タールの戦い1
雲一つない空、どこまでも青が広がっている。まさに快晴。このような天気の日はのんびりと日向にあたりながら過ごすのが一番であろうと誰もが一度は考えるはず。だが、城塞都市エルドラの入り口の門前ではそのような天気とは裏腹に緊張に包まれピリついた雰囲気―――浮ついている者もいるがそれはほんの一部でありほとんどが今はまだかとその時を待っている。門前に多くの兵達が集められている。兵達の前には指揮を取ろうであろう男たちが――
その中でも一番若い男が話し始める。
「ではレオン様お願いします」
その一言と共に門前に集められた多く兵達が段々に静かになっていく。
集められた兵達と向かい合わせになりその中心にいる男、その男の左横にいる――王国騎士団副団長レオン・エヴァレットは一歩だけ前に出る。その姿は鎧で覆われており強者としての圧が感じられる。鉄甲に包まれた右手を自身の左胸に当てる。軽く金属同士が当たった音がしたがそれが合図と言わんばかりに口を開く。
「オルデスの民達、またオルデスのために集まってくれた豪傑達よ。私達は帝国を止め追い払う必要がある。そうしなければ帝国は王国を飲み込み、やがてオルデスの名は大陸から消えるだろう。今一度貴殿方の力を私に、いやオルデスのために貸して頂きたい。だからこそ貴殿方はオルデスのために死にに行くのではない。帝国のために死に向かう敵兵を、彼らの、帝国のために死なせてやりに行くのだ!」
レオンの言葉と共に大きな歓声が上がる。大きな歓声は熱気となり兵達の熱気が一つの形となったようにさらに続く声に合わせて地面が震えている。これだけ大きな歓声が上がれば士気は高まる。兵達の士気を上げるということ大事なことである。恐怖心などが薄れ勇敢に戦うことができるからだ。劣勢の状況下に置いても精神面を保つことさえできれば跳ね返すことも可能である。士気が低ければ、やる気がない兵達が現れ始め、判断力の低下による致命的な一撃を受けたりと敵前逃亡による崩壊、最悪の場合は戦死に繋がる。それほど士気を高めるための鼓舞(演説)は戦の前に置いては重要だ。今回に関していえば、結果は上々であると誰もが思うであろう。
だがそれをよく思わない者もいる。それが先程、中心に立っていた男――マガト・プランナー伯爵だ。普段の派手に着飾った衣装は着てはいない。だがこの中では一番目立つ色の黄色に近い光沢のある鎧を纏っている。マガトはレオンが兵達を言葉で纏めきった後にここに必要があるのか?と思うであろう門前の近くのテントの中に入り休憩をしている。だが休憩とは名ばかりで、怒りに任せて近くにあった小さな樽を蹴飛ばしながら叫んでいる。自分が兵達へ言葉をかけられなかったことによる八つ当たりだ。
「なぜ私でないんだ!ふざけるな!」
「なぜマガト様ではないのでしょうか本当に」
「マガト様が一番で―――」
マガトの取り巻き達は言葉では持ち上げてはいるが内心はわかりきっている。マガトよりも王国騎士団副団長レオンにやらせたほうが兵達の士気も上がる。遠くからでも聞こえる兵達の声に自分も気持ちだけは参加しているつもりだ。だが立場上そのようなことは面と向かってはできない。
「マガト様提案があります」
取り巻きの一人がマガトをなだめようと意見を出す。
「帝国軍への先手の一撃もマガト様が指揮を取られてはいかかですか?」
本来は作を練り考え、状況に応じて対応するのが普通である。そのようなことはお構いなしに功績のことだけを考え、マガトは先程まで怒っていたのが嘘のように顔がニヤつき自身の考えを口にする。
「そうか。ならば―――」
「流石でございますマガト様」
「マガト様はやはりすごいお方だ」
取り巻き達はすかさず太鼓持ちに徹する。彼らにも家庭があり少なからずマガトからの恩恵は受けている。マガトの頭の中では帝国軍を既に倒し武功を手土産にすることしか考えていない。
「帝国を我が手で沈めてくれる。ハッハッハ」
マガトの高らかな笑い声はテントの中だけ聞こえる。




