64話
男は広場の中央に立っていた。
剣の束の前。
何十本もの剣が石畳に突き刺さっている。
鎖でまとめられていた。
風が吹く。
カチャ……
鎖が鳴る。
男は剣を見上げる。
「……」
その時、足音がした。
コツ……コツ……
男は振り向く。
男が歩いてくる。
同じくらいの背丈。
同じ顔。
同じ声。
二人は止まる。
少しの沈黙。
先にいた男が言う。
「……似てるな」
もう一人の男は笑う。
「似てるどころじゃない」
男
「誰だ」
もう一人の男
「それ」
「俺も聞きたい」
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
先にいた男は眉をひそめる。
「名前は?」
もう一人の男はすぐ答える。
「ケンジ」
男は少し驚く。
「……俺も」
沈黙。
風が吹く。
草が揺れる。
ケンジは少し笑う。
「じゃあ」
「質問」
男
「何だ」
ケンジ
「犬、飼ってた?」
男は少し考える。
「……黒いの」
ケンジは頷く。
「やっぱり」
男
「お前も?」
ケンジ
「うん」
少し沈黙。
ケンジは剣を見る。
「ここ」
「変だな」
男
「変だ」
ケンジ
「でも」
ケンジは少し笑う。
「一つ違う」
男
「何が」
ケンジは言う。
「俺」
「結婚してる」
男は少し固まる。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
その瞬間。
ケンジが消えた。
男はしばらく剣を見ている。
空を見る。
雲が流れている。
男は小さく呟く。
「……そうか」
次の瞬間。
男の姿も消えた。
広場には誰もいない。
風だけが吹いていた。




