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16話:烙印の指輪

「―――・・・」


 気が付けば、俺は地面の上に寝転んでいた。


「・・・ここ、は」


 ゆっくりと体を起こして、辺りの状況を確認する。


 壁は変わらず岩壁で囲まれているが、所々石英のようなキラキラした結晶が散りばめられている。

 台座が仄かに輝いているのも手伝って、辺り一面はまるでプラネタリウムのようになっている。


 そして、岩壁を一通り見回したが、ここには出口が無い。

 つまり、ここに助けが来る事は限りなくゼロに近い確率である、という事だ。



 と思ったが、天上には人一人が通れるような穴があった。


 ここでふと、これまでの状況を思い返してみる。



 確か、俺はエリー達と一緒に副会長を探すことになって。

 それで、湖で休憩することになって。

 それから、見張り番の時に湖を見てると、触手に湖の中に引きずり込まれて。

 どうにか脱出しようとしたけど、水の中だから魔術が使えなくて。


 ・・・。

「あの場で使うを間違えた」、というのが正しいか。

 それはどうでもいい。



 うむ。

 これまでの状況から察するに、湖の中に隠しルートがあって、俺は偶然そこに入ってしまった説が濃厚だな。

 ・・・いや、エリーもここがあることを知ってて、あのポイントをキャンプ地点に選んだのか?


 流石に考えすぎか。

 出入口が無いエリアなんて、見つけようも無いよな。



 さて。

 この部屋の構造は把握した。


 問題は、目の前に佇む台座である。




 台座の上には、何の変哲も無さそうな指輪が一つ、ただ粗末に置かれている。

 誰かがここに来て置いていったもの、という可能性もあるが、こんな所に置いてある時点ですでに気味が悪い。

 正直、調べようとしたらロクなことにならない気がするので、触りたくない。


 かと言って、この空間で他にやることもないしなぁ。


 ・・・地道に穴でも掘るか?

 下手に洞窟の構造を変えたら崩落するかも知れない。それはやめておこう。


「・・・」


 台座に、忍び足でゆっくりと近づく。


 そろーり、そろーり。とても慎重に、だ。

 近付いた時点で何が起こるか分からない。慎重に慎重を重ね、その上からさらに慎重を重ねても、やり過ぎではないだろう。



 台座にほぼゼロ距離まで近づけた。

 俺は、台座の上に鎮座してある指輪を、まじまじと色々な方向から見つめる。


「名前が彫ってあるとかは・・・、ないか」


 外見を見た感じ、特に変哲も無い、ついでに言うと装飾も何も施されていない、至ってシンプルな指輪だ。

 結婚指輪にしても、何も紋様が無いというのは少し不自然かもしれない。


 そもそも結婚指輪だったら、離婚とかでもない限りこんな所に置き捨てないはずだ。

 置き捨てるにしても、西の大陸のこんな危険なダンジョンの内部、そのまた隠しエリアだ。

 俺だったらもっと別の場所に、適当に投げ捨てるね。


「・・・投げ捨てる?」


 出入口は無い。あるのは上からのほぼ一方通行であろう穴だけ。

 そして、穴の位置は、台座のほぼ真上に来ている。



 ・・・一つの繋がりが見えた。


 離婚した人間がこのダンジョンに赴き、湖の中に指輪を投げ捨てた。

 指輪はそのまま底へと落ちていき、やがてあの穴に到達して、そのまま台座の上にストンと着地した。


 これならある程度合点も行く。

 捨てに来たのはおそらく凄腕冒険家の夫婦で、誰にも見つからないように、あるいはもう思い返さないようにと、わざわざ危険なダンジョンの、湖の中に投げ込んだ。


「そんなエピソードが・・・」


 まぁ妄想なんだけどね。真実は神と指輪の持ち主のみぞ知る。

 指輪を手に取って、さらに細かく観察する。


「んんぅ・・・?」


 本当に、ただの指輪のようだ。

 台座から動かしても、特に何が起こるわけでもない。



 ―なんだ、ただの指輪か。


 安心しきった俺は、試しに指輪を中指にはめてみ―






 ―――――






「はっ?!」


 また意識が飛んでいたようだ。


 気が付くと、先程までとは全く違う場所。

 何の例えでもなく、本当に言葉通り、何も無い白い空間だ。

 先に終わりは見えず、延々と続いているのではないか、と思わせられる。


「よう」


「?!」


 声を掛けられ後ろを振り向くと、先程までそこにいなかった人物が、腕を組み、何かにもたれ掛かるようにそこに立っていた。


 短髪の黒髪をそこかしこにはねさせ、まるで悪役がするような、今にも「ガハハ」と笑いそうな笑みを浮かべている。


 コイツ、顔も中々イケメンじゃねぇか・・・。

 笑っている顔も、ワルの匂いがプンプンしていて、そういうのが好きなお嬢さんは一発で堕とされるだろう。


「・・・何で裸?」


 顔は折角整っているのに、何故か真っ裸である。

 パンツすらも穿いていない。完全に裸族だ。


「あ?んなもん精神体だからに決まってんだろ」


「精神体?」


 となると何か。


 俺は今、精〇と時の部屋におるってことか。

 やったべユウマさ、これでいくらでも修行が出来るべ。




 冗談はさておき。


「お前は何者だ?」


 裸族の青年に、単刀直入に聞く。


 人の精神の中に干渉してくるなんて、相当デキる人間と見た。

 というより、素人の俺が見てるだけでも分かる。




 ―コイツと()り合ったら、俺は確実に死ぬ。




 頭ではなく、体が本能的にそう告げている。

 あまりコイツを刺激しないように立ち回らねば。


「へぇ、ストレートな奴だな。嫌いじゃないぜ、そういうの」


「そりゃどうも」


 どうやら正直な所が気に入られたようだ。


「・・・ってお前、俺の存在知らねぇのか」


「知wらwなwいwよw」


 初対面の人間に何を聞いているんだコイツは。


 ・・・いや待てよ。

 そういう事じゃなくて、もしかして有名人とか?

 剣の道を極めし男とか、魔術の真髄に達した男とか。

 もしかしたら、そんな感じで有名な人間なのか?


 まぁ知らんもんは知らん。

 大体、マッパの男がそんな歴史に名を残せるわけがない。


「てめぇ、さては勉強とかしねぇタイプの人間だな?

 ・・・いいぜ、俺様が誰か教えてやるよ」


 いやいや、勉強ぐらい人並みかそれ以下ぐらいにはやってますよ。

 てか若干おでこに青筋が出来てますよ。知名度が低いからって怒んないでくださいな。



 男は、もたれ掛かっていた体勢から仁王立ちになる。

 気にしていなかったけど、何も無い空間で一体何にもたれ掛かっていたんだ?


 男のドヤ顔付きの仁王立ちは、ボロンしているせいで格好いいどころか滑稽に見えてくる。

 このままじゃまるではだかの王様だ。せめて何か穿いたほうがよいのではないか。


「俺様の名はなぁ!!!」


「うるさい」


 男が突然、耳に響くような大声で叫び出すので、少し声のボリュームを下げてもらおう。

 男は「ああん?!」とか言いながらも、ムカついた表情でもう一度仁王立ちの体勢になる。


「俺様の名はなぁ!!」


 さっきと大して変わってなかった。

 !が一個減ったかどうかぐらいの差である。


 しかし、ここでまた注意しては無限ループになるので、そのまま聞いてやることにする。

 無限ループほど恐ろしいものはないからね。


「七つの大罪【暴食】の烙印、ベルゼブブ様だぁっ!!!」


 ・・・。




 ・・・・・・・・・。






 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






「うん・・・」


「反応それだけか!?」


 なんというか、ヤベぇ奴なのは何となく分かった。

 というより、「暴食に関連するものがあるかも」とはエリーから聞かされていたので、特段驚きも無い。本人だとは思わなかったけど。


 でも、格好のせいでなぁ・・・。全部台無しなんだよなぁ・・・。


「・・・ズボン借りる?」


「精神体だっつってんだろ!お前もマッパだろうが!!」


 マジかよ。


 確認してみると、確かに俺の下腹部についているボロンがボロンしていた。


 傍から見たら、全裸の野郎どもが大声で何か叫んでいたように見えるのか・・・。

 いや、ほんとここが精神世界で良かった。


「・・・で、その暴食さんが俺になんの用で?」


「あ?呼び出したのはそっちだろうが」


 俺はこんな全裸の男なんか所望した覚えはない。

 どうせ来るなら、アニメに出てくるような超絶美人のお姉さんを希望したいね。


「呼び出した、とは?」


「あぁん?

 ・・・てめぇ、俺の存在、てか七つの大罪の存在は知ってるか?」


 七つの大罪。

 確か、色欲、傲慢、怠惰、暴食、嫉妬、強欲、憤怒の七つで構成された、どっかの宗教の言葉じゃないのか。


 この世界では、割と最近に大罪戦役なんてもんもあったらしいな。

 確か、二百年前だったか?


「てめぇ、指輪をハメたろ。

 それがキッカケで俺が起きちまったんだよ。折角力を封印してたのによ」


 力を封印って。

 やっぱりタダ者でないのは確実のようだ。なお一層警戒しなければ。


「この世界は、一体どっちの精神世界なんだ?

 俺か?お前か?」


「んなのてめぇに決まってんだろ。契約者となった人間の魂に宿るんだよ、俺は」


 なるほど、こっちの精神にあっちから干渉してきてるわけか。

 これは困ったな。起きたらすぐに指輪を外さなければ。


「・・・俺にメリットはあるのか?」


「メリット?何のだよ」


「お前と一緒に居ること、

 あの指輪をつけるメリットは何かあるのか?」


「あるんじゃねぇの?

 何せ、封印されてからはお前が初の契約者だからな。詳しいことは知らん」


 なるほど、じゃあ俺がコイツの初めてを貰っちゃったわけか。

 いやぁ。コイツが女の子だったら、多少はボロンも元気になったんだろうけどな。


「・・・で、俺はいつ起きれるんだ?」


 さて、精神世界もある程度堪能出来たし、そろそろ起きてもいいだろう。

 早く起きて、とっととエリーたちの元に戻って安心させないと。

 エリーの探し物の暴食(コイツ)も見つかったことだし、後は副会長を見つけて脱出して、エリーに指輪を渡せば万事解決だ。


 ・・・あれ?確か会長も「ダンジョンのアイテムを持ち帰ってこい」なんて言ってたっけ?

 いや、あれは確か「最深部のアイテムが必要」的な発言だったはず。隠しエリアのアイテムは対象外のはずだ。


「あ?お前は二度と起きれねぇよ?」


「はい?」


 暴食の発言の意図が分からない。

 起きれない、とは一体どういうことだろうか。

 もしかして、指輪をつけた反動で心停止とか、昏睡状態とか。そういう意味だろうか。


「当たり前だよな?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだからよ」


「・・・なるほど」


 要するに、俺の体はコイツに乗っ取られてしまった訳だ。


 何が“英雄”だ。体を乗っ取るなんて、とんだ疫病神じゃないか。


「俺の体返せよ」


「無理だな。

 てめぇが俺に勝てないのは明らかなんだからよ」


 ん?

 勝てばいいのか?

 つまりアレか。


「試練的なアレか?」


「試練、ねぇ。

 俺の攻撃は、そんな生易しいモンじゃねぇぞ」


 暴食は首をコキコキ鳴らし始める。戦闘態勢に入ったのだろう。


 ヤバい、何だかんだコイツと闘う羽目になってしまったのかもしれない。

 今からでも穏便に済ませられないものか。



 いや、無理だ。暴食の目が完全に殺る気スイッチONの状態だ。戦闘は免れない。

 精神世界で殺されたらどうなるか分からない。生き延びるには抵抗するしか無い。


「お、てめぇもやる気じゃねぇかよ。

 ・・・いいぜ、そのやる気に免じて条件を出してやる」


 男は右手で三本の指を立てる。


「てめぇが俺に、かすり傷1つでも付けられたら、てめぇに体を返してやる。

 てめぇは何でもありだ。てめぇの精神世界だからな、思い描いたものは何でも使えばいい。

 対して俺が使うのは、この体だけだ。それでも全然ハンデにはならねぇけどな。

 てめぇの敗北の条件は、てめぇの心が折れた時だ。その時はユウマ(てめぇ)という人格は消え、肉体は完全に俺のモノだ」


「ふむふむ」


一.かすり傷一つでもつけられたら勝ち、俺の心が折れたら負け

一.俺は何でもアリ。暴食は身体能力のみ。

一.負けたら俺は死に、勝ったら言うことなんでも一つ聞いてくれる券


 いや、最後のは言ってなかったな。



 てか、何でもアリってどういうことだ。

 何でも使える、とは言っていたけど、果たして“何でも”の定義がどこからどこまでなのか分からない。


「ちょっと試しても?」


「好きにしろ」


 律儀にも、説明を終えても待ってくれている暴食さんに許可を取って、適当にイメージしたものを具現化しようとしてみる。

 イメージしたのは、誰もが一度は憧れるであろうガ〇ダム。


 さすがに出ないやろ、なんて思っていたら、普通に1/1スケールでボンッと俺の目の前に出てきた。


「うおおぉぉぉぉ!!!!

 すげえぇえええぇえええ??!!?!!?!」


 お台場のガンダ〇にも引けをとらないリアリティ。まさか、俺の子供からの夢がこんな形で実現するとは。


 早速コックピットに乗ってみる。

 だが、高さが高さというのもあり、乗ることは出来なかった。


「んだよ・・・」


 落胆する。

 目の前に夢があるのに、その夢に触れないとは。


 まぁいいや。乗れないなら乗れないでしょうがない。

 そもそも、こんな巨体で闘ったとしても、暴食相手にはサイズ差的にも不利になるのが目に見える。


 もっと、人体戦に特化したものをイメージしてみよう。

 例えば漫画の技とか、ゲームの武器とか。



 そうして、パッと思いついたのを試してみる。


「ディズニ〇ランd」


 言いかけて止めた。消されてしまう。

 ここは異世界(しかも精神世界)だけど、下手したらあのネズミはどこまでも追いかけかねない。

 そもそも、具現化した時点で消されそうだ。


 もっと他のもの、他のもの・・・。


「マスタ〇ソード」


 そう唱えると、俺の手にマスターソー〇が握られていた。

 おお。まさか伝説の剣がこんな簡単に手に入るとは。


 と思ったが、すぐに消えてしまった。

 〇ンダムも、いつの間にかこの空間から消え去っていた。

 うーん、著作権的に長くは具現化出来ない、ということだろうか。


「・・・もういいか?」


 暴食は俺の奇行を変なものを見る目で見ていたが、そろそろ飽きてきたのか「始めようぜ」と言ってきた。


 まぁ具現化出来るって言ったって、結局は魔術とかに落ち着くのか。


「じゃあやる」

「おらぁっ!!」


 俺の目の前に拳が飛んできた。

 暴食がロケットパンチをかましたわけじゃない。一瞬で、俺との間合いを詰め寄ったのだ。


 てか、俺まだ準備出来てないんですけど・・・。



 為す術もなく、無抵抗の俺は暴食との距離を大きく離されるように後ろに飛ばされる。

 視界にいた暴食は、ドラ〇ンボールよろしく、距離を離していたはずが、一瞬で俺の背後に詰め寄った。

 そこからさらに蹴りを入れられて、今度は上に跳ねる。


「ぇっ・・・」


 マズい、アイツにペースを握られている。どうにか反撃しないと。

 なんて思ってる内は全然反応出来ない速度で、続けて地面に叩きつけられた。


「あ゛ぅっ」


 反撃じゃない。まずは距離を取ることを最優先に

「遅ぇ!!」


「ごぇっ」


 気づかぬ内に背後を取られていた。


 横腹を蹴られて、凄い勢いで吹き飛ばされる。

 地面に体を二回、三回、四回と、何度も跳ねてようやく立ち上がる。


 顔をあげると、暴食がゆっくりこちらに向かって歩いてきている。


「おいおい、啖呵切った割に弱ぇじゃねぇか。

 心を折るより、いっそ殺した方が早いか?」


「・・・はは」


 もはや渇いた笑いしか出てこない。


 なんてもん(化け物)を起こしてしまったんだ、俺は。

 この強さに凶暴性。封印されるのも納得だ。


「どうする?まだ苦しむか?」


「・・・笑わせんな」


 誰が諦めてやるか。


 幸いなことに、ここは精神世界。俺の能力の回転率も、俺の思うがままだ。

 勝てる見込みは全く無い。


 が、諦めなければ負けじゃない。ならば、徹底的に抗うまで。


「来いよ“暴食”。俺がお前を喰ってやる」


「へぇ、より一層ぶっ殺したくなったぜ」




 精神世界での激闘は、一瞬とも永遠とも思える闘いになった。

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