35話
男は立っていた。
広場の中央。
剣の束の前で。
何十本もの剣が地面に刺さっている。
鎖でまとめられていた。
風が吹く。
カチャ……
鎖が鳴る。
男はそれを見上げる。
そして小さく笑った。
「……懐かしい」
その時。
石畳を踏む音がした。
コツ……コツ……
男は振り向く。
女が立っていた。
旅人の格好。
女は広場を見回す。
「……どこ?」
男は答える。
「広場だ」
女
「それは見ればわかる」
男は少し笑う。
女は中央の剣を見る。
「戦場?」
男は首を振る。
「違う」
女
「遺跡?」
男
「それも違う」
女
「じゃあ何」
男は剣を見る。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
男は言った。
「残り物だ」
女は眉をひそめる。
「何の」
男は少し考える。
そして肩をすくめた。
「世界の」
女
「意味わかんない」
男は笑った。
「俺もだ」
風が吹く。
草が揺れる。
女が空を見る。
夕焼けだった。
「綺麗」
男も見る。
「そうだな」
少し沈黙。
女が聞く。
「ここ知ってるの?」
男は答えない。
ただ剣を見ている。
女
「さっき懐かしいって言った」
男は少し笑う。
「そうだっけ」
女
「言った」
男は空を見る。
「気のせいだ」
女は呆れた顔をする。
「変な人」
男
「よく言われる」
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
女が聞く。
「名前は?」
男
「知らない方がいい」
女
「なんで」
男は笑う。
「面白いから」
その瞬間。
女が消えた。
男は剣を見る。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
男は小さく呟く。
「……まだ残ってるか」
次の瞬間。
男の姿も消えた。
広場には誰もいない。
夕焼けと風だけが残っていた。




