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44話
影が落ちていた。
広場の中央。
剣の束の前に。
小さな影だった。
それは動いた。
石畳の上を、ゆっくりと。
カリ……カリ……
小さな爪の音。
それは狼だった。
灰色の毛並み。
痩せた体。
狼は広場を歩く。
鼻を動かす。
匂いを探す。
しかし
何もない。
肉の匂いも。
血の匂いも。
土の匂いも。
ただ風だけがある。
狼は止まる。
中央を見る。
剣。
何十本も地面に刺さっている。
鎖でまとめられている。
風が吹く。
カチャ……
鎖が鳴る。
狼は耳を動かす。
音を聞く。
しばらく見ている。
狼はゆっくり近づく。
剣の束の前で止まる。
一本の柄を嗅ぐ。
金属の匂い。
それだけ。
狼は座る。
空を見る。
青かった。
雲が流れている。
狼はあくびをした。
そして
その場に伏せる。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
広場は静かだった。
狼は目を閉じる。
しばらく動かない。
やがて
狼は目を開ける。
立ち上がる。
剣を見る。
そして
広場の端へ歩く。
カリ……カリ……
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
次の瞬間。
狼の姿は消えた。
広場には誰もいない。
風だけが吹いていた。




