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転生小説家は異世界でも執筆スローライフを謳歌する  作者: 藤白ぺるか@4/24『完全解呪のプリースト』1巻発売


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第19話 小説家は事件を調査する①

「アリサ……気持ちはわかるけど、そういうのはやめてくれ。警察隊も動いてるんだから任せれば良い」

「そんなことできないわ! だって、アシド・ロー様の名を汚す行為なのよ? こんなの居ても立っても居られないじゃない!」

「アリサは長く小説家としてやっていきたいんだろう? なら、危険なことをすべきではない。もしアリサの身になにかあったら、家族だって心配する。俺だってそうだ」

「シャルロック……」


 アシドリアンではあるアリサなら、一人で犯人を捕まえようと奔走するかもしれない。

 しかし、本当に犯人と遭遇してしまった時、アリサがその被害者になるかもしれないのだ。


「あなたって、本当に私のことが好きなのね」

「お前なぁ……」


 毎度のことだが、面倒くさい解釈はやめてくれ。

 自分に自信があるのはいいことだが、俺は別に恋愛感情があるわけじゃないだから。


「ふふ、恥ずかしがらなくたって良いのよ。――でも、シャルロックがそう言うんだもの。危険なことはしないわ」

「……そう言ってもらえて良かったよ」

「ええ――それじゃあ私は行くわ」

「ああ、またな」


 なんとか説得することができたのか、アリサは俺の言う事を聞いてくれたようだ。

 彼女はロストさんのいる場所へと向かい、馬車に乗って自宅へと帰っていった。


「――さてと、俺もひとまず帰るか」


 ……てか、俺も家まで乗せてくれても良くない?

 自分でもアリサにお願いすれば良かったが、もう行ってしまった後。

 仕方なく徒歩で北地区から東地区まで帰ることにした。



「ん……手紙だ」


 時間をかけて自宅アパートへ戻ると、ポストに手紙が入っていた。

 俺がここに住んでいるのを知っているのは、家族か出版社くらいだと思ったが……。


「ヘンリエッタさん?」


 差出人はまさかのヘンリエッタさん。

 俺の住所はもちろん知っている人物だが、手紙にまで出して知らせることがあっただろうか。


 部屋に入り明かりをつける。コーヒーを淹れた後、ソファに座りながら手紙を読むことにした。


「ふむふむ……『仮面舞踏会で事件が起きたこと、先程知りました……』だって!?」


 めちゃめちゃ急を要するような内容だった。


『アシド・ロー先生が起こした事件だと、編集部は誰も思っていません。ですが、このままでは警察隊が来てしまうでしょう。そこで私たちは先生に関する書類を全て処分しました。これで少しは時間が稼げるでしょう』


『ただ、隠しきれないこともあるでしょう。その場合は大変ご迷惑をおかけするかもしれません。先生は事件が収まるまではスラマガ社には来ないでください。私も長期休暇ということにしてしばらく身を潜めるつもりです。もし、何かあればこちらの住所まで。またご連絡します』


 既にめちゃめちゃ迷惑がかかっていた。

 申し訳ない気持ちはあるが、それ以上にヘンリエッタさんがこうまでしてすぐに対処してくれたことが嬉しい。


 俺も、身バレする前提で動いた方が良いだろう。

 それなら、このアパートにもしばらく帰らない方が良いのかもしれない。

 一応荷物だけでもまとめておくか。


 警察隊もしっかりと事件について調べるだろう。

 でも、俺自身が事件を解決しないと、このまま汚名を着せられる可能性がある。

 ……アリサに言った手前ではあるが、俺も冤罪を晴らすために犯人探しをしなければいけないのかもしれない。



 ◇◇◇



 ――早朝。

 朝のルーティンを済ませてから、俺はある住人の部屋のベルを鳴らした。


「んぅぅ…………だれぇ?」

「シャーリーさん。ちょっと協力してくれませんか?」


 俺が訪れたのはシャルロッテ・ホームズの部屋。

 以前もそうだったが、かなり眠たい感じの登場である。

 今日は早朝だから仕方ないが、俺も長くはここにはいられない。


「えっ、あ……ちょっと!? シャルっ!?」


 めちゃめちゃ申し訳ない。その事は後で謝るとして、俺は無理やりにシャーリーの部屋へと足を踏み入れた。


「……これ、私じゃなかったら、すっごく怒る行為だからね?」

「はい。ですが、今回だけは許してください。シャーリーさんに協力して欲しいことがあるんです」


 少し頬を膨らませながらリビングにあるテーブルに座っているシャーリー。

 癖のある赤髪が、寝癖によってさらに癖がついていた。


「それで、こんな朝に来てなんの用事なの?」


 シャーリーにそう聞かれ、俺は懐から目的の物を取り出す。


「これです」

「――なにこれ? 紙の、切れ端……?」


 俺が出したのは白い紙のような切れ端だった。

 ただ、少しだけ赤い部分があった。


「これは、ハンカチです。俺が破ってこうなりました」

「どういうこと?」


 やはりというか、この感じだと昨日のことは何も知らないらしい。

 おそらく今ごとは新聞の朝刊で騒がれていることだとは思うが――


「昨日、アシド・ローの名を騙る何者かが、毒殺事件を起こしました。俺はやっていないのですが、俺が疑われます。これは、毒が入っていると思われるワイングラスから採取した液体が染み込んでいます。――シャーリーさんに、この成分を解析してほしいんです」


 俺はシャーリーが魔法大学で何をしているのか詳しくは知らない。

 部屋に瓶がたくさんあるということだけはわかるのだが、それだけだ。

 でも、なんとなく確信があった。


「へえ……面白いことになってるじゃん」


 眠たそうにしていたシャーリーの眼の色が変わった。

 この事件に興味があったようだ。


「ハンカチ自体は警察隊に提出済みです。でも、俺の正体が知られればそのまま逮捕される可能性があるので、身近なシャーリーさんにお願いしました」

「…………そういうことだったの。このことを他に知ってる人は?」

「ジェイミーさんとミラーさんくらいでしょうか」


 シャーリーは顎に人差し指を当てながら思案する。

 視線の先は向かいの部屋の扉で――


「ミアにも話していい?」

「一応、理由を聞いておきたいのですが」

「ミアの方が頭がキレるの。なんていったって首席で入学しているからね」

「凄いじゃないですか――いいですよ、ミアさんに話しても」

「わかった。じゃあまずは先に実験だけしよっか」


 言いながらシャーリーは自分の部屋に俺を招き入れた。

「シャワー浴びるから少し待って」とのことで、俺はリビングで少し待機している間、部屋にあるものを眺めていた。


 先ほども「実験」と言っていたように、魔法薬の研究をしているのか、液体の入った瓶の他にビーカーやフラスコなど、日本でも見たことのあるような実験器具が並べられてあった。

 将来、医者か研究者を目指しているのかもしれない。


「待たせたわね。早速だけどやるよっ」

「――って、シャーリーさん……っ」

「もしかして薄着過ぎた? ふふ、気にしないで、これ着るし」


 シャーリーは胸はさほど大きくはないが、肩を全て出したキャミソール姿だった。

 だが、彼女は壁にかけてあった白衣を纏うと、その露出度は消え去っていった。

 シャーリーは髪をヘアゴムでポニーテールにまとめていて、白衣を着た姿から、どこか集中モードのような雰囲気を感じた。


「これと……これ……あとはこれ、かな……」


 棚に向かったシャーリーは液体の入った瓶を複数個テーブルの上に並べ、さらにシャーレや試験管、スポイトなども用意。

 俺には何が何やら全くわからないが、これが今からする実験の準備らしい。


「これって、警察隊がやるようなことですよね? シャーリーさんもできるんですか?」

「これでも私、薬に詳しいからね。任せておきなさいって」


 手に持った試験管。それを二つ指に挟み、くるくると回転させながら操っていく。

 その姿はまるでマジシャンのようであり、実験には全く関係ない。


「この切れ端、さらに切ってもいい?」

「いいですよ」


 ハサミを取り出したシャーリーは、ハンカチの切れ端を小さく切ってそれを四つに分けた。その内の三つをシャーレに乗せて、もう一つは俺に返してくれた。

 もしかすると、毒の特定の為に、三つの検査方法を試すのかもしれない。


 シャーリーはスポイトで取った液体をさらに三つの試験管に入れて、それを混ぜ合わせる。

 すると三つの異なる液体が用意された。

 液体の色はどれも透明で、全く違いがわからない。


「じゃあここから実験だからね〜」


 スポイトで吸い取った試験管の液体をシャーレに垂らす。

 すると、ハンカチの切れ端の色が――変化なし。


「ふむふむ……そういうことね」


 次の試験管から液体を吸い出し、二つ目のシャーレに垂らす。

 こちらも――変化なし。


「…………」


 シャーリーは無言だ。

 無言のまま、最後の液体をスポイトで吸い出し、それをシャーレに垂らす。

 透明な液体がハンカチの切れ端に染み込み、赤い部分が濡れていく。


「…………変化なし、か」

「これ、どういうことなんですか?」


 垂らした三つの液体。

 しかし、そのどれもが反応しなかった。


「私が用意した特殊な検査薬には反応しなかったってこと」

「ん、つまり毒の特定はできなかったということですか?」


 シャーリーの言葉から考えるとそうとしか考えられなかった。

 だが、彼女はなぜか微笑んでいた。


「――きた」


 シャーリーの視線の先は、最初に検査薬を垂らしたシャーレの上だった。

 ワインの赤色が染み込んだハンカチの切れ端――その色が今になって変色したのだ。色は黄色だった。


「シャーリーさん、これって――」

「これはワインを口にしてから一定時間経過しないと変化しない毒ね」

「じゃあ、この毒は元々毒じゃなかった?」

「シャル……君、すぐに理解しちゃうんだね」


 褒められたのだろうか。

 確かに言われればそうかもしれない。

 毒だと聞いたはずなのに、なぜか俺はそれを毒ではないものとして考えたのだ。


「そう――これは元々毒じゃない。この黄色に変色したのが証拠。ワインの中の成分と元々毒ではなかった何かが反応してこうなった。でも、この反応をするのはかなり限られるの…………おそらく花よ」

「え、花ですか……? 花に毒なんて――」


 いや、毒を持つ花はたくさんある。

 前世でもそういった花はたくさんあったのだ。

 であればこの世界にも毒性を持つ花があってもおかしくないのだ。


「――まあ、花といっても花自体より根の方に毒を持ってることが多いんだけどね。でも、ここからが問題。本で調べてもいいけど、私はあまり花に詳しくない、そこでミアよ」

「ミアさんは花が好きってことですかね」

「ってことで、ミアの家に突入〜〜!」

「え――」


 シャーリーは俺をリビングに置き去りにして、一人玄関を出ていってしまった。

 しばらくして、ギャーギャーと外で騒ぎ立てる音が聞こえたかと思えば、大変不機嫌なミアがシャーリーの部屋へと入ってきた。

 マジで申し訳ない……。




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