9話:異国の一日
「・・・」
-意識がある。ということは、あれから俺は助かったようだ。
夜の寒い砂漠の中、というわけでも無さそうで、何かふかふかな物に身を包まれている。毛布、だろうか。
現在の状態を確認するため、ゆっくりと目を開く。
「・・・知らない天井」
真紅を基調とした、ダイアゴナルチェックの天井。こんな柄、学校でも家でも見たことない。
俺たちの移動手段である、馬車でも無いとしたら、ここは一体どこだ?
「気が付きましたか」
最早テンプレなのか?と思うような、聞き慣れたように感じる台詞に首を傾ける。
俺って、いつも気絶してんな・・・。
顔を向けた先には、意外と言うかなんと言うか、アルトたんが椅子に腰掛けていた。
アスモを抱えながら。
・・・お前人気だねぇ。嫉妬しちゃうよ。
「・・・アルトたんが俺に付き添ってくれているとは、ついにデレたか?」
「殺しますよ」
「ごめんなさい」
単なるおふざけのつもりだったのだが、案の定な答えが返ってきた。
アルトたんは、いつ俺にデレてくれるんでしょうか。
「・・・で、今の状況は?ここはどこすか?」
「ここはアルラトス城、私たちは自由時間です。
私は役目を果たしましたのでこれにて」
淡白に説明して、アルトたんは席を立つ。
もうちょっと詳しく説明して欲しいものだが。
「全く、人の時間をなんだと思って・・・」
独り言を呟きながら、アルトたんは扉へと向かっていく。
・・・そうか。他のメンバーは、既に自由時間を過ごしているはずだもんな。アルトたんだけが、俺に付き添っていてくれていたんだ。その事には感謝しないとな。
「・・・俺はどれくらいの時間、気絶してたんですか?」
「・・・3日程です」
三日か。そこそこの時間眠っていたな。
まぁ、骨を何本か折ってたし、魔術を使ったとしてもそれ位は掛かるのかもしれない。
三日も縛られていたとなると、確かにストレスは溜まってもおかしくは無いだろう。
「・・・あと、自然にアスモを連れて行こうとするの止めてください」
「キュウゥゥ・・・」
「・・・」
アスモを手放したアルトたんは、部屋の外へと出ていった。
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自由時間。
アルトたんはそう言っていたし、俺も自由にしていいのだろうか。
と、部屋の中で一人で考えていた。
目が覚めたなら、一度、会長に顔を見せるべきだろうか?
・・・でも、会長が俺に手をつけられない、ということは、何か大事な用事があるのかもしれない。
てか、そもそもここは城だ。案内も無しに会長を探すとなると、一日あっても足りない。多分。
というわけで。
「外に出るか」
と、一人勝手に結論づけた。
「フュウ、フュウ」
俺が部屋を出ようとすると、アスモが何かを加えて、窓から戻ってきた。
「・・・手紙?」
アスモからそれを受け取り、封を切る。
手紙の差出人は、会長からだった。
「・・・『目が覚めたのなら、一度街を見物してこい。』か」
そこには、今は手が放せないこととか、街には何があるかとか、色んな事が書かれていた。
その手紙の最後には、『最大級魔術を使いたいなら、後で我の元に来い。』と書かれていた。
アレ、見られてたのか・・・。
とにかく。
会長からの許しを得たんだ。別の大陸の街を、思う存分楽しもう。
今度こそ俺は、アスモと共に部屋を後にした。
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「はぇ〜、すっごいおっきい・・・」
城門を出て後ろを振り返ってみると、学校の数倍はあるであろうデカさの城が佇んでいる。
実際、城を出てから城門に着くまでの距離も、二分くらい掛かった。二分も同じ敷地内を歩くって、中々無い事だと思うぞ。
あの先輩、器だけでなく、財力まで持ち合わせてんのかよ。
ヤベェ人に目を付けられたと、改めて思う。
城から目を離し、街の方に顔を向ける。
ここは、城下町から見るとかなり高い位置にある場所のようで、街の全景の殆どが一望できる。
こんな広い街、一日で回れるもんなのか・・・?
あ、エニストルのように転移魔法陣があったりするのか。だったら移動に困らないな。
さて、どこから回ってみようか。
街の上から、どこか賑わってそうな場所を探してみる。
「・・・あっこかな」
左側手前の方に、何やら賑わってそうな大通りがあるのが、この距離からでも分かる。
近場の方では、他には特にめぼしい場所は見当たらなかったので、とりあえずそこに向かってみることにした。
新しい魔術とか見れたら、儲けもんかな。
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遠かった。
先程の城の前から30分程歩いて、ようやく俺が目的地にしていた場所にたどり着いた。
たどり着いたその場所は、元々の暑さに人混みの熱気も混じり、とても平気で歩けるような場所では無かった。
喉乾いた。汗が気持ち悪い。
そう思った俺は、人混みからどうにか逃れようとして適当な路地に入る。
「ふぅ・・・」
とても涼しい。夏場はやはり日陰に限る。
クーラーとかもあるといいのだが、この世界ではあるかは分からない。電気も通っているんだし、不可能では無いと思うが。
「キュウゥ・・・」
アスモもかなりバテている。熱中症にならないか心配だ。
・・・そうだ!
「ここで水を生成しよう」
外は暑くてたまらない、人混みも多くて、まず水を売っている店まで行けるかも分からない。
それなら話は早い。日陰の中で魔術を使い、水を作ればいい。
確実に水が手に入るし、わざわざあんな蒸し暑い所に突っ込まなくても済む。うん、魔術もそう考えると、とても便利だ。
早速、水系統魔術を練るために、手のひらに魔力を集める。
「待ってろよアスモ、水を作ってやるかんな」
アスモは最早、地面に野垂れて「ギュウゥゥ・・・」と呻き声をあげている。
脱水症状になる前に、どうにかしなければ。
手のひらの魔力は、みるみる内に目に見えるような白色になり、そして赤色へとだんだん変色していく。
・・・ん?赤色?
「・・・これ、まさか」
気付いた頃にはもう遅い。
赤色になった魔力は留まることを知らず、益々深紅に染まっていく。
そして、深紅の魔力は段々、メラメラと徐々に燃え始める。
・・・あ〜、これは・・・。
「そういえば、水って『自然系統』だったっけ・・・」
ドォォォォォ・・・ン・・・
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「・・・で、魔術を教えて欲しいと?」
時間は夕暮れ時。
魔術の暴走によって爆発を引き起こした俺は、民家の弁償代などを請求されるハメになり、どうにか人目を避けながら城に戻ってきた。
水の方は諦めた。
「いえっさ」
それから城の散策をしていると、偶然にも副会長と遭遇したので、今はこうして魔術のコーチをしてもらおうと頼み込んでいる。
「・・・まず、家の弁償代は払ったのか?」
「払って無いっス」
城を追い出された。
「面倒事をこちらにまで持ってくるな」
「お願いします!せめて、建築に役立つ魔術だけでも!」
何でもするとは言っていない。
てか普通、副会長って生徒のミスをどうにかしてくれるような役職じゃないんすか・・・?
ああ、嫌われてんだった。そもそも、そんなのは都合が良すぎるな。
副会長は無慈悲に、城門の扉を閉めた。
「・・・どうしよっかなぁ・・・」
オレンジ色に染まった街並みを眺めながら考える。
弁償、とは言っても、とても高校生に払えるような額では無さそうだしなぁ。
魔術で直す、というのも出来るのかもしれないが、俺にそんな技術は無い。また暴走したらたまったもんじゃあ無いし。
・・・でも、直さないと俺の寝床が・・・。
「野宿かなぁ」
こんな街で野宿なんかしたら、寒さで死にそうではあるけど。
旅費は全面出してくれる、という会長の言葉を信じて、俺は特に金を持ってきていない。
多少はあるにはある。が、それはウルスたちへのお土産の分だ。こんなことで使ってはいけない。
「・・・しょうがない」
一度、魔術で修復を試してみよう。それが駄目なら今日は野宿だ。
長い下り坂を降りて、先程の爆発現場へと足を運ぶことにした。
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案の定ダメだった。
「とっとと失せろ!この糞ガキ!」
どうにか魔術で土をそれっぽく出来るか試してみたが、どうにも上手くいかず、何度も火系統の魔術ばかりが出来てしまった。
炎系統ばかり使っているからこうなるのか・・・。
厳つい顔の魔族に怒鳴られて、一目散にその場から離れる。
「・・・本格的にどうしよう」
エニストルならまだしも、ここは知らない土地だ。夜の街にどんな人物がいるか分からない。あっちなら多少顔が利くが・・・。
戻ろうにも、堅物の副会長がいるしなぁ・・・。
「仕方ない、どこか適当な場所を探すか・・・」
俺の魔術の腕が未熟なばかりに引き起こした問題だ。落とし前ぐらいはつけよう。
一日野宿したぐらいで、副会長が許してくれるとはとても考えられないけどな。
今日の寝場所を見つけるために、夜の裏路地に足を踏み入れた。
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裏路地をしばらく歩いていると、これまでとは違う雰囲気の場所に出た。
「整備されていない場所・・・?」
先程までの道は、アスファルトで舗装はされていたが、ここは一切手をつけられていない。
例えるなら、田舎にある畑辺りの道のようだ。地面には石がそこら中に転がっていて、車が通れるような道ではない。
もっとも、この世界には車は無いし、この道は車が通れるような幅は無いけど。
道は整備されていないが、建物はある。が、先程と比べて建築数は少ない。
ここは所謂、過疎地域のようだ。
ここなら人通りも少ない、てか無い。人目を気にする必要は無さそうだ。
「とっとと寝る場所を探すか」
と、足を進めようと思ったら。
「他所モンがこんなトコに何しにきやがった」
背後から声を掛けられた。声からして、強そうな男のようだ。
・・・後ろから声を掛けられるのも、なんだかテンプレのような気がするなぁ。
「・・・何か?」
無視をするのも何だか怖い。「コイツは強い」と、俺の直感が言っている。とりあえず、話だけでも聞いておこう。
「金を出してとっととくたばれぇ!!」
「んなぁっ!?」
振り向くと同時に、男は突然、刃物で襲いかかってきた。振り下ろされる刃物が頬に当たるすれすれで、どうにか回避する。
「何しやがんだテメェ!」
俺の問いに答えず、男はすぐさま次の攻撃を繰り出す。今度は一直線に、俺の胸に目掛けた突きだ。
直線的な攻撃なら、往なすのは容易い。体を少し捻り、男の手首を掴む。
掴むつもり、だった。
「痛ってぇ!?」
男の手首に触れた瞬間、掴もうとした手に、何かが刺さったような痛みを感じた。
コイツ、手首に何か仕込んでやがる・・・!
大きく出来た隙を埋めるように、後ろに飛び退いて男と距離をとる。
「いきなり襲い掛かってきて、何のつもりだ?」
「・・・」
やはり答えない。
無言な奴ほど厄介な人間はいない。何をしてくるか分かったもんじゃない。
「・・・力には力で応じるしか無いよな」
仕方ない。人に撃つ場合の火力の加減具合がよく分からないが、この場合は正当防衛になるだろう。
相手が殺しに来てるなら、こっちも殺していいはずだ。そんな気は毛頭無いが。
右手に意識を集中し、魔力を溜める。
すると、沈黙していた男は突然、こちらへの攻撃を再開した。
手に持っていた刃物を、こちら目掛けて正確に投げ飛ばしてくる。
「う、そんっ!?」
顔を左にズラして、すんでのところでどうにか回避する。避ける際に、髪の毛に少し掠めた。
普通、自分の武器を飛ばすかよ・・・!
だが、相手が武器を持っていないなら、こちらも畳み掛けるチャンス・・・。
「『氷柱』!」
魔術使えるんかい。
男の方に振り向いた時には、俺に向けて大きな氷の棒が、勢いよく飛ばされていた。
「くっ、『火炎球』!」
魔力が全然溜まっていないが、撃つしかない。威力を少しでも相殺するためだ。
こんなの直撃したら、タダでは済まない。またアルトたんに迷惑を掛けたくないからな。
火炎球と氷の棒が衝突する。
だが、サイズの差は比べ物にならず、少しの威力も殺せずに火炎球は散り散りに吹き飛ばされる。このままでは直撃を喰らう。
せめて、受け身で少しでも・・・!
・・・。
・・・・・・。
「・・・?」
いくら待っても、俺に物が当たることは無い。
おそるおそる目を開けてみると、先程までの氷の棒は消えていた。
代わりに、バラバラに散りばめられた小さな氷と、先程の男が血を流して倒れていた。
その前には、アルトたんが。
「・・・こんな所を彷徨くから、野蛮な人間に絡まれるんです」
「・・・殺したんですか?」
アルトたんが持つ小刀からは、血が滴り落ちる。男が血まみれなのは、アルトたんが原因だろう。
「いいえ、死なないように斬りました」
「死なないようにって・・・」
どうやったらそんな斬り方が出来るんだ。
「帰りますよ。会長が待ちくたびれています」
「会長が・・・?」
「・・・会長に魔術の訓練を付けてもらうのでしょう。教えてもらう身が遅れるなど・・・」
ああ、手紙にそう書いていたな。まさか、こんな時間まで待ってくれているとは。
「・・・何をしているのですか」
「ん?あ、待ってください!」
気付かぬ内にアルトたんは裏路地の方に向かっている。
「・・・」
アルトたんを追いかけようとして、倒れた男の方を振り向く。
・・・放置してても、死なないよな?
「行きますよ」
「あ、はい!」
アルトたんに呼ばれて、俺は彼女の後に付いて城へと戻った。




