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臨界(仮)  作者: vastum


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52/67

52話

コツ、コツ。


石を叩く音がしていた。


男は剣の柄を軽く指で叩いている。


コツ。


コツ。


金属の乾いた音が広場に響く。


風が吹く。


鎖が鳴る。


カチャ……


男はまた叩く。


コツ。


「いい音だな」


その時。


「楽器みたいだね」


声がした。


男は振り向く。


少女が立っていた。


少女は剣を見上げている。


「楽器?」


少女

「叩いたら鳴る」


男は少し笑う。


「確かに」


男は別の剣を叩く。


コツ。


少し違う音。


少女

「音違う」


「本当だな」


少女は一本の剣を軽く叩く。


コツ。


「これ高い音」


男は別の剣を叩く。


コン。


「こっちは低い」


少女は少し笑う。


「並べたら曲できる」


「できるかもな」


風が吹く。


鎖が揺れる。


カチャ……


男は適当に叩く。


コツ。


コン。


カン。


少女は少し笑う。


「変な曲」


「音楽家じゃないからな」


少女

「私も」


少し沈黙。


風が吹く。


少女が空を見る。


夕焼けだった。


「いい時間」


「そうだな」


少女

「名前は?」


「ハル」


少女

「私は——」


その瞬間。


少女が消えた。


ハルは剣を見る。


もう一度叩く。


コツ。


風が吹く。


鎖が鳴る。


カチャ……


次の瞬間。


男の姿も消えた。


広場には誰もいない。


夕焼けと風だけが残っていた。

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