タールの戦い4
タール草原は晴天に恵まれている。ハイドフェルド帝国軍は問題なく進行しタール草原にオルデス王国軍より一足早く着いていた。そして陣を築き各人準備を。ギヴンはシュメールと話を―――
「なんだかんだで親父も年だからな」
「だからこそ。だからこそでしょう。貴方がここで今度こそ黙らせれば―――」
シュメールは杖を強く握る。
言葉と共に杖はミシミシと鳴る。
「詰むことになるでしょう」
「ああ」
シュメールは杖を指先で2回ほど叩く。コンコンと乾いた音が。音からはまるで自身の存在をギヴンに教えるかのように聞こえる。
「まあ今回は私もいますので」
シュメールはこう考えている。
帝国の繁栄こそルドベキア・ゲルドガルドが最も望み、そして彼が己の全てをかけて尽くしてきたことである。しかしルドベキアも老いからは逃れられない。未だに彼の技術は衰えてはいない。だか体力的な面に置いては全盛期の彼の姿はもういない。それは長年彼の右腕としてルドベキアと共に歩んできたからこそ感じ、そして今この場にルドベキアがいないことが本当におかしく思える。
確かにギヴンは昔より遥かに強くはなったがギヴンの過去の過ちを咎める者は存在する。やはり結果を残して黙らせるしか方法がないのだ。それが帝国のために、一番はルドベキア・ゲルドガルドがそう望んでいる。そしてそれを助力することが自身の新たな役目だと。
帝国兵の一人が二人の話の区切りを少しだけ待つとギヴンの元にやってきた。ギヴンは後ろから声をかけられる。帝国兵は緊張しているのかその声は小さい。
「ギヴン様準備ができました」
「わかった」
左右で大きさが違う腕。片腕、その大きな腕を伸ばし大剣を掴む。常人では持つことさえできない程の重さだ。太陽が大剣に光を当てれば黒く光る。いつ見ても黒い。自身が吸い込まれそうに思える漆黒の壁。壁そう言ってもおかしくはない。なぜならこの大剣には刃がないからだ。大剣を持ちゆっくりと歩き出す。地面を見れば大剣の重さがわかるであろう。それぐらい足跡がくっきり残っている。ギヴンは整列している帝国兵の前に立つ。そして大剣――【魔導殺し】を構える。スゥッと息を大きく吸う。
ギヴンは帝国兵達に向かい叫ぶ。
「前を見ろ。奴を見ろ。目を見ろ。今から殺すそいつの未来はもう無い。敗者として。過去として。歴史として。今から殺すそいつの名を刻んでやれ――」
その時ギヴンに、いや帝国軍対して大きな火の玉が飛んでくる。当たれば火傷ではすまないくらいの大きさだ。大きな火の玉、それは明らかに魔法攻撃である。少なくとも3等級魔法以上の規模だ。だが冷静にギヴンは普段通りの口調に戻る。その口調は締まりが感じられる様子はない。
「こっちが大将として恥ずかしい思いをしてこんなことしてるんだぜ?オルデスのバカはもうちょっとは待てねえのかよ」
ギヴンは火の玉に向かって走りだし【魔導殺し】振りかざす。【魔導殺し】に魔法――大きな火の玉は当たりシューと音を立てて消えていく。本来当たれば衝撃波などもあるのだが【魔導殺し】のおかげか、周りには何も影響はない。今一度、ギヴンは叫ぶ。
「帝国軍よ。蹂躙しろ」
「おおおぉぉぅ!」
それに答えるように帝国兵は返事をして動き出した。
ギヴンの姿からルドベキアが見えた気がした。
そう見えたのはシュメールだけだ。
「そういえば彼の初陣は確か―――」
シュメールは懐かしさから過去を思い出そうとしたがやめることにした。




