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転生小説家は異世界でも執筆スローライフを謳歌する  作者: 藤白ぺるか@4/24『完全解呪のプリースト』1巻発売


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第5話 小説家はアパートに入居する②

 残る二つの部屋。

 俺は少し警戒しながら、ジェイミーさんの隣の部屋のベルを鳴らした。


「んん……誰ぇ……?」


 この人もハックさんと同類だろうか。

 もう昼だというのに、どうやら寝起きらしい。


 現れたのは、俺とほとんど同年代に見える少女だった。

 眠そうに目をこすりながら出てきた彼女は、癖のある長い赤髪が印象的で、パジャマ姿のままだった。

 男の俺の前にそんな格好で出てきて大丈夫なんだろうか。


「初めまして。今日からこのアパートに引っ越してきた――」

「って、ええええっ!? 男の子〜〜〜〜っ!? ちょ、ちょっと待って! 待ってぇぇぇぇ〜〜〜っ!!」


 俺が男だと認識した瞬間、顔を真っ赤にして部屋へ飛び込んでいった。


 それから十分ほど待たされた後、ようやく彼女が再び姿を現した。

 どうやら急いで着替え、髪だけ整えてきたらしい。メイクまではしていないようだった。


「あはは……寝ぼけてた」

「大丈夫です。急な訪問でしたし――では改めて。今日から引っ越してきたシャルロック・ドイルです」

「えっ、シャルロック!?」

「はい、シャルロックですが……?」


 名前に何か引っかかるものでもあったのだろうか。

 この世界では珍しい名前だったりするのか?

 いや、ドイル領の学校では特に何も言われなかったし、そこまで変わった名前じゃないはずだ。


「私、シャルロッテっていうの! ほら、名前が似てる! これって運命的じゃない!?」

「確かに似ていますね。もしかして愛称は『シャル』ですか?」

「それがさー、向かいの子――同級生なんだけどね、普通ならシャルなのにシャーリーって呼ぶのよ。それが家族にまで浸透しちゃって、今じゃみんなシャーリー呼び」

「へえ……シャーリーですか」

「うん! だから私のことはシャーリーでいいよ! 私はシャルって呼ぶから!」

「えっと……はい」


 なかなか距離の詰め方が早いタイプらしい。

 というか、さっき同級生と言っていたな。

 若い年齢からも考えられるのは――


「あの、もしかして学生なんですか?」

「そうだよ! 王都の魔法大学に通ってるの! 将来は研究者になりたくて!」

「研究者ですか……素晴らしいですね」


 魔法と言っても色々ある。

 戦闘に使う魔法もあれば、生活を便利にするものだってある。


 研究者なら、新しい魔法を生み出したりもするのだろうか。

 よく見ると、部屋の中には瓶のようなものがいくつも並んでいた。

 もしかすると、魔法薬みたいなものを研究しているのかもしれない。


「あ、渡すの忘れてました。こちら、ご挨拶の品です」

「ええー!? 嬉しい! シャルくん出来る子〜! しかもよく見たらなかなかのイケメンだし!」


 なんとも明るい子だった。

 シャルロッテか……まあ一応、聞いておこう。


「あの、シャーリーさんの家名って何ですか?」

「私の? 私はシャルロッテ・ホームズ! 綺麗な響きでしょー!」

「…………ソウデスネ」


 もう驚かない。

 絶対に驚かないぞ。

 俺は深呼吸し、息を整えた。


「せっかくだから、向かいの子も紹介してあげる! ちょっとー! お客さんだよー! 出てきなさーい!」


 シャーリーがベルを連打し始めた。

 めちゃくちゃ迷惑な鳴らし方だった。


「ちょっとシャーリー!! うるさいのよ、このバカ!!」

「バカって何よ! そっちこそバカじゃない!」

「わざわざそれ言いに来たの!?」

「違うって! この子、新しく引っ越してきたんだって! 挨拶しなさいよ!」

「ん……」


 怒りながら出てきたのは、青髪のロングボブの少女だった。

 こちらはちゃんと身なりが整っている。

 貴族ではなさそうだが、どこか上品な雰囲気があった。


 シャーリーとは正反対のタイプに見える。

 だからこそ、こうしてよくぶつかるのかもしれない。


「初めまして。今日から引っ越してきたシャルロック・ドイルです。こちら、ご挨拶です」

「あら……シャーリーと違って丁寧な子じゃない。ふふ、好青年って感じで、私結構好みかも」


 おっ。

 この子だけは俺を少年じゃなく青年扱いしてくれた。


「ちょっとミア! いきなり何言ってるのよ!」

「ふふ、ごめんごめん。えっと、シャルくん? シャーリーと名前似てるのね」

「はい、そうみたいです」


 青年とは言ってくれたが、結局呼び方は『シャルくん』らしい。

 やっぱり年下扱いか。

 そして、俺は聞かなければならない。


「あの、ミアさんでしたよね。よければ家名も教えてもらえますか?」

「――私はミア・ワトソンよ。ちなみにシャルくんは何歳?」

「…………」


 ホームズにワトソンまで出てきた。

 しかもこのアパートにはジャック・ザ・リッパーにモリアーティまでいる。


 いや、本人じゃないのはわかってる。

 でも俺にはどうしても、この住人たちが事件に関わる人物たちにしか思えなかった。


「……シャルくん?」

「あ、すみません。僕は十八歳です。お二人は?」

「私たちは十九歳。魔法大学の二年生になったばかりよ。一歳だけ私たちが上ね」


 一歳差は地味に大きい。

 まあ年下らしくしていた方が可愛がられそうではある。


「ミアさんも魔法大学なんですよね。何を研究してるんですか?」

「私は研究っていうよりモノづくりかな。将来、建築士になりたいの」

「建築士……?」


 魔法大学と建築士。

 あまり結びつかない。


「魔道具の建物版って感じかしら。この国ってまだ魔法が使われた便利な建物が少ないのよ。王城の結界とか、建物を補強する魔法とかはあるけどね」

「へえ……」

「だから私が発明するの。新しい技術を作って、この国、初の魔法建築士になるんだから」

「魔法建築士……素敵な響きですね」

「わかってるー! シャルくんこそ素敵っ!」

「わぷっ!?」


 褒められたことが嬉しかったのか、ミアが俺を抱き寄せてその膨らみに顔をうずめさせた。

 柔らかい弾力ととっても良い匂い。

 姉は小さい頃から一緒だったので、いくら抱きつかれても異性とは感じなかったが、ミアの場合はどうしても異性に思えてしまう。


「あー! ミアがセクハラしてるー!」

「セクハラじゃないわよ。ね、シャルくん?」

「ええと……こういうのはちょっと……」

「シャルくん顔赤くなってるー。ミアの胸を堪能してるんだー」

「ふふ、可愛い」


 クソ……俺は前世含めた五十年、ずっと独身だったんだぞ。

 家族以外の女性に耐性があるわけがないじゃないか。

 普通に喋れはするが、こういうスキンシップは未だに苦手だ。


「と、ともかくですっ。これからよろしくお願いします」

「はーい。今度ご飯にでも行こうねー!」

「引っ越してきたばかりなら尚更だね。てか、歓迎パーティーしようよ。うん、それが良いよ!」

「はい。ぜひお願いします」


 明るい二人の学生と別れた後、俺は自分の部屋へと戻った。



 ボフン、と新品のベッドへダイブする。

 高級品だからか、思った以上にふかふかだった。


 ……なんだか濃い人たちばかりだった。

 挨拶しただけなのに、妙に疲れてしまった。

 これからこういう生活にも慣れていくんだろうか。


 それにしても、このアパートの住人たちは事件を起こしそうな名前ばかりだ。

 だが、それだけじゃない気もする。


 ファッション、魔道具、魔法薬、建築。

 まるでゼロから何かを生み出すクリエイターたちが集まっているみたいだった。


 もしかすると、俺がこのアパートに引き寄せられたのも、小説家だからなのかもしれない。

 思うのは、事件だけは簡便だということだ。

 ただ、それに巻き込まれたりしたら、小説のネタになる――そう思わずにはいられなかった。







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