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48話
影が長く伸びていた。
夕日が低い。
広場の石畳に、男の影が落ちている。
男はそれを見ていた。
自分の影。
細く、歪んでいる。
男は少し歩く。
コツ……コツ……
影も動く。
その時、声がした。
「影、気に入った?」
男は振り向く。
女が立っていた。
男は少し笑う。
「気に入ったわけじゃない」
女
「ずっと見てた」
男
「暇だからな」
女は広場を見回す。
石畳。
崩れた柱。
中央の剣。
何十本も刺さっている。
鎖でまとめられていた。
風が吹く。
カチャ……
鎖が鳴る。
女は剣を見る。
「変な場所」
男
「そうだな」
女
「戦場?」
男は首を振る。
「影が静かすぎる」
女
「影?」
男は石畳を指さす。
剣の影。
鎖の影。
夕日で長く伸びている。
「戦場なら」
男
「影が乱れる」
女は少し考える。
「なるほど」
風が吹く。
影が揺れる。
カチャ……
女は影を踏む。
「消えない」
男は笑う。
「そりゃな」
女
「当たり前か」
少し沈黙。
夕日が少し沈む。
影がまた長くなる。
女が聞く。
「名前は?」
男
「カイ」
女
「私は——」
その瞬間。
女が消えた。
カイは影を見る。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
カイは小さく笑った。
「影だけ残るかと思った」
次の瞬間。
男の姿も消えた。
広場には誰もいない。
夕焼けと風だけが残っていた。




