30話
男は歩いていた。
コツ……コツ……
石の音がした。
男は足を止める。
足元を見る。
「石畳か」
顔を上げる。
広い場所だった。
遠くまで石の地面が続いている。
崩れた柱。
割れた壁。
男は少しだけ周囲を見回す。
「へぇ」
そのまま歩く。
コツ……コツ……
中央に何か見えた。
剣だった。
一本ではない。
何十本も地面に刺さっている。
鎖で束ねられていた。
風が吹く。
カチャ……
鎖が鳴る。
男は剣の前に立つ。
「おもしろい」
一本の柄に触れる。
冷たい。
引く。
びくともしない。
「まあそうだろうな」
その時。
声がした。
「……驚かないの?」
男は振り向く。
女が立っていた。
旅装の格好。
女は少し不思議そうに男を見る。
男は肩をすくめた。
「珍しい場所だとは思う」
女
「それだけ?」
男
「それだけ」
女
「怖くないの?」
男は少し笑う。
「怖い理由がない」
女は広場を見回す。
「知らない場所だよ」
男
「そうだな」
女
「さっきまで町だった」
男
「俺は船だった」
女は少し笑う。
「それ変だよ」
男
「世界は大体変だ」
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
女は空を見る。
夕焼けだった。
「綺麗」
男も見る。
「いい色だ」
少し沈黙。
女が聞く。
「名前は?」
男
「ロイ」
女
「私は——」
その瞬間。
女が消えた。
ロイは少しだけ周囲を見る。
「なるほど」
中央の剣を見る。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
ロイは小さく笑った。
「面白い場所だ」
次の瞬間。
男も消えた。
広場には誰もいない。
夕焼けと風だけが残っていた。




