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臨界(仮)  作者: vastum


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56/100

56話

男は剣の束を見ていた。


中央の鎖。


その下の石畳。


少し濡れている。


男は指で触る。


冷たい。


その時、声がした。


「濡れてるね」


男は振り向く。


女が立っていた。


女も石畳を見る。


「雨降った?」


「さっきまで降ってたのかもな」


女は石を触る。


水が指につく。


「まだ残ってる」


風が吹く。


鎖が鳴る。


カチャ……


女は剣の刃を見る。


小さな水滴が残っている。


「光ってる」


「夕日だな」


夕焼けが刃に映る。


赤い光。


女は少し笑う。


「綺麗」


「そうだな」


少し沈黙。


女が言う。


「ここ、誰か来てるよね」


「どうして」


女は石畳を指さす。


小さな跡。


泥の跡。


「足跡」


男は見る。


確かにある。


古い跡。


新しい跡。


男は小さく笑う。


「ここ、誰かの通り道かもな」


風が吹く。


鎖が鳴る。


カチャ……


女が聞く。


「名前は?」


「トウマ」


「私は——」


その瞬間。


女が消えた。


男は石畳を見る。


水滴。


足跡。


風が吹く。


鎖が鳴る。


カチャ……


次の瞬間。


男の姿も消えた。


広場には誰もいない。


夕焼けと風だけが残っていた。

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