやきや息遣いに敏感に反応し、時折ピクリと動いてしまう。アリスの溢れる微笑みに胸を鷲掴みされる。
アドルフの尻尾は、アリスの腰にそっと巻きついて離れない。どうかずっと俺の隣にいてくれ。それ以上は望まないから。
アドルフはアリスの頬に鼻先を寄せ、優しくすり寄る。アリスはそれに応えるように微笑みながらアドルフの頬に触れた。柔らかい手をそっと握り返す。
「余裕そうだな、俺は自分の理性を抑えてお前をめちゃくちゃにしないように必死なのに」
「あっ、ご、ごめんなさい」
謝られても独占欲を止められない。首筋にカプリと噛み付く。このまま俺のものだという証をつけてしまいたい。
「全部食い尽くしてやるからな。隅から隅まで」
そう断言しつつもアリスが嫌がっていないか不安になる。怯えていないか伺うようにアリスを見る。
「大丈夫ですよ、アドルフ様になら何をされても怖くない」
健気な言葉と共にぎゅっと首に腕を回され、アドルフの理性は吹き飛んだ。
「お前・・・俺が必死なのに、もう知らないからな!!」
アドルフは起き上がり自分の衣服も脱ぎ捨て、アリスの服を全て剥ぎとった。
月明かりに照らされて、アリスの神々しい姿が浮かび上がる。シーツの上に広がるとミルクティー色のふわふわな髪、白い肌に細くくびれた腰、俺の掌からこぼれるほど大きな胸。
着痩せするタイプだったのか・・・
「もう離してなんてやれない。お前は俺のだ」
「はい、私の全て貴方のものです」
「・・・アルと呼んでくれ」
「アル様」
「アルでいい。」
「アル、愛してます。大丈夫ですよ。貴方に与えられるなら痛みだって愛しいです。」
アドルフの目頭が熱くなった。幸せで幸せで、どうにかなってしまいそうだった。死ぬのなら、今この瞬間で時を止めてほしい。そう強く願うほど全てが完璧だった。
優しくほぐすようにアリスの体の隅まで味わい、アドルフの指に翻弄されるがままに揺れるアリスの体が可愛くて愛おしかった。
はじめてだったが、今まで生きてきた中で1番素晴らしい時間だった。
もうしわけないとはおもいつつ何度も何度も求めてしまった。乾き切った身体を潤すのに一回ではどうしても足りなかった。
騎士の俺の体力とアリスの体力は雲泥の差があり、気づいたらアリスが気を失っていた。
アドルフは慌ててアリスの身を清め、シーツを整えた。
離れ難く、くっついて眠る。起きたら全て夢だったなんてことになったら立ち直れない。たとえ夢であろうと離すものかという思いを込めてアリスを腕に抱いた。
明け方になり、アリスが身じろぎをした。ホッとするとともに愛おしさで胸がいっぱいになっているとアリスがアドルフの胸に顔を埋めてすりすりしてきた。な、なんだこの生き物は・・・俺を試しているのか?
「朝からこいつは、俺を狂わせる気かよ」
アリスは目覚める気配なく、ふふっと小さく可愛らしく笑った。
起きたら覚えてろよ・・・。
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アリスが寝ている間、俺は急いで王宮へ向かった。蜜月休暇の申請をしなければならない。離れ難い、離れ難いが、心置きなく巣に篭るためには必要なことだ。自分に言い聞かせながら王宮へ向かい、騎士団の執務室に直行する。今日の夜勤はゼノンだったはずだ。
蹴破る勢いでドアを開けると、ゼノンが飛び起きた。「うおっ!何があった!?」「これ、申請しておいてくれ」理解できていないゼノンにアリスと俺の分の書類を押し付ける。「はっ?お前、なんだこれ?急に押し付けやがって。蜜月休暇申請書?」ゼノンは大きく目を見開き、ジトっと睨んだ。「攫って監禁してるわけじゃないよな?俺に友を捕まえさせるようなことするなよ?」「してねぇ!同意の上だ!」ゼノンは明らかにホッとした顔をした。「じゃ、頼んだ」「お、おい待て!!」
引き止めようとするゼノンを振り切り、走って邸に戻る。すれ違う奴らが何事かとギョッとした顔で見てくるが、なりふり構っていられない。早くアリスの元へ戻らなければ。
アリスを起こさないよう、そっと扉を開ける。どうかアリスが逃げていませんように、夢じゃありませんようにと祈るような気持ちで部屋に入ると、ベッドの上でシーツにくるまり、スヤスヤと眠るアリスがいた。胸の中が暖かいもので満たされていく。俺の唯一……。
アリスを起こさないように慎重に布団に入り、そっとアリスを抱きしめる。規則的なアリスの呼吸が安心感を与えてくれる。そして、いつの間にかうとうとと眠りに落ちた。
再び意識が浮上したとき、目の前にはアリスがいた。スヤスヤと眠る姿に、胸の奥がじんわりと温かくなる。どのくらい見つめていただろう。アリスのまつ毛がぴくりと動き、ゆっくりと瞼が持ち上がった。ぼんやりとした瞳のままアリスがそっと手を伸ばし、俺の頬に触れる。その仕草があまりにも優しくて、思わず喉が鳴った。
「やっぱりかっこいいなぁ……」
思わず笑いがこみ上げる。アリスは本当に俺の顔が好きらしい。変なやつだけど、俺は幸運だな。からかうように「アリスは本当に俺の顔が好きなのな」と言うと、彼女はガバッと起き上がり、慌ててシーツにくるまる。その姿が可愛くて、つい微笑んでしまう。
「おはよう」
額にキスを落とすと、アリスは夢か現実か分からないような顔で俺を見つめる。「……アドルフ様、おはようございます」「アルだ。」「……アル、おはようございます」
その返事に満足して頷く。部屋を見渡すアリスの顔がどんどん赤くなっていく。外はすっかり明るい。アリスが「し、仕事!!」と慌てるのを、俺は優しく撫でて落ち着かせる。
「大丈夫だ。蜜月休暇を申請してきたから。」
アリスは首を傾げる。俺はこの国の制度について説明する。「番を得た獣人はマーキングが終わるまで番を外に出さない。だから国の制度として2ヶ月の蜜月休暇がある。」
たっぷりお前との時間がある。ゆっくり確実に俺のものだと刻みつけてやる。獲物を狙う肉食獣のようなことを考えていると、くぅぅぅと可愛らしい音が聞こえてきた。
アリスのお腹が鳴ると、思わず笑ってしまう。顔を真っ赤にして隠れるアリスを抱き上げ、ソファに座らせて着替えを手伝う。恥ずかしがるアリスに「番いにつくすのはオスの本能だ。俺は嬉しい」と囁くと、彼女はさらに顔を赤くする。
食事を終え、アリスが俺の膝の上でお茶を飲んでいるとき、婚姻届を差し出した。「これは?」「婚姻届」
アリスが「結婚するんですか?」と驚く。俺は軽くアリスを睨みつけてしまう。「する、しないなんて言わせない。俺はもうお前なしじゃ生きられないんだ。逃げるなんて許さない」
アリスは慌てて「逃げようなんて思ってません!!」と訂正する。身分差を気にするアリスに「爵位なんて意味はない。俺は三男だし、番を見つけたら番が最優先だ」と伝える。アリスが「アルが私の旦那様になるんですね」と微笑むと、俺は思わず肩口に顔を埋めて照れ隠しをした。誰か、この可愛い生き物をどうにかしてくれ……おかしくなってしまいそうだ。
「お前はまたそんな可愛いことを言って俺を誘って……俺の方がおかしくなりそうだ」
そう言いながら、アリスを抱き上げて再びベッドへ戻る。アリスがベッドから出られるようになるのは、まだしばらく先の話だった。
婚姻届を提出した後、正式に夫婦となった。蜜月休暇の残りを二人でゆったりと過ごす。
アリス、悪いがもうお前を離すつもりはない。
大事にする。大事にするからずっと隣にいてくれ。
お前を最後まで愛し抜くと誓うから……。
孤独だった虎は自分の巣の中に唯一の番を囲い込み、仄暗い執着心と重く甘い愛を囁き続ける。




