8話:VSゴーレム
ゴーレムの動きは鈍い、というかトロい。もしかすると、亀よりも遅い可能性がある。
それでも、確実に、少しずつではあるが、俺を殺すために近づいてきている。
「・・・ここまで遅いのか」
先程、ゴーレムに飛ばされて随分経ったが、ゴーレムと俺との距離はまだ二百メートルはあるだろう。
・・・ここまで遅いなら、別の魔術を試してみるのも手だな。
「よし」
右手に溜め続けた魔力を煉獄弾に変える。この魔力をぶつけて、少しでもゴーレムにダメージを与えてから新魔術を試してみよう。
って、この魔力量だと、もしかしたら倒してしまう可能性があるかな。
魔力の構成を急変換させ、手元の煉獄弾を火炎球に変える。
煉獄弾に比べて、大分火力の劣る火炎球なら倒すということは無いだろう。
「・・・《火炎球》!!」
掛け声と共に、俺の手元から火炎球が発射される。速度は煉獄弾にも劣らない。
程なくして、それはゴーレムに着弾する。
『 』
火炎球の直撃を貰ったゴーレムは、苦痛(?)の金切り音をあげて、ただでさえ遅かった足を止めてしまう。
それから、しばらくゴーレムは動かない。
・・・え、まさか、死んだわけでは無いよな?
『 』
唐突に、ゴーレムは先程よりも甲高い金切り音を発し、目と思われる部分を光らせる。
良かった、死んだ訳ではなかっ
グキャッ
「は?」
突然、視界が薄暗くなった。何かゴツゴツしたものが目の前に出現したようだ。
いや。それよりも。
何か、俺の左腕の方から、変な音がしたような・・・。
「・・・」
おそるおそる、音の鳴った方に目を向ける。
腕が、折れている。
それはもう、完璧に。左腕を上げようとすると、前腕の途中からは下にぶら下がる。綺麗に折れている。
「・・・あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
痛さのあまり、その場に倒れ込んでしばらくのたうち回る。
・・・!!
・・・・・・。
・・・・・・・・・?
「・・・あ、そっかぁ」
俺の特殊能力って、即効性の高い治癒能力だった。
十秒位その場で暴れていると、自然と左腕の痛みが消えていた。
右手を支えにして立ち上がる。目の前には、変わらずしてゴツゴツしたもの、もといゴーレムが佇んでいる。
なるほど、先程の骨折はコイツがやったのか。
攻撃された事におこだったようだ。なんだよ、不意打ちしてきた癖に。
折れた左腕の状態を確認すると、腕は依然としてぶらんと力なく下に向けられている。
・・・痛みは引いても、治るまでには時間が掛かる、てことか。
面倒臭い能力だなぁ。
「・・・さ、て、と」
本格的にどうしたものか。
先程のように、中途半端にダメージを与えると、また怒って強烈な一撃を喰らうことになるかもしれない。もうあんな痛い思いは勘弁だ。
となると、一撃で沈めるほか無いわけだが。
『・・・』
ゴーレムは静かに、その場で立ち尽くしている。本当に、微塵も動かない。
その姿に、先程の火炎球を喰らった跡は見当たらない。
・・・いくら下級魔術とはいえ、煉獄弾と同じ量の魔力は注いだ。
それで傷が無いとなると、煉獄弾でも、一撃で倒すのは難しいだろう。
だったら、やっぱり新魔術を試す、てか、それに賭けるしか無いな。
「・・・やるか」
左手に噛み・・・つこうとしたが、ゴーレムに折られたせいで、口まで腕が持ち上がらない。というか、全く持ち上がらない。持ち上げられない。
仕方が無いので、利き手である右手の小指に、下の犬歯で切れ込みを入れる。
少しの痛みと共に、小指から血が少しずつ垂れていく。
これで、魔術の下準備は完了だ。
「よし、そこを動くんじゃねぇぞ・・・」
ゴーレムにそう言って、足を踏み出そうとしたその時。
『 』
ゴーレムは短く金切り音をあげた後、突然動き出し、俺に向かって超威力のパンチを繰り出す。
「っと!」
それを、走り出した勢いでそのまま回避する。後ろの方で、ゴシャァッ、と地面がえぐれる音がした。
何かしてくるだろうな、とは思っていたが。まさか、あそこまで初見殺しな速度だとは。
『 』
ゴーレムは金切り音をあげて、続けて俺に向かって走ってきてパンチ、走ってきてパンチ、を繰り返している。
それをどうにか、パンチを繰り出すまでの一瞬の隙をついて、速度をあげてどうにか回避する。
地面に埋まってしまった手を抜き取るまでに、どうにか距離を稼ぐ。
そして、ゴーレムは手を抜き取ると、また、こちらに向かって高速で近づいてくる。
そしてパンチを繰り出す一瞬の隙をついて・・・、の無限ループ。
それをしばらく繰り返す。
「・・・こ、こぉ!」
ゴーレムがパンチを繰り出す一瞬の隙をついて、俺は一直線上に走っていたコースを斜めに切り返す。
ゴーレムは不意をつかれたのか、手を地面から抜いて、方向転換するまでに時間が掛かる。
その間に、大きく距離を稼ぐ。
が、相手さんの方も、このままではキリがないと理解していたのだろう。相手も攻撃の手段を変えてきた。
『 』
金切り音をあげたゴーレムの下に、黄土色の魔法陣が浮かび上がる。
あちらも、何か魔術の準備をしているのか?
『 』
ゴーレムが短く音を出すと、ゴーレムの周りの何も無い空間に、大量の岩石が突如として発生、生成された。
準備から発生までの時間、少し早すぎやしませんかね?
てかあのサイズ、一度でももらったらヤバイんじゃ・・・。
『 』
不安な思考が的中した。
ゴーレムが発射した岩石は、的確に俺を狙って一直線に飛んでくる。それを、走る速度をあげる事でどうにか回避する。
速度上げたり下げたりするの、疲れるからやめてくれや。
それはまだどうにかなる。俺が驚異と感じたのはその後だ。
俺という目標を見失った岩石は、どうなるか。普通に考えるなら、地面にぶつかって砕け散るだろう。
実際に、岩石は俺の予想と同じような状態になり、地面にぶつかり、大きかった岩石が、複数の中くらいの岩石になった。
複数の、中くらいの、岩石に。
砕けた岩石は、複数になっても尚、俺という目標目掛けて、今度は曲線上に、複数の角度から襲いかかる。
「うっそ、だろぉ!?」
その光景はさながら、自分がSTGの世界に迷い込んだよう。リアルでSTGやったら、多分こんな感じなんだろうな。
どこかの縦スクロール式の弾幕ゲーを思い出したが、この世界はゲームではない。紛れもない現実だ。
異世界、っていう点では少し似ているかもしれないが。
襲いかかる岩石をどうしようか、と悩んでいたところに、一つの案が思い浮かんだ。
弾幕ゲーなら弾幕ゲーらしく、避ければ良いのでは?
いやいや、さっきゲームじゃないって言ったばっかやん。これはそう簡単に避けれるものでは無い。
-避けるのが無理なら、撃ち落とす。
咄嗟に、右手をゴーレムの方に向け、手のひらに出来る限りの魔力を込める。
俺を狙っている、ということは、全ての岩石が一箇所に集まるわけだ。
まとまった岩石を一気に撃ち落とせれば・・・!
「・・・『火炎球』!」
俺の右手から、今までで多分三番目ぐらいのサイズの火炎球が撃ち出される。
岩石と俺との距離、僅か三十センチ程度のその隙間に。
バァァぁ・・・ン・・・
「うゎっち、あっち!」
超至近距離で、火炎球が爆発した。その火の粉が俺に降りかかる。
岩石は、先程のように分裂をすること無く、完全に焼滅していた。
代わりに、俺の下に新たな岩石が飛んでくる。
「え?」
岩石を撃ち落とせた事で、完全に油断していた。
俺の顔面にそれは直撃して、激しい痛みをもたらす。
「-〜っ!!」
咄嗟に左手で鼻先を抑える。
痛い。物凄い痛い。
さっきの骨折とは比べる余地はないが、日常生活の中で言えば、タンスの角に小指をぶつけた時ぐらい痛い。
この程度、俺にとってはそれぐらいだった。
左手を見てみると、手のひらに血がべっとり付いている。おそらく鼻血だろう。
てか、いつの間にか左手治ってるし。
左手をグーパーさせて、しっかり動くことを確認する。
「よし」
ちゃんと動く。これなら魔術も唱えやすい。
視界の奥にあった岩の塊は、また先程と同じように、大きな岩石を空中に生成している。
そして、ほとんどの間隔も無くそれを飛ばしてきた。
二度も同じミスはしない。
飛ばされた岩石を、左に走り込むように避ける。
俺に当たるはずだった岩石は、俺の後方に勢いよく飛ばされ、遠くで砕け散った。
それが俺を襲いに、遠くから不規則的な動きで飛んでくる、が。
左手で火炎球を生成して、それを受け止める。
先程の火炎球の状態で思いついた、即興の魔術だ。
火炎球の形状を、楕円体状から平面状にする。ただそれだけの魔術だ。
しかし、平面になった分、面積は広がっている。面積が広がれば、自ずと接触する部分も増える。
そう、言うなれば炎の壁、『火炎壁』だ。壁を生成して、俺は襲いかかる岩石を防いだ。
一回目で、岩石がなくなっていたのを見るに、この岩石も魔術で構成されてるみたいだし。目には目を、歯には歯を、魔術には魔術を、ってね。
火炎壁で防がれた岩石は、さっきのように、壁に当たった瞬間、すぐさま焼かれて消えた。
『 』
あちらにいるゴーレムは、俺に完全対策されたのが悔しいのか、大きな、しかし短めな金切り音を出す。
そしてゴーレムは、最初と同じように、俺に向かって力で殴りかかってきた。
と、その時のゴーレム。
なんと、かなり距離のある俺との隙間を、ジャンプ一回でほぼゼロまで縮めた。
つまり、俺の目の前に、ゴーレムがまた突如として出現した。
「うそん」
素直な感想が自然と漏れる。
だが、もうこんなのも何度もやられてるんだ。不意打ちに反応できずに、棒立ちになっている俺じゃない。
ゴーレムの速攻の左手を、体を右斜め前に飛び込ませ、当たるすれすれで回避する。
よし、避けることが出来た。
と、油断していると
グギッ
という音と共に、腹部に強烈な痛みが走り、俺の視界に急速にスピード線が掛かった。
もういちいち言葉に出す必要も無いだろう。「ぐぁっ」とか、「がァァァ」とか、正直に言うと言葉にする必要は無い。
どうせ、いくら叫んだところで、数秒後には痛みは引いているのだから。
ダメージの方は特に問題ないが、相変わらずの勢い良いパンチにより、俺の体はやっぱり、遥か遠くへと飛ばされる。
飛ばされながらも、ゴーレムの様子を伺ってみると、右手をこちらに向けた状態で、体はこちらに向けずに静止していた。
魔物のクセにフェイントとは、やるじゃないか。
地面に一度、二度、とバウンドして、三度目でどうにか受け身をとる。
左手でバランスをとり、ズザザザ、と派手に音を出しながら、靴を滑り止めにして、後ろへの勢いを殺す。
体勢を立て直して、遠くのゴーレムに向き直る。
『 』
俺に不意打ちを喰らわせて、どうやらご満悦のようだ。
どうやら、魔物の中でも、知能のある魔物とない魔物がいるようだ。
さて、あの魔物を倒す為にはどうするべきか。
「やるしか無いよなぁ」
先程から、アイツを倒す為の魔術をどうにか撃とうと隙を探っているが、どうにも戦闘スピードが早過ぎて追いつけない。
というかアイツ、見た目の割にはかなり素早い。
さっきも、目測で測って二百はあった距離を、まさかジャンプ一回で、一秒もしない内に縮めてくるとは思わないだろう。
恐らく、こうやって思考している内にもヤツは・・・。
「あれ?」
ふと前を見てみると、アイツが居なくなっている。
周りに岩らしき物も無い。擬態している、という訳でも無いようだ。
と、いうことは・・・。
・・・ォォォォォオオオオオ
何か、風を切る音が聞こえる。
背中に悪寒が走ったので、おそるおそる上空を向いてみる。
「うおわぁっ!?」
ズドオォォォンッ!!
と、上から巨大な岩石が、俺目掛けて降ってきた。
どうにか、コケる形になりながらも、俺は前に倒れるようにそれをどうにか回避する。
激しい砂煙は、その岩石の正体を隠すように、盛大にばら撒かれる。
ケホッケホッ、と口の中に入った砂を吐き出しながら、俺はゆっくりと立ち上がる。
そうやって、のんびりしていると。
ビュンッ
「がっ・・・!」
砂煙の中から突如、岩石の弾丸が、散弾銃のように一斉に吐き出される。その中の一つが、俺の腹に命中する。
なんでいつも腹なんだよ・・・。大腸がおかしくなったらどうすんだよ・・・。それはともかく。
やはりというか、その岩石の勢いは強い。常人なら、意識を失っていてもおかしくはないだろう。
岩石に勢いのままに飛ばされた俺の体は止まることを知らない。
岩石の勢いが弱まり、俺の体が地面に着く頃には、アイツとまた大分距離を離していた。
「ったく、少しは手加減しろっての・・・」
痛みがすぐに治まるとはいえど、喰らった瞬間は凄く痛いし、体へのダメージがすぐに回復する訳でもない。現に、俺の視界は若干歪んでいる。
これだけ喰らっといて、症状がこれだけとは、俺の体は本格的に人間ではなくなっているようだ。主人公補正か?
仰向けの体を起こし、足元を確認する。
地面には、大量の血痕。
その先には、今まで俺が辿ってきたダメージの跡、血で引かれた線が二方向に広がっていた。
つまり、今俺がいる地点は、最初に走り出した場所。
最初にゴーレムの攻撃を避けた場所と、一致する地点。
「・・・準備は出来た」
俺は最初から、右手の指に傷をつけた時から、この戦場に、五芒星を描くためだけに、奴の攻撃を総受けにしていたのだ。
『 』
ゴーレムは、俺が何をしようとしているのかに気付いたのか、すぐさま上空に飛び上がる。
-詠唱には、充分な時間だ。
右手で地面を叩き、詠唱を始める。
「-我が血を贄に、獄炎よ。目覚めよ」
たった一度、本で読んだだけの魔術。何気無い日常の中で手に入れた無駄な知識。
もちろん、こんな大掛かりな魔術は使った事が無い。成功するかどうかで言えば、失敗する可能性の方が高いだろう。
だが、俺の最大で倒せない可能性が高いなら、俺の限界を超えるしか生き残る術は無いだろう。
「魔の力を糧にし、我が敵陣を一掃せよ」
この魔術は、魔力を大きく消費して、その分のダメージを敵に与える魔術。なんちゃって〇ダンテだ。
その際に使われる魔法陣が、大きければ大きい程に威力が増す。
今回は、どれ程のダメージが出るのか分からないために、かなり大規模にしたが・・・。
「今ここに、地獄の業火を解き放たん」
その言葉をキーに、血の魔法陣が赤く光る。
俺の合図で、いつでも魔術を撃てるようになった状態だ。
上空で、俺の元へ降り掛かる無数の岩石に向かって、左手を掲げる。
アイツもアイツで、本気で潰しにきているようだ。
「-薙ぎ払え、『爍焰-』」
プツン、と。
何かが、俺の中から消えた。視界が、段々定まらなくなる。
やっぱり魔力不足、だったか-。
ぼやけた視界でも、何かが降り注いでくるのは確認出来る。
ああ、やらかしたなぁ・・・。
途切れ掛けの意識の中で、無数の激しい衝突音が耳に響いた。
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「やれやれ。やはり無鉄砲な魔術だったか」
夜の砂漠に、紅い星が描かれている。
その中心に、2人の青少年。
「・・・だがまぁ、よく立ち向かったと褒めてやるぞ」
『 』
その2人の下に、一つの石が襲いかかる。
「・・・さて。貴様の努力を無駄にするのも、少しばかり気が引けるな」
1人の青少年は、段々と近づいてくるその石に向かって手をかざす。
すると紅の星は、まるで夜空に浮かぶ星の様に輝きを放つ。
「何より、こういう魔術も、『友情』という感じがして面白いものだ」
1人の青少年はニヤリ、と悪魔の様な笑みを浮かべて。
「『爍焰破』」
と、短く呟いた。




