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54話
男はしゃがんでいた。
石畳を見ている。
中央の剣の近く。
割れた石の隙間。
小さな白い花が咲いていた。
男は指で土を触る。
「……」
その時、声がした。
「花?」
男は振り向く。
女が立っていた。
女もしゃがむ。
花を見る。
女
「前からあった?」
男
「知らない」
女は少し笑う。
「誰か植えた?」
男
「ここで?」
女
「ありえない?」
男は花を見る。
「ありえるかもな」
風が吹く。
中央の剣が揺れる。
カチャ……
女は剣を見る。
「多いね」
男
「そうだな」
女は一本の刃を見る。
夕日が反射している。
女
「これ全部」
女
「誰が刺したんだろ」
男
「わからない」
少し沈黙。
女が言う。
「でもさ」
男
「うん」
女
「この花」
男
「うん」
女
「ここで咲いてるの変だよね」
男は少し笑う。
「変な場所だからな」
風が吹く。
花が揺れる。
女は空を見る。
夕焼けだった。
「いい空」
男
「そうだな」
少し沈黙。
女が聞く。
「名前は?」
男
「リク」
女
「私は——」
その瞬間。
女が消えた。
男は花を見る。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
男は小さく言う。
「誰が植えたんだろうな」
次の瞬間。
男の姿も消えた。
広場には誰もいない。
花だけが揺れていた。




