act2
夢の中
闇の中に、大小様々な鏡がある。
そのまん中に腰掛けている学生服の少女…幸恵。
幸恵「私は幸恵。今、15才…中学2年生です。
でも、もう2ヶ月くらい学校に行ってません。
学校になんか行きたくないです。だってみんながいじめるから…
靴を隠されたり、教科書をボロボロにされたりして…とても辛いんです。
…このことを父さんに相談したら、父さんはこう言いました。
『いじめられるのは、お前が言い返せないから悪いんだ。恭子なら嫌なこと
は嫌とはっきり言うだろう。堂々としていれば、いじめなんてなくなるもの
だ』
そして、最後にお決まりの文句を言いました。
『どうして、恭子のようにしっかりできないんだ?』
…そう、みんな私が悪いんです。弱虫で何も言い返せない私が悪いんです」
鏡の中に一人の少女…恭子が現れる。
恭子「幸恵、あなたはまた学校を休んだのね」
うつろな目で恭子を見る幸恵。
しかし何も答えない。
恭子「ねえ、幸恵、母さん毎日泣いてるのよ。
いつまでそうやって部屋に閉じこもっているつもり?
逃げたって何も解決しないの!
しっかりしなさいよ、幸恵!」
幸恵、立ち上がると、恭子の映っている鏡にむかって椅子をぶつける。
粉々にくだけ散る恭子…
幸恵、くだけ散った破片を足で踏みにじりながら、
幸恵「あんたなんかに何が分かるって言うのよ。
私は生まれてからずっとあなたの引き立て役だったのよ。
あなたが、光なら私はこの鏡に映る虚像みたいなもの。
……私にできるのは、鏡の中から幸せそうなあなたを見ている事だけ…
あなたがいる限り、私は永久に光の中に出る事はできない。
幸せなあなたに一体何が分かるって言うのよ!」
ボーという汽笛の音。
ふっと目覚める彼女。
そこは電車の中。額の汗を拭く彼女。
「夢…?」
やがて、アナウンスがながれて電車が停まる。
座席を立ち電車を降りる彼女、改札を抜けて駅の外に出る。
× × ×
日が暮れひっそりと静まり返った団地。
その一角の白い家の前に青年が立っている。
そこへ帰って来る彼女。
ケンジを見つけると、嬉しそうに笑って駆け寄る。
「ただいま、ケンジ。お葬式の準備はできた?
…心配かけてごめんね。びっくりしたでしょう? 幸恵が死ぬなんて…。
その前に幸恵が私の姉さんだったって事で驚いたかしら?
あなたの言っていたとおり、幸恵は私の姉さんだったの。
嘘ついててごめんね。あんな人が私の姉だなんて知られたくなかったの。
…そんな顔しないで。悪かったと思ってる。
…だけど、まさか幸恵が殺されるなんて思わなかったわ。
でも、これでいいのよ。
生きていたって、幸せになんかなれっこない人だったもの。
…犯人? さあ、誰かしら? 知らないわ。
…それより、あの人の為に祈ってあげて。
あなたがそうしてあげる事が、一番の供養になるはずよ。
…あの人ね、あなたの事が好きだったの。本当に好きだったの。
でも、見てる事しかできなかったの。可哀想すぎて笑っちゃうわ。
滑稽だと思わない?
…ああ、ごめんなさい。死んだ人にたいしてこんな事を言うもんじゃないわ
ね」
そこに、二人の女がやって来てケンジに挨拶する。
それから、『彼女』を見て驚く。
親しげに二人に声をかける彼女
「アヤカに…ミユキ…!
幸恵のお葬式に来てくれたのよね。
喜ぶわ。幸恵には友達なんていなかったから、とても寂しいお葬式になると
ころだったの。
…あら、なに? その顔は。ああ、そうか。二人とも幸恵の事知らなかった
もんね…。
そうよ、私には姉さんが居たの。
かくしててごめんね。
あまりにもみっともない人だから知られたくなかったの。
それより、みんな中に入って。
こんなところに居たら、風邪をひいちゃうわ」
玄関をあける彼女、そこに両親が立っている。
母親は涙をポロポロと流している
「お父さん、お母さんただいま。みんなが来てくれたのよ。
お葬式の準備はできてる?
…ああ、お母さんそんなに泣かないで。
幸恵が死んだのは悲しいけど、私が居るじゃない。
幸恵の事なんか今日限り忘れましょう。幸恵なんて…あんな子、生きてたって仕方ないのよ。
父さんだって言ったじゃない。私達二人もいらないって。
…? なあに? その目は。どうしてそんな哀しそうな目で私を見るの?
…え? なんですって?
私は恭子じゃない?
…何を言ってるの? じゃあ私は誰だって言うの?
…幸恵ですって!! 冗談はよして、私があのみじめな幸恵ですって?
…ええ、確かに私は通り魔に襲われた事があるわ。中学の時のことよね。
あれはね、幸恵がやったのよ…これは、私と幸恵だけの秘密…
でも、その通り魔がどうしたって言うの?…
え? 恭子の腕にはその時の傷が残っている筈ですって…?
私の腕に傷なんて…傷なんて
…ないわ!」
ワナワナとふるえ出す彼女
「じゃあ、私は本当に幸恵なの?
嫌よ! 信じない!…私は恭子よ…」
家を飛び出す彼女、公園の横を通り尾路地裏を抜けどこまでも走って
いく。
やがて大通りに出た時、突然ヘッドライトが…!
目が眩む彼女。
キキーと言うタイヤの音。
遠のく彼女の意識…




