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10話:一夜漬け

 カッ、カッ、と石の階段を下る音が二つ響く。

 城下町から城に戻ってきた俺は、アルト先輩に連れられて城の地下に連れ込まれている。


「・・・本当に、こんなとこに会長が?」


 アルト先輩は、会長に命じられて俺を連れて来た。なら、普通は会長の下に案内してくれる筈だ。

 先程から、大分下の方まで降りている。この先に会長が居ると言うなら、そろそろ着いてもいいはずだ。

 まさか、罠とかじゃ・・・。


「・・・着きました」


 先を歩くアルト先輩が足を止める。

 その先には、ただ、普通の木製の扉がそこにあった。


「役目は果たしたので、これにて失礼します」


「え、ちょ・・・」


 アルト先輩は振り向き、俺の横を通り過ぎて、今来た階段を再び登っていく。

 こ、こんな所で一人にしないでくれよ・・・。


 階段を登っていくアルト先輩から、目の前の扉に視線を戻す。

 ・・・この先に、先輩がいるのか。


 おそるおそる、取っ手を掴み、木製の扉を開く。

 ギシ、と今にも壊れそうな音をあげる。




「来たか」


 扉の先には、岩壁に囲まれた広い空間。天井には一つの電球。

 その空間の真ん中で、会長は腕を組みながら立っていた。

 ヤベェ、激おこだよ・・・。


「すみません許して下さい何でもしますから」


「何を言っている?我に何か不都合な事でもしたのか?」


 土下座をして許しを乞うと、会長から質問が来た。


「いや、約束した時間通りに来なかったからおこなのかと・・・」


「誰も時間を指定した覚えは無いのだがな」


 ・・・そういえば、手紙には時間を指定するような事は書かれていなかったな。

 じゃあ、何でおこなんだろうか。


「・・・時間も無い、始めるとするか」


「始める?」


 疑問を抱きつつ会長の機嫌を伺っていると、突然「始める」と言い出した。

 まさか、お仕置きとかじゃ・・・。


 ビクビク怯えていると、会長は右手を上げて、パチン、と気持ちの良い音で指を鳴らした。

 すると


「わぶっ?!」


 どこからともなく、俺の頭上から大量の水が降り注いだ。もちろん突然なので、俺は避ける間もなくそれをモロに被ってしまう。


「・・・な、何するんすか!」


「今からお前には、30分で水の魔術を使えるようになってもらう」


「えぇ!?」


 いきなりの指令を出される。

 水系統を、三十分?絶対に無理ですって。


「その次は火、地、電気、氷、毒・・・」


「ちょ、まさかそれを今日でやるつもりですか!?」


 超ハードな内容に、愕然とする。

 まさか、会長がここに呼び出した目的って・・・。


「無論だ。明日の攻略の為の下準備だからな」


 やっぱり修行目当てでここに連れ込まれたのか・・・!


 会長とのやり取りの間にも、水嵩は僅かに、少しずつ増していく。

 会長は空中を浮遊していて、全く水に濡れていない。


「そうだな、水流球(アクアボール)が撃てるようになれば、まぁ及第点か」


 どんな魔術かは分からないが、名前からして、おそらく獄炎球(フレイムボール)の水属性版だろう。


「・・・やるしかないか」


 水嵩は相変わらず増えるばかりだ。会長のこの様子だと、俺が水流球を習得するまで水を止めるつもりは無いようだ。

 丁度いい。他の魔術もそろそろ覚えた方がいいと思っていた。この際に覚えとくか。


 ・・・水の増加を、止めるつもりは無い、と。


「ちなみに、ここは30分後には満水になるのでな。モタモタしていると溺れ死ぬぞ」


「おおおおおお!!!水流球!!」


 死ぬ気で習得に励むことにした。



 ---



「はぁ、はぁ・・・」


 それから二十五分後。

 先程までは岩壁が目立っていた広い空間は、ほぼ満水となっていた。

 俺も、どうにか顔を出して息が出来る状態だ。


「あと5分だ」


 会長はと言うと、とっくに水の中に沈んでいる。

 が、変なバリアの様なものに体を守られており、余裕の表情でこちらの様子を観察している。


「・・・っ、水流球!!」


 右手の魔力を水に変えるイメージで、水の塊を構築する。

 が、何度やってもイメージは崩れ、少し水を纏った魔力はすぐに消散する。


 何で出来ない?炎系統の魔術ばかり使っているからか?


 魔術というのは、周りの環境によっても威力が変わるという。自然系統なら、その影響も大きく受ける。

 こんなに大量に水がある場所でなら、威力は変わらないにしても、使えないという事は無いはず。


「水流球!!」


 岩壁に向けて再度、同じ魔術を唱えてみる。

 が、やはり先程と何の変化もなく、同じようにして魔力は消散してしまう。


「・・・ふむ」


 会長は依然として、腕を組んでこちらの様子を見守っている。

 その会長が、何かに納得したような声をあげた。


「ユウマ。貴様、詠唱を覚えているか?」


「詠唱?」


「魔術というのは本来、それに応じた詠唱を唱えてから放つものだ。時代が進むにつれて、詠唱の意味が変わり続けているからな」


 詠唱、か。

 確か、学校の授業で習った内容では“ 詠唱とは魔術を発動するための補助機能”だったか。


 ・・・そうか。会長はもう、何百年もの間生き続けているんだよな。詠唱の本来の意味を知っていても不思議では無いはずだ。

 亀の甲より年の功と言う。ここは大先輩の言葉通りにやってみるか。


「・・・」


 詠唱何だったっけ。


 あれ〜?確か前、授業でやったような希ガス・・・。


「・・・母なる大地に宿りし水の精よ、我がくぁwせdrftgyふじこlp『水流球』」


 やはり覚えていないもんは覚えていない。が、やってみないことには状況は変わらないので、後半を適当にごまかして詠唱を唱えてみる。


 すると、詠唱が認識されたのか、魔力は水の塊となってみるみる大きくなっていく。

 どうやら、ちゃんと成功出来たらしい。


「おお、やった!」


「・・・マズイな」


 水の球は、回転力を増しながらどんどん大きくなっていく。

 大きく大きく・・・。


「・・・ん?」


 何か、デジャヴを感じるな。気のせいか?


 -瞬間。


 パアァァァァァァンッ!!


「ぶぶっ!?」


 大きな音が聞こえるとほぼ同時に、会長に足を掴まれて水中へと引きずり込まれた。

 しかしそれは一瞬で、音が終わると同時に足は開放された。


「ぶはっ!!」


 もちろん、事前に引き込まれる事なんて予想していなかったので、口や鼻から水を大量に吸ってしまった。


「な゛、な゛にずるんてすか!」


「あのままだと、貴様の鼓膜が危険だったのでな。即座に出来る最善の方法をとったまでだ」


 だからって、いきなりする事では無いでしょうよ。


「・・・それより、今のはどうですか!?」


「ん?・・・ああ」


 下手くそ、なんてレベルの代物では無いが、一応水流球に変わりはない。唱えることが出来るなら、修行は成功でいいはずだ。


「・・・まぁ、及第点か」


 少しの思考の後、会長から『及第点』の声を貰った。


 会長が指を鳴らすと、それまで増え続けていた水が止まり、少しずつ水が引き始めた。


「本音を言うと、貴様にはこれぐらいコントロール出来るようになって欲しいものだが・・・。やはり少し早かったか」


 コントロールする、というのは、溜まり続けたこの水の事だろう。

 初の魔術でここまでやれと言うのは、さすがに鬼畜では無いだろうか。


 やがて、先程まで水で埋め尽くされていた広場は、最初に見た時と同じように岩壁に囲まれた広場へと戻った。


「っはぁ〜・・・」


 疲れ果て、その場に仰向けになる。

 いきなり呼び出しておいて、こんな事させられるとは・・・。


「・・・休めたか?」


「まだ一分も経ってませんよ?!」


 そんなに短い間隔でメニュー挟んでんの?

 本当に、この合宿で俺死ぬんじゃないかとさえ思えてくる。


「・・・それより会長」


「どうした?」


「さっき“明日の攻略”って言ってましたけど、何の話ですか?」


 この訓練は全て、明日の為に行っている、らしい。

 明日何かがあるのは確かであるが、俺は事前に話を聞いているわけでは無い。

 せめて、明日どこに行くかだけでも分かれば、気合が入るんだけどなぁ。


「そうか、貴様には事前に伝えていなかったか。生徒会室で皆に伝えたから、貴様にも伝えた気でいたが」


 ・・・会長の日常に、俺は当たり前に居るもんなんだろうか?


「・・・明日、我々はダンジョンの攻略に行く」


「・・・ほほう」


 ダンジョンとな。これまた異世界ありきのワードが飛び出してきましたな。


「行く目的があるんですか?」


「無論だ。今回の合宿も、ダンジョン攻略による各々の実力の向上が主な目的だからな」


 なるほど。生徒会一年坊を鍛え上げるのにもいい感じの目的なのだろう。

 俺が巻き込まれたのには納得いかんがね。


「・・・今回のダンジョンの最深部に眠るとある物が、我に必要なのだ」


「とある物?」


 何だろう。どっかの一族の血液とか?

「WRYYYYY」とか言いそうだな。さすがに無いだろうけど。


「・・・丁度いい。貴様に頼みがある」


「頼み・・・、ですか」


 上半身を起こして、会長の頼みとやらを聞いてみる。

 会長も、俺と同じようにしてその場に胡坐をかいて座り込んだ。


「その『とある物』の事だが---」



 ---



 翌日。


「・・・よし、皆揃っているな」


 城下町の門の前で、俺たちと生徒会は、荷物と人員の最終チェックを行っている。

 遅刻者は一人もいない。俺を除いて。


「・・・」


 俺が遅刻したせいだろう、さっきからアルト先輩に睨まれ続けている。

 会長には口で言っても聞く耳を持たないのを知っているからだろうな。今日はやけに大人しい。

 それとも、何か企んでいるのか。


「・・・にしても」


 アルト先輩から、馬車に乗せられた荷物に目をやる。

 実際に全部持ち歩きながら行く訳では無いが、荷物が非常に多い。馬の餌用のスペースが、まるまる荷物になった感じだ。


 素人目の俺には何も分からないが、話によると、これ全部がダンジョン攻略に必要なものらしい。

 全部持ち歩くわけでもないのに、全部必要なのか・・・。


「よし、ではそれぞれの馬車に乗れ」


 会長の指示で、前と同じグループで分かれて馬車に乗り込む。

 ・・・荷物のせいで、やはり馬車の中は狭い。てか、前より若干狭まっている。


「では行くぞ・・・」


「お、王子ー!!」


 今まさに出発しようとしたその時、門から一人の魔族の人が出てきた。


「・・・何だ?」


 会長はその人物に、ややイラついたように接する。

 それもそうか。出発の時間が遅れるからな。


「た、大変です!・・・・・・・・・」


 魔族の人は会長の耳元で、まるで漫画みたいに口を手で隠しながらゴニョゴニョと何かを伝える。


「・・・ふむ」


 それを聞き終えた会長は、何やら考え込む。

 考え込む程、何かヤバイ事が起きたのだろうか?


 ・・・しばらくして、会長が口を開く。


「ユウマよ、貴様にこの馬を預ける」


「へ?」


「アイク!貴様に全指揮を委ねる!全員無事で帰ってこい」


「・・・キュリエス、急にどうしたんだ」


 会長は俺に手綱を手渡すと、馬車を降りて街の方に行ってしまう。

 えぇ?俺がやらないと駄目ぇ?


「王族の用件だ。貴様らは貴様らの課題を成し遂げて来るのだ」


 王族の用件。

 そうか。会長はあれでも、一国の王子なんだよな。関わらないわけには行かないか。


「ユウマ!」


 会長は街に戻る前に、俺に何かを投げつける。


「わっ、とっ、と」


 格好よく左手でキャッチすることは出来ず、両手でどうにかそれを掴む。

 渡された物は、三錠の薬が入った小瓶だ。


「もし、命の危機に陥ったのならそれを飲め」


 それだけ告げて、会長は門の中へと消えた。

 命の危機、って・・・。


「・・・ガチで、俺死んだりしないよなぁ?」


 会長不在の元、俺たちと生徒会メンバーによる強化プログラムが開始された。

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