4話:『術大祭』だ
「――――――はっ?!」
気が付けば、俺はベッドの上で寝ていた。
「キュウ?」
俺のすぐ横で寝そべっていたアスモが、俺が起きたことに気付いて顔を覗き込んでくる。
演習場にアスモは連れていかず、保健室に預けっ放しにしていた。ということは、ここは保健室か。
「何故に保健室……?」
「そりゃあ、アンタをここに運んできた奴がいるからだよ」
部屋を仕切っていたカーテンがシャッと音を立て開かれ、その先に保健室の先生が立っていた。名前何だったっけ……。そもそも自己紹介したっけ……?
「演習場の模擬戦で怪我をしたっていう話だったけど、“模擬戦”にしては随分と派手にやり合ったみたいだな?」
「何でそのことを……、いやアイツか」
「アンタをここに運んできたイケメンの男子が話してくれたよ。ソイツも割と重傷に見えたけどね」
イケメンの男子……。やっぱりあの野郎がここに連れ込んだのか。
普通なら放置してさっさと帰りそうな奴なのに……。どういうつもりだ?
「さ、起きたならとっととお家に帰んな。……まったく、トラブル体質というかなんというか」
まぁいいか。明日アイツから何か言ってきたなら、こっちから問詰めればいい話だ。話してこないなら、そもそも話題にする程でも無いんだろう。
「お世話になりました」
自分の荷物……は事前に寮に置いてきた。
アスモを連れて保健室を後にし、学生寮へ帰った。
――――――――――
「ふぅ〜……」
風呂に入った後、ベッドに横たわる。
その上にアスモが乗っかってくる。
「ぐふぇっ……」
アスモは俺の腹の上に乗っかった後、すぐに寝息を立て始めた。
アスモは、俺が寝る時には必ずと言っていいほど腹の上に乗っかってくる。それは生まれた時から今まで変わらない。
しかし、時が経つにつれてアスモも成長していく。それはどう足掻いても止められない。
つまり何が言いたいかというと。
「重いなぁ……」
最初の頃は赤ん坊みたいに軽かったのになぁ……。ドラゴンって半年で人間の子供ぐらいの重さになるんか……。
それにしたって、生物の成長の仕方としてはどうなんだ?いくら何でも成長が早すぎやしないか。ドラゴンだったらこれぐらいが普通なのか?
いずれ、コイツを腹に乗っけてやる事も出来なくなるんだろうなぁ……。
まぁ、まだ先の事を考える必要は無いか。それはその時に考えればいい。
今はそれよりも……あのお嬢様の事だ。
時期はともかく、何で皇女なんかがいち普通高校に転入なんかしてきた?
この学園には貴族もある程度通っているというのは聞いている。しかし、だからと言ってさすがに皇族が一般校に来るのはおかしくないか?前はもっといいとこの学校に居たはずだ。
考えられるとすれば、何か目的があって転入してきたか。或いは、お偉方の都合でここに飛ばされたかの二つ。
うーん、どっちもありそうで分からんな……。
「……俺が考える事では無い、か」
あの高飛車にどんな事情があったか、どんな理由があってここに来たかは知らない。いずれにせよ庶民の俺には関係無い事だ。
この学園の生徒を軍人化させる、なんて目的があるなら黙ってられないが。そんな暴挙には出ないだろう。……ないよな?
明日聞いてみるのもいいが、俺が邪険な対応をしたせいで、目の敵にされているかもしれない。
ああ、スクールカースト最下位は確実だなぁ……。
不安を抱えながら、暗くなった部屋で目を閉じる。
明日、変な事が起きなければいいけど……。
――――――――――
「『術大祭』だ」
翌日、HRにて担任が妙な単語を口にした。その単語を聞いた途端、クラス中がそわそわしたような雰囲気になる。
「じゅつだいさい?」
俺はクラス内で一人だけその空気に乗れず、首を傾げる。「祭」と言うからには何かしらの大きなイベントなんだろうか。
小声で右隣の女子、ロロに聞いてみる。
「なぁ、『じゅつだいさい』ってなんだ?」
「知らないの?」
「知ってるなら聞かねぇよ」
ロロはまるで信じられないとでも言うように驚くと、一拍置いてから『じゅつだいさい』についての説明を簡単にしてくれた。
「正式な名称は『学術国大学園祭』。1年に一度、この国にある全学校が『術大覇校』を狙って競い合う催しの事」
「なるほど、要は体育祭か」
「そんな簡単な言葉で片付けてたら痛い目見るよ」
術大覇校っていうのも、言い方がカッコよくなっただけの『優勝校』っていう感じだろう。
それにしても、国をあげての体育祭か。ん?でも名前に『学園祭』って……。
……気にしたら負けか。
「術大祭の準備期間は明日、3日からだ。各自、留意しておくように」
術大祭かぁ。
リーナが夏休みの時に言っていた「楽しみにとっておけ」というのは、こういう事だったのか。
確かに面白そうではあるけど……。
「絶対めんどくさいやん……」
俺の心は「楽しそう」よりも「どうやってサボるか」を考えていた。




