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53話
石畳に、水が落ちた。
ぽつ。
もう一滴。
ぽつ。
広場には雲がかかっていた。
さっきまで青かった空が、少し暗い。
男は空を見上げていた。
「……雨か」
中央には剣が刺さっている。
何十本も。
鎖でまとめられている。
風が吹く。
カチャ……
鎖が鳴る。
ぽつ。
雨がまた落ちた。
男は手を出す。
掌に小さな水滴。
その時、声がした。
「降ってきたね」
男は振り向く。
女が立っていた。
女は空を見ている。
女
「傘ない」
男
「俺も」
ぽつ。
ぽつ。
雨はまだ弱い。
女は剣を見る。
「濡れてる」
刃に水滴がついている。
男
「錆びるかな」
女
「もう錆びてる」
男は少し笑う。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
女は石畳を見る。
雨粒が丸い跡を作る。
「音いいね」
ぽつ。
ぽつ。
男
「静かだな」
女
「うん」
少し沈黙。
女が聞く。
「名前は?」
男
「シン」
女
「私は——」
その瞬間。
女が消えた。
雨はまだ降っている。
男は空を見る。
ぽつ。
ぽつ。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
次の瞬間。
男の姿も消えた。
広場には誰もいない。
雨だけが落ちていた。




