第六十六話 魔王陥落
エルシーは何故か究極級魔法は使用せずに特級魔法までしか使っていない。
「どうしたんだホロ?魔王って言うのはその程度の力しか無いのか?」
「本当に五月蠅い小娘ね。私が貴女如きに本気になるとでも?まあ、それなりに出来るみたいだし、これぐらいは見せてあげるわ」
『鬼人化』
サイズこそ変わらないが、ホロの全身がピンク色に染まり髪の毛は紅く変色した。
角も先ほどより大きくなり、ホロから発せられるプレッシャーも増していた。
「私が鬼人化を使う事なんて滅多に無いですよ。誇って良いので、悦びながら死になさい」
「ただの鬼人化ぐらいで何を言ってるんだ?私も少し本気を出すぞ」
『雷神』
エルシーが魔法を発動すると、エルシーの全身からバチバチと音が鳴った。
エルシーの周りで、常に電気が発生しそれが視認出来るほどだ。
「初めて見る魔法ね。でもそれがどうしたの?ただの電気で私に対抗するつもり?」
「この魔法の最大の特徴はスピードだ!私のスピードについて来れるか?」
エルシーが少し跳躍したかと思うと、その次の瞬間にはその場に電気を置き去り姿が消えた。
その速度は目で追う事も出来ず、その場にいる者でエルシーの動きを視認出来たのはリンネだけだった。
「!!どこに行った小娘!」
「全然見えてないんだな!とりあえず一発ぶん殴るからな!」
ホロは後ろからエルシーの声が聞こえ振り向こうとするが、それよりも早く背中に激痛が走った。
エルシーは目にも止まらない速度で移動してホロの背中をぶん殴ったのだ。
「やっぱり魔王ってのはその程度なのか?ママに比べたら全然だな」
「ぐはっ!この小娘が!なめくさりおって!もお許さんぞ!」
『鬼神化』
ホロの身体から白いオーラが発生した。
次の瞬間、ホロは一瞬でエルシーの目の前まで移動し、エルシーの腹をぶん殴った。
突然の変化に対応が遅れ、エルシーはその一撃をもろに食らってしまった。
「ぐっ!なんだ!やっぱり魔王ならそうじゃないとな!もお私も油断はしないからな!」
そう言ってエルシーが全力で移動を開始すると、それに合わせホロも全力で移動を始めた。
時折衝撃波のようなものが発生しているが、その動き自体はリンネ以外には見えていない。
しかし、速度は同じながらも強度はホロの方が上のようで、徐々にエルシーが削られていった。
「生意気な口を叩いていたがその程度か小娘!その動きにも慣れてきたし、そろそろ終わらせてやるよ!」
「やっぱり、ママに比べると全然だな。でも、私もお前程度に本気を出さないと勝てないなんてまだまだだな」
「減らず口が!まだ本気を出していないだと?ホラを吹くのも大概にしな!」
「何とでも言ってるがいいさ。じゃあ行くぞ」
『炎神』(右手)
『大地神』(左手)
『血液操作』
エルシーは雷神に加え、さらに三つの魔法を発動した。
それにより攻撃力は各段に増し、移動速度もさらに上昇した。
「何だい!身体強化系魔法を同時に複数発動したのか!」
ホロがエルシーの変化を察するも、次の瞬間にはホロの腹部にエルシーの連打がぶつけられた。
その連打でホロは数十メートルと吹き飛び、意識が刈り取られたのだ。
「っは!…何で私が縄で縛られてるんだい?…私はエヴァ・スカーレットの娘に負けたのかい?」
「やっと気づいたか!ママの血を分けてもらう前なら全然勝てなかっただろうが、力を増した私にかかればこんなもんだな!」
「チッ!この縄を解きな!私は魔王、魔王ホロだぞ!こんなことをして許されると思うなよ!」
「五月蠅いなー。おいリンネ、この後はどうするんだ?」
「どうするって聞かれてもな」
「エルシーさん、リンネさん。ホロさんの事は私に任せてもらっても良いですか?」
「難しい事は私にはわからんから、リフレに任せるぞ」
「まあ、この件に関してはリフレに一任されてるんだよな。じゃあリフレに任せるさ」
「ありがとうございます。では、これから少しホロさんと二人で話をさせていただきますね」
『木の家』
『無音空間』
リフレはホロを連れて、リフレの作り出した木の家の中に入っていった。
木の家の周りは無音空間で覆われて、中で何が行われているのかは全く聞こえて来ない。
そして、リフレとホロが中に入って一時間ほどすると、リフレと拘束を解かれたホロが出てきた。
リフレは相も変わらずいつもの涼しい笑顔だが、ホロはこの一時間でずいぶんとやつれてしまったようだ。
「なあリフレ、何をしたらホロがあんなふうになるんだ?」
「さあ?何か怖いものでも見たんでしょうかね?それより、ホロさんと平和条約を結びましたよ。これで魔人領から人類への侵略は無くなりますよ。良いですよね、ホロさん?」
「はい!リフレの姐御に従います!!私たちは今後、人類への侵略は致しません!」
「なあリフレ、本当に何をしたんだ?」
「えっと、知りたいですか?」
リフレは終始笑顔を絶やさず、いつも通りの口調で聞いて来る。
「まあそうだな、結局報告もするだろうし、教えておいてくれないか」
「そうですか。ですけど私は何もしていませんよ。ホロさんの拘束を解いたので、その時点でホロさんが私を殺しに来ました。なので、私は笑顔でその全てを受け止めましたよ」
「意味が分からないんだが」
「私の身代人形は覚えていますよね?クロエさんに頼んで旅の前に大容量アイテムボックスを作ってもらったんですよ。そのアイテムボックスに身代人形を約1万個ほど保管してあるんですよ。なので、ホロさんがいくら私を殺しても、身代人形が一つ消滅するだけなんですよ」
「つまりは、目の前にいる人間を何回殺しても死なないと。しかも、その人間が終始涼しい笑顔でいると。ああ、トラウマになりそうだな…」
「失礼ですよリンネさん。私は怖がられない様に笑顔を絶やさなかっただけですよ」
「ああ、そうだな。悪かったな、リフレ」
何を言っても、その涼しい笑顔を崩さないリフレに、リンネも恐怖を感じながらも、それ以上は言ってはダメだと全身に警告があったので、リフレは曖昧な答えでその場を終わらせることにした。
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