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55話
男は剣を見上げていた。
中央の剣の束。
何十本も刺さっている。
鎖でまとめられていた。
風が吹く。
カチャ……
鎖が鳴る。
男は一本の柄を触る。
その時、声がした。
「それ、鳴るよ」
男は振り向く。
少年が立っていた。
男
「鳴る?」
少年は剣の柄を軽く叩く。
コツ。
乾いた音が広場に響く。
男は少し驚く。
「……本当だ」
男も別の剣を叩く。
コン。
少し低い音。
少年
「違う」
男
「違うな」
少年はまた叩く。
コツ。
「前に誰か叩いてた」
男
「そうなのか」
少年
「変な音してた」
男は笑う。
「音楽家かもしれない」
少年
「ここで?」
男
「ここで」
風が吹く。
鎖が揺れる。
カチャ……
少年は空を見る。
雲が流れている。
少年
「静かだね」
男
「静かだな」
少し沈黙。
男が聞く。
「名前は?」
少年
「ソラ」
男
「俺は——」
その瞬間。
少年が消えた。
男は剣を見る。
もう一度叩く。
コツ。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
次の瞬間。
男の姿も消えた。
広場には誰もいない。
風だけが吹いていた。




