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15話:即席捜索隊

 洞窟の中を全速力で駆け抜ける。


 自分でも信じられない程の速さで、前方を走るシーナの背中を追いかけるが、その距離は一向に縮まる気がしない。


「・・・!・・・!」


 シーナは何かを小声で囁きながら、どこかに向かって一心不乱に走り続ける。その姿はまるで、何かに取り憑かれているようにも見える。


「はぁっ、はぁっ・・・!」


 こんなに長い時間を走るのなんていつぶりか。俺の体には徐々に疲れが溜まっていく。


「ユウマ君、気を抜かないで!」


「ひええぇぇぇ・・・!」


 後ろから着いてきているエリーに一喝を入れられ、緩んだ足に再び鞭を打つ。



 最前線をシーナが走り、そこから五十メートル程離れた後ろから、俺、エリー、シルヴィの順番で追いかける。


 いやほんと、この三人は一体どういう身体能力してるんでしょうね?

 俺はもうクタクタなのに、シルヴィもシーナも全くペースを落とさない。エリーに至っては、息切れすら起こしていない。


 冒険家っていうのは、これぐらい身体能力が求められるのか・・・?

 ちょっと、卒業後は別の道を探した方がいいかもしれないな。




「―――ソーマ!!!」


 最早追いつくことだけに意識を集中していると、前を走っていたシーナが突然ブレーキを掛けた。


「ちょ、おま」


 走ることで精一杯、意識が朦朧としていた俺がシーナの急停止に気付ける筈もなく。


「と、ま、れ、ないぃいいいいい???!!!!?!!」


「え?!」


 俺の大声にビックリしたようなシーナは、咄嗟に道の脇に避ける。

 ちょ、俺はどうなんねん・・・。


「シーナ―」


 と、彼女の名前を呼ぶ声がまるで新幹線が通り過ぎるような感じに聞こえた。


 勢いを殺せなかった俺は、途中でバランスを崩して転がりながら、慣性の法則に従って壁に激突、岩壁は衝撃で小さなクレーターを作った。


「っ~〜!???!」


 激突の衝撃で、体の節々がとても痛む。

 しばらく動けそうにもないので、その場で仰向けになりながら、シーナ達の様子を遠目で見ていた。


「シーナ、無事だったんだな・・・!

 本当に良かった・・・」


「ソーマの方こそ、怪我は無い?

 合流出来て良かった・・・!」


 ・・・なんかよく分からんが、あちらの方では素晴らしい兄妹愛が展開されているようだ。

 突然に単独行動をするのはいただけないが、兄妹で再開出来たのは良きことだ。


 ・・・ソーマの隣には、アルト先輩もいる。

 どうやら、ソーマとアルト先輩はツーマンセルで行動していたようだ。


「キュウ、キュウ!」


「・・・アスモも、無事だったか」


 壁に激突した俺を心配してか、円満としているグループの輪から離れて、アスモが俺の近くに寄ってきてくれる。


 良かった、アスモも二人と一緒に行動してたのか・・・。

 アスモが生きていてくれたなら、俺としては万々歳だ。




 痛みも治まってきたので、壁に埋まった体を起こす。


 ふとクレーターの方を見てみると、それはもう、綺麗に円状に波紋が広がっていた。

 こんな綺麗なの、ド〇ゴンボールでしか見たことないぞ・・・。


「ユウマ君、体は大丈夫?」


「まぁなんとか」


 肩をグルグル回して、体が正常に動くことを確認する。

 ほんと、この体便利だな。こんな重傷でもすぐに治っちゃうんだから。




「・・・さて、これで副会長以外は揃ったわけですが・・・」


 アルト先輩が、その場に集まっていた生徒会メンバー

(+α‬)を統率する。


 そう、これで後見つかっていない、正確には合流出来ていないのは、副会長であるアイク先輩のみである。

 副会長さえ見つけることが出来れば、後は転移陣でこのダンジョンを脱出するだけなのだが・・・。


「副会長とは、大きな空間ではぐれてしまいました・・・」


「ということは、途中まで一緒にいた、ということですね?」


「何か、洞窟の奥から迫ってくる魔物と戦闘したようですけど・・・」


 生徒会メンバーの方で勝手に話が進むので、俺とエリーは話に割り込む隙がない。

 勝手に話が纏まるのなら、それはそれでいいんだけど。


「ソーマ、シーナ。

 感覚的に大まかな位置は分かりますか?」


「・・・ダメ、この近くにはいないみたいです」


 しばらく意識を研ぎ澄ましたソーマとシーナだが、ピンと来るような反応は無かったようだ。


 それにしても、感覚を研ぎ澄ませて何かしらの情報を収集(リサーチ)出来るっていうのは、獣人の特権だったりするのかね。

 二人は猫の獣人だから、聴覚が優れてたり、とか。


 まぁ、サクラと同じように耳を隠しているようだけど。

 それじゃあ普通の人と見分けつかないよ。


「・・・なら、本格的に捜索案を考えるしか」

「待って下さい」


 アルト先輩が喋っているところに、ソーマが割り込む。


 何があったのだろうか、と思ったが、要因はすぐに分かった。


「・・・雄叫び?」


 どこかの穴から、何かけたたましい雄叫びが微かに聞こえてくる。

 雄叫び、というよりは咆哮に近いだろうか。


 シーナとソーマはまるですぐ近くにいるかのように聞き取れたのか、二人揃って身震いをした。


「・・・先輩、この咆哮は・・・」


「聞き取りづらいですが、恐らく間違いありませんね」


 ソーマとアルト先輩はこの咆哮に聞き覚えがあるのか、二人でアイコンタクトを取っている。


「・・・ユウマ君、副会長さんを助けたいと思う?」


「へ?」


 あまり目立っていなかったエリーが、唐突にそんなことを聞いてきた。

 副会長を助けたいって・・・。


 俺個人としては、別にそうでもないが・・・。


「何でそんな事を?」


「・・・副会長さんを探すのなら多分、この中から死人が出てもおかしくないよ」


 エリーはやけに現実味を帯びた表情で、いつもの冗談交じりの口調ではなく、真剣にそう伝えた。


 副会長を探すのなら、死を覚悟しておけ。

 この質問の意味はつまり、そういう事だろうか。


 確かに、今聞こえてきた咆哮は、明らかに今までの魔物と格が違うのは分かるけど・・・。

 それでも、この人数で掛かって仕留めきれないなんてあるのか?


「・・・それを決めるのは俺じゃないな」


 どちらにせよ、副会長の生殺与奪権は俺にあるわけじゃない。

 もしかしたらとっくに野垂れ死んでいるかもしれないし、まだどこかで命からがら生き残っているかも知れないが。




 それを、今決められるのは俺じゃない。アルト先輩だ。


 その場の全員が、アルト先輩を見つめる。


「・・・」


 しばらくの沈黙。



 やがて、アルト先輩は口を開いた。


「・・・エリーさん。

 申し訳ありませんが、協力をお願い出来ますか」


「・・・覚悟はいいんだね?」


 エリーは、アルト先輩の眼を真っ直ぐに見つめる。


「覚悟のない人は、転移陣でダンジョンから離脱後、至急会長に応援を要請して下さい」


 アルト先輩は振り返って、生徒会メンバーに離脱したければするように促す。


「「「・・・」」」


 誰一人として、その場から離れようとする人間は居なかった。

 正直、俺は今すぐにでも帰りたい気持ちだが、こんな空気の中「じゃあ帰ります」なんて言えない。

 こいつら、死が怖くないのか?


「・・・ユウマ・アイサカ。あなたはどうしますか?」


「・・・まぁ。遠征の一環ですし、付き合いますよ。

 俺だけひょっこり帰ってきたら、会長に何されるか分かったもんじゃないですし」


 もしかしたら、「何でお前だけ」とか言って殺されるかもしれない。あの会長に限ってそれは無いと思うけど。


「・・・分かりました。

 ではこれより、生徒会メンバーは私が指揮を執ります。

 ユウマ・アイサカとエリーさんは、独断でサポート、危機的状況には指揮をお願いします」


 えぇ?なんかハブられたんすけど。


 てか、普通エリーが指揮するべきじゃないんですかね?


「分かった。私が先陣を切るね」


 ・・・うーん?

 なんかこの二人の会話、噛み合ってるのか噛み合ってないのかよく分からん。

 先陣はサポート役がすることでは無いと思うんですけど・・・。


 まぁ、お互いに納得してるし、噛み合ってはいるのかな?


「では参りましょう。

 シーナ、案内をお願いします」


「はい、こっちです」



 何はともあれ、エリーを加えた即席パーティーは、副会長の捜索を開始するべく、洞穴の奥を進み始めた。




 ―――




 ダンジョンの中の魔物は強い。

 それも、西の大陸に生きる魔物達となれば尚更だ。


「ユウマ君、カバー!」


「『炎針(ファドル)』!!」


 俺たちの陣形は、


 前衛:エリー

 中衛:アルト先輩、ソーマ、俺 (とアスモ)

 後衛:シーナ、シルヴィ


 といった感じになっている。



 前衛がチート級に強いせいで、後ろの五人に仕事が回ってくることは殆どない。

 が、いくらチートと言っても休まずに戦い続ければ疲労も溜まる。仕留め損ねた魔物達を、俺たち中衛がサポートに回って仕留めるという戦法だ。


 後衛の役割は、殿を務める事と、疲労の溜まった中衛のメンバーとチェンジする事。

 最悪の事態を想定して、少なくとも二人は動ける人間がいる方がいい、というエリーの提案によるものだ。従って、後衛は基本的に戦闘に参加しない。



 エリーが撃ち漏らした二匹のケベスの内一体を、炎針で三つの頭の中枢を撃ち抜く。

 残りの一体は、アルト先輩がいつもの小刀で首を切り刎ねていた。


「ふぅ・・・」


 十匹のケベスとの戦闘を終えて、一息をつく。


 これで、戦闘になるのは八回目だ。ダンジョンの下層に進んでいるせいなのか、魔物と遭遇する確率が高くなっているような。

 最も、俺たちの最優先目的はダンジョンの最奥に向かうことではない。

 副会長の生死を確認して、このダンジョンから離脱することである。こんな魔物の足止めは出来る限り喰らいたくない。


「それにしても、結構歩いたよね・・・」


 シーナがポソリと呟く。



 確かに、アルト先輩組と合流してからもう七時間は歩き続きだな。

 時間も時間だし、そろそろ休息を取った方がいいと思うけど・・・。


「・・・もう少し進みましょう」


 アルト先輩は先程からずっとこの調子である。

 あと少し、あと少しを何回も繰り返して、結果的にメンバーの疲れを溜め続けている。


 本当なら、もって前の時点から休むべきだろう。


「この先に湖があるから、今日はそこで休もうか」


 湖?地底湖ということか。


 なるほど。湖というぐらいならそこそこ広いだろうし、魔物が接近してきてもすぐに気付ける。


 何より、広いということは、またあの広間みたいに多くの出入口に繋がっているかもしれない。副会長と出会える可能性もあるだろう。



 エリーの言う通り、俺たちは少し進んだ先の地底湖で、小休止する事にした。




 ―――




 ―洞窟は昼夜の感覚が無くなるな。

 水面に映る自分自身の姿を見つめながら、そんな事を考える。



 他のメンバーは焚き火を囲うようにして、各々寝息をついている。

 あのエリーですら、疲労困憊だったのか、最初の見張りを俺に任せて先に寝てしまった。


 ・・・まぁ、俺が疲労で動けないよりは、エリーが疲労で動けない方がよっぽど困るので、合理的ではあるけど。

 俺自身も、疲れは溜まっているが不思議と眠くはならないので、文句を言うこともなく承諾した。



 眠れない要因。

 異世界に転生してからというものの、この世界にはいつも驚かされる。

 日常的に起こる予想外な事が積み重なって、俺の意識を高揚させるのが、眠れない要因なのかもしれない。

 あるいは、命の危険を感じるような状況に、寝ている暇が無いと心のどこかで思い込んでいるのか。


「・・・キュ・・・」


 膝元で健やかな寝息をたてるアスモ。

 その背中の鱗を、そっと撫でる。


 思えば、コイツも孵化した頃はちっちゃかった癖に、今となっては膝が痺れるくらいに重たくなりやがって。

 その内人並みの大きさになって、コイツを肩に乗せてやることも出来なくなるんじゃないだろうか。

 あー、それはやだな。なんというか、肩に乗せるからこその相棒感っていうのがあると思うんだ。

 ほら、どこぞのサト〇とピカチ〇ウみたいに。




 そろそろ一時間が経っただろうか。


 俺たちは、一時間おきに一人が見張りをする事になった。

 ツーマンセルじゃなくて大丈夫かと思ったが、これだけ広ければ魔物の襲撃に気付いても、全員起こす方が早いはずだ。


「さて、と」


 エリーと番交代をしようとして、アスモを抱えて立ち上がる。






 ピシャ






「?!」


 何かが俺の足に絡まった。


 それを理解した時にはもう遅く、俺の体は湖の中に引きずり込まれ、咄嗟の判断で抱き抱えていたアスモを皆の方に投げ飛ばした。


「がっ、ぼぼっ、ぐごっ!??!」


 水中に潜る事になるとは思っていなかった。息が、酸素が全然足りない。

 それでもどうにか、俺の足を掴んでいるものの正体を確認する。



 触手。

 濃い茶色をした細い触手が、俺の右足に絡まっている。


 こんな事をするということは、魔物か。はたまた肉食系のイカか何かか。

 どちらだとしても関係ない。今は一刻も早くこの状況を打破しなくては。



 触手を早く焼き切ろうとして、自らの右足より少し下めを狙うように煉獄弾(フェーゲル・ライフル)を構える。


 冷静な判断が出来ていたなら、炎系統以外の魔術を使っていればここで俺は助かっていたかもしれない。



 水の中、魔力から煉獄弾を生成する瞬間までは上手くいったが、いつものように燃え盛ることはなく、即座に消えてしまう。


「っ?!」


 異常事態だと考えて、無駄に体を動かしてしまう。

 魔術が駄目なら力ずくで、という作戦だ。


 右足をバタバタさせても、触手が離れるどころか、無駄に体内の酸素を消費するだけだった。






 マズい、このままだと―






 そこで、俺の意識はプツリと途絶えた。

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