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3話:「Too Easy!!」

「三人称視点で書く」と言ったな?






   あれは嘘だ。

 

 放課後。俺とファング、それとお嬢様は演習場の一室を借りて決闘をすることになった。

 放課後の時間帯は演習場を借り出しする生徒も割と多く、模擬戦闘なら本戦場ではなく大部屋を借りて行うのがルールらしい。



 大部屋とは言うが、こんな狭い部屋で俺たちの試合を抑えられるのか?



 部屋は目測でおおよそ百畳のやや長方形で、一般的な稽古や訓練なら十分に事足りるような広さだ。だが、今から俺たちが行うのは『模擬戦闘』。稽古や訓練なんて比じゃないくらい激しくなることが予想される。

 それに、相手はどっかの剣術を習っているファングだ。夏休みの時にその技の断片を垣間見たが、魔物を粉微塵にするあの技を繰り出されたら、この部屋もひとたまりもないはずだ。



「安心しろ。人間相手に『あの技(クロスディレイ)』は使わん」


 俺の心を見透かしたかのように、ファングの野郎は技を使わないことを宣言する。

 技を縛るということは、手加減をするという事。


「はっ、ナメてんじゃねぇぞ」


 ファングの挑発に挑発で返す。

 手加減した相手に勝ったところで、それは本当の勝利とは呼べない。『勝利』を手にするのなら、全身全霊、全力の相手に打ち勝ってこそ。それが俺の勝利の美学なのだ。


 まぁ今決めた事だけどな。






「――それでは、これより模擬戦を執り仕切らせて頂きます」


 お嬢様が、俺たちから十分に離れたところから試合の審判を務める。


「ルールは単純。どちらかが気絶、或いは戦闘続行不能の傷を負い、最後まで戦場に立っていた者が勝者となります」


 戦場て……。そんな物騒な試合にはならねぇよ……。

 とも言いきれないか。相手はあの憎たらしいクソ野郎だ。一般人相手ならいざ知らず、アイツが相手となると俺も加減が効くか分からん。

 そもそも加減なんて必要ねぇか。全力で行かないと勝てる相手じゃない。






 ――そういえば、どっかのラジオから流れてきた番組でこんな話題が流れてきてたな。


『相手の心を折る方法』。憎たらしくて自尊心が高い奴の心の折り方を、そのラジオでは紹介していたな。

 たしか、「圧倒的な強さで秒殺する」ことと、「ノーガード戦法で相手の攻撃を全部受けて耐えきるか、全部の攻撃を回避して何をしても無駄だと思わせる」ことの二種類だったかな?



 前者の「圧倒的な強さで秒殺する」はとてもじゃないが出来そうに無い。アイツと俺の実力差はほぼ互角。それも俺が魔術の、ファングが剣術のスタンドに立って初めて成立する拮抗だ。

 今回の試合は互いに剣術勝負。魔術の使用が禁止されている訳では無いが、メインの戦法が剣術である以上、奴に後れを取りかねない。


 魔術だったら絶対勝てるのに……。



 後者の「ノーガード戦法で相手の攻撃を全部受けて耐えきるか、全部の攻撃を回避して何をしても無駄だと思わせる」方法。前者と比べるとまだこっちの方が希望がある。

 幸いなことに、俺の能力は再生能力。いくら致命傷を受けようが、俺の場合ならそれなりのダメージで済む。

 尤も、再生には時間が掛かるわけだが……。


 しかし、今回の敗北条件は「気絶」か「戦闘続行不能になる」かのどちらか。

 加えて審判役はあの世間知らずそうなお嬢様だ。俺にとっては軽傷でも、お嬢様から見たらとんでもない傷に見えたりもするかもしれない。ダメージを受けるのは最小限に抑えないと。


 かと言って、全部の攻撃を回避するなんて神業、俺に出来るわけがない。

 特別身体能力が秀でている訳でもないし、相手に至っては達人だ。おそらく、アイツが繰り出してきた攻撃の八割を喰らう事になるだろう。






 実力差では押し切れない、ノーガード戦法もジャッジ負けの可能性、攻撃を回避なんて無理。


 そんな俺に取れる戦術とは――。








「――では、始めっ!!」




「『煙幕(搦手)』だよなあっ!!!」


 試合開始と同時にファングが突っ込んでくるのを確認。すぐさま室内中に煙幕を貼る。


「な、なんですの!?」


 室内全域を対象にぶちまけたせいでお嬢様にも被害が及んでいるようだが、今はそんなこと知ったこっちゃない。




 やべぇ、俺も見えねぇ!




「自身の視界も遮るとは、愚かだな!」


 何処からともなくファングの声が部屋に響く。

 余裕のあるような事を言ってはいるが、攻撃を仕掛けてこない以上はアイツの方からも見えてはいない――。



「『土塊砲(ロック・ブラスト)』!!」


 と思ってたら暗闇の中から岩の砲弾が煙を切って飛んできた。


「マ、ジ、かよ!!」


 三発の岩石の砲弾が遅延で飛んでくる。暗闇から突如として現れたそれらを避けることなんて、もちろん出来ない。



「かはっ.......!」


 三発の内、最後の一発を避けきれずに直撃を受ける。バスケットボール程の大きさの砲弾は人の肉体を飛ばすには十分で、俺は後方に大きく吹き飛ばされた。


 吹き飛ばされる最中、床を蹴って何かがこちらに近付いてくる音が聞こえてくる。

 間違いない、この足音はこちらを捉えている。



「呆気なかったな!」


 煙幕の中から木刀を手にしたファングが、俺の浮かび上がった肉体をしっかりと捉えて木刀を薙ぎ払う。


 野郎.......!




「こんなんで終わるかよ!」


 咄嗟に両手を前に繰り出し、掌から瞬間的な爆発を引き起こす。

 爆発による勢いで俺の体はファングの攻撃を逃れ、それと同時にファングに対しての猫騙しにもなった。


「っ、姑息な……!」


 その隙をついて攻撃に転じたかったが、煙幕のせいでファングの姿を捉えることが出来ない。



 誰だよ煙幕焚いた奴……。




 俺が体勢を立て直してもファングが攻めてくる気配は無い。あちらもこちらの出方を伺っているのか?




 と、互いに音を立てずに暫くすると、ガララという音が暗闇の中に響く。

 音が聞こえてから間もなくすると、煙幕は徐々に晴れ上がっていった。


(窓を開けたのか)


 音のした方を見ると、夕日が射す窓が全開になっている。試合開始時は全部閉め切っていたはずだ。

 つまり、あのお嬢様が部屋の窓を開けたという事か。



「これで見晴らしが良くなったな」

「貴様が妨害したからだろうが……!」


 ニヤリと笑みを送ってみたが、どうやらファング君はおこのようで。

 搦手ぐらい許してくれや……。こっちは武器無いんやぞ。


 ――因みに、アルト先輩に教わった剣術は今回は使わないことにした。得意分野で戦わないと多分勝てないからね。




「……さて、決着の時だ」


 ファングは木刀の持ち方を変え、刀身を天に向けて顔の真正面に構える。厨二病かな?


「その構え痛すぎませんかー?」


 試しにおちょくってみると、


「痛い目を見るのは貴様の方だ」


 という会話のドッジボールが発生した。



 ああ、「厨二病」という単語も存在しないのね……。




 さて、それじゃあどうやってファングをぶちのめそうか。

 搦手は効かない、剣を捌ききれる自信も無い、実力差はほぼ互角(だと思いたい)。

 前回アイツとやり合った時はどうやって戦ってたっけな……。



「行くぞ」


 戦術を考えていたら、ファングが構えを変えて牙突みたいな姿勢になる。

 まずはこの攻撃を受けてから考えるか――。


「ん?」


 攻撃を受ける……。






 ――ああ。あるじゃない。

 実力差を知らしめる、完璧な攻撃が。






「――はぁっ!!」


 ファングは牙突の低姿勢のまま、フローリングの床を蹴って突進してくる。ここが地面だったら、間違いなく砂埃が発生しているだろう。


 ファングが飛び込んできたのをしっかりと確認して、俺はファイティングポーズを構えて真正面に立つ。



 ――奴が俺に攻撃をヒットさせるまで約二秒。

 俺が構えたのは飛び出した一秒後あたりから。発生は三フレームから受付時間は十八フレーム。

 つまり何が言いたいかと言うと――。




「捕まえたァ!!」

「なっ――!!」









 当  て  身  投  げ  で  あ  る









「Too Easy!!」


 木刀の突きを受け流し、ファングの胸ぐらを強く掴む。

 ファングの突撃の勢いを利用して体を持ち上げ、そのまま背中から地面に打ちつける。

 ―ちなみに、格ゲーで使われる「当て身」っていう単語は、本来の意味と違うから勘違いには注意だぞ!―


「かはっ……!」


 軽くバウンドさせると、衝撃の影響か背を丸めてむせてしまった。

 野郎()がむせようが、俺のやる事は変わらない。



「『枷』」


 動き出す前に、寝込むファングの手足を岩の枷で床に縛りつける。


「しまっ……!」


 トントンと床を鳴らしながらファングに近付き、満面の笑みでファングの顔を覗き込む。




「俺の勝ちだなぁ???」


 身動きを制限した時点で戦闘の続行は不可能。つまり俺の勝ちだ。

 俺の勝ち、のはずだが。



「……だから貴様は勝てないんだよ」

「何だと?」



 ――瞬間。

 俺の足首に無数の岩石が突如埋め尽くした。反応が遅れてすぐさまその岩を砕こうと魔術を構える。


「『煉獄(フェーゲル)』――」




「遅い」


 ファングがそう呟く。

 すると、俺が魔術を発動するよりも早く、俺の顔面に無数の小岩が豪速球で飛んできた。


「がっ……!」


 たかが小岩、されど小岩。

 時速五キロで飛んでくる鉄球と、マッハ一で飛んでくるペットボトルのキャップ。直撃するとどちらが痛いかなんて考えなくても分かる。


 当たっては砕けていく小岩を全て受けた俺は軽く脳震盪を起こし、その場に倒れ込むしか無かった。


「はぁ、はぁ……!」


 視界が歪む。天井が動いているように見える。

 これ、俺じゃなかったら病院行きだぞ……!





「そこまで!

 ユウマ・アイサカを戦闘続行不能と判断!勝者、ファング・ローヴェイン!!」


 そのまま倒れ込んでいると、お嬢様が勝負の決着を告げる号令を放った。


「待て、俺はまら……!」


 俺はまだ動ける、戦闘は続けられる。それなのに勝手に試合を決着させられてはたまったものではない。

 体を叩き起こし、お嬢様に抗議しようと睨みを利かせる。


「寝ておけ」


 と、背後からファングに首筋、脊髄あたりを突かれた。


 そんな漫画みたいな技で気絶するわけ――。








 ―――――








 力無く倒れたユウマを見つめ、ファングが小声で呟いた。




「……聞いてないだろうが、覚えておけ。


 相手が動かなくなるまで、ではない。相手が動けなくなるまで油断をしないことだ」


 最後にユウマを一瞥すると、ファングはシャーリィの元に歩み寄る。



「お見苦しい所をお見せして申し訳ありません、皇女殿下」


 ファングはシャーリィの前に傅くと、先に無様な戦いを見せた事を詫びた。


「何に対してかしら?」

「このような低俗な試合になるのであれば、試合を受けるべきではありませんでした」


 ファングが理想としていたのは、開始数秒でユウマを圧倒し、貴族としての強さを誇示する試合であった。いや、理想などではなく、そうなる予定であった。

 それが現実はどうだろうか。貴族としての強さを誇示するどころか、よもや一般庶民に負けそうになってしまった。


 ファングは、皇女殿下の前では決して見せてはならない汚点を晒してしまったのだ。本来であれば、家系の人間全員まとめて貴族の位を剥奪されるところである。


 しかしシャーリィはそれを咎めることはせず、寧ろファングに感謝を示した。


「謝る必要はありませんわ。おかげで面白いものを見られましたから」

「面白いもの……、ですか」

「ええ、面白い『もの』です」


 セミロングの金髪を軽く掻き上げると、シャーリィは無邪気な顔で微笑みながら倒れ込んでいるユウマに近付く。


「ここまでの損傷を受けておきながら、気絶程度のダメージで済ませる男なんて初めて見ましたわ。私の手中に収められたなら、面白いことが出来そうです」


 動かない頭をツンツンとつつきながら、シャーリィは含みのあるような笑みでユウマを見つめる。


「それに。

 (わたくし)に楯突いた事への罪、しっかりと思い知らせないといけませんわ」

「……お戯れは程々に。お嬢様が自ら手を汚さなくとも、私が処罰しますので」

「同程度の実力のあなたに任せたら、反逆されるかもしれませんわ」

「お言葉ですが、まだ私は本気を出しておりません」

「ふふ、どうだか」



 シャーリィは興味が醒めたのか、先程までの楽しそうな表情から一変、「ふぅ」とため息をつく。

 その顔に先程までの笑みは消え去り、『学生』の顔から『皇女』の顔になる。


(わたくし)は先に戻ります。その男を医務室に運んだ後、任務を再開しなさい」

承知しました(イエス)皇女殿下(ユアマジェスティ)






 ――『皇女』のシャーリィは『配下』のファングにそう命じると、『学生』としての初日を終えた。

※本文でユウマが言っていた「どっかのラジオ」については以下のリンクから。


=====


雛山 様 著作

「シスターレナに叱られたい!―番外編 教会ラヂヲ!―」


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本編も併せてどうぞ


雛山 様 著作

「シスターレナに叱られたい!」


https://ncode.syosetu.com/n8141fq/


=====


※本人様から掲載の許可は頂いています。雛山様、ありがとうございます。

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