6話:海逅
「見ろよアスモ!海だぞ、海!」
「キュウ!」
俺たちは今、ストライフ先輩の実家が経営している旅客船のうちの一つを丸々1隻借り出して、西の大陸に向かっている。
まさか、異世界に来てまで客船に乗ることになるなんてな。客船に乗るなんていつ以来だろうか?
「こんな所で何をしてるんだ?」
後ろから声を掛けられて振り返る。
「・・・え~っと、風に当たってるだけです」
誰だったっけ、名前が全く思い出せない。確か演習場でアルトたんを止めた高身長の男だったが・・・。
そういえば副会長とか言ってたか。じゃあ副会長でいいや。
「そういう副会長こそ、ここに何か用事ですか?」
「・・・たまたまお前がいただけだ。特に用事もない」
ふーん、俺と同じく風に当たりに来ただけか。
「西の大陸、アイディーナ大陸に行ったことはあるか?」
「ないです」
突然の副会長からの質問に、反射的に即答する。
どうしてそんなことを急に聞き出すんだ?
「あそこの魔物はミレーア大陸のとは別格だ。死なないように気をつけるんだな」
む、まるで俺をコケにしてる言い方だな。実際弱いから何も言えないけどさ。
別格とは言ったってなぁ。東の大陸でも魔物との戦闘なんて数える程しかしてないかんな。どれ位の強さか分かんねぇな。
・・・もしかすると、リーナの母さんよりも強かったりするのだろうか。
嫌だなぁ。またあんな痛い思いをしないといけないのかぁ。
「・・・む?」
副会長が何かに反応した。
と同時に、船が段々揺れ始めた。
「キュウ!キュウキュウ!」
空を舞っていたアスモが、何かの異変を知らせに来たのか俺の元に戻ってきた。
「な、何事?」
「衝撃に備えろ!」
「はいぃ!?」
副会長がそう言うので、咄嗟に甲板に膝立ちする。
・・・衝撃対策って、こんなんでいいのかなぁ?
すると、船の前方に大きな水飛沫と同時に巨大な魚のような生物が現れた。
「グオォォォォォ!!」
「チッ、『クリオプトン』か・・・」
どうやらこの生物の名前はクリオプトンと言うらしい。名前に似合わずおっかない見た目してんな。
「やれやれ、出現予報は出ていたが・・・。まさか本当に出現するとはな」
「か、会長!」
船内へと続く扉から、ストライフ先輩が出てきた。
予報出てるなら船出すなよ・・・。
「ふむ・・・」
「グオォォォォォ・・・」
会長は何かを思考するように、クリオプトンは威嚇するように唸り声を発する。
そして、会長が言葉を発した。
「・・・ユウマ、倒せ」
「・・・・・・・・・ん?」
一瞬、コイツは何言ってんだと思った。
「今、倒せと?」
「ああ、言ったが?」
え、えぇ・・・?コイツ頭おかしいんじゃないのか?
こんな強そうな化物、俺の手に負えるわけ無いやん・・・。
「どうした?西の魔物はコイツの遥か上の強さだぞ?」
「マジかェ」
成程、コイツを倒せないようじゃあそこに着いても死ぬ、と。
・・・俺、結局死ぬんじゃね?
「・・・屍は拾ってくれよ?」
「安心しろ、もし貴様が死の危機を迎えた時は我が片付ける」
そいつは安心だ。
「そんじゃ、魔力溜めるか」
右手に最大の魔力を込める為に、準備に入る。
とまぁ、普通の俺ならそうしてはいるが・・・。
「グオォォォォォ・・・!!」
やっぱり待ってくれるわけないよなぁ。
お前そこは待ってくれよ。プリキュアとかだって敵さん待ってくれるんだぜ?
しょうがない。中くらいしか溜めてはいないが、これでも割と威力は出るはず・・・、出るよな?
「・・・そぉい!」
いい感じのタイミングで、右手に溜めた煉獄弾をクリオプトンに放つ。
弾は、目にも留まらぬ速さで直線的に目標へと飛んで行き、気付けばクリオプトンの体に着弾していた。
「グオォッ!?」
クリオプトンは予想外の攻撃を喰らったのか、細長くうねっている体を激しく揺らした。
・・・俺ってそんなに弱そうかなぁ?
「ガアァァァ!!」
クリオプトンは怒ったような咆哮を放つ。まるでリアルモンハンみたいだ。
煉獄弾が着弾した箇所には、割と大きな焼け跡があり、僅かに凹みが見える。
この魔力であれだけ凹ませることが出来るなら、最大火力でどうにか貫通は出来そうだ。
問題は何発撃てるか、だが・・・。
「一発で沈んでくれるとありがたいなぁ」
小並感なコメントを垂れている間にも、クリオプトンの行動は止まない。
口に何やら水の弾を溜め込んでいる。・・・いや、あれは魔力か。
急いで右手の魔力を再充填する。が、最大の魔力は中々溜まるものではない。
先にあちらの魔力が溜まったのか、クリオプトンは一層体を大きくうねらせる。
そして、口元の魔力が波動砲となり、こちらに向かって発射される。
あ、これ終わる奴や・・・。
「キュウゥゥゥ!!」
「・・・アスモ!?」
俺がそう思っていると、アスモが突然前に出て来た。
そして、俺たちの周りに緑色の結界が発生する。
「ほう」
「・・・この結界は・・・」
波動砲は結界に阻まれて、魔力を激しく散らす。
「キュウゥゥゥ・・・」
「・・・まさか、お前が?」
いつの間にこんな力を・・・。てか魔術使えるのか。
そんなことは今はどうでもいい。アスモが時間を稼いでくれている間に魔力を溜める!
「キュウゥゥゥ・・・、キュウゥゥゥ!!」
アスモがより一層強く叫ぶと、緑の結界に阻まれていた波動砲は遂に魔力よ切らしたのか、次第に収まっていく。
その後、緑色の結界から無数の魔力の槍が解き放たれる。
「・・・成程」
無数の魔力の槍は、クリオプトンのうねる体に刺さり、消滅する。
それと同時に結界が消失し、アスモは力尽きたように甲板に落ちた。
「グオォォォォォ!!!」
クリオプトンは痛みに苦しむように咆哮をあげる。
「・・・助かったぜ、アスモ!」
最大にまで溜めた魔力を、速度と炎に変える。
そして、一気に魔力を解き放つ。
「これでも、喰らっとけぇぇぇ!!!」
右手から放たれる最大火力の煉獄弾。
それはクリオプトンの巨体に大きな風穴を、気付かぬうちに開けていた。
「グオ、がァァ・・・!」
そして、クリオプトンは断末魔をあげた後、海の底に倒れるように沈んだ。
「・・・や、やった」
疲れた体を、倒れるように甲板に押し当てる。
「・・・ふん。これぐらいの魔物にこれ程手間取っているようでは、あそこの魔物に数秒で殺されるのがオチだ」
後ろから副会長の皮肉の声が聞こえる。
もしかして、生徒会のメンバーはこんな魔物を簡単に葬れるのか?恐ろしい連中だな・・・。
「そうならない為の合宿だ。1年生連中をこの旅で鍛え上げる為のな」
「それはそうだが・・・」
そんな合宿に、無関係な一般市民を巻き込まないでくれ・・・。
「・・・って、アスモは!?」
疲れた体を起こし、アスモの元に駆け寄る。
アスモの体はやけに重く、ピクリとも動かない。
「おい、まさか死んだのか?!」
アスモを抱え上げ、少しばかり体を揺らす。
それを少し続けていると、アスモは目を薄く見開き、呼吸も段々いつも通りのペースになってきた。
「キュウキュウ・・・」
「よ、良かった・・・」
本気で焦った。死んでなくて本気で良かった。
「それにしても、補助があったとはいえまさか本当に倒せるとはな」
倒れている俺に、先輩が歩み寄ってくる。
「え?」
「あれは本来、地上の魔物よりも数段上の魔物だ。確かに西の大陸の魔物たちよりは力は劣るが、海上の魔物の中では相当の強さだ」
そ、そんなものと戦わされてたのかよ・・・。
本当に勝てたのは奇跡、いや、アスモのあのバリアが無かったら死んでたのか。
「・・・ありがとな、アスモ」
「キュウ・・・」
それだけ返事をすると、アスモはぐったりと俺の腕の中で眠りについた。
「・・・それにしても、さっきの結界は何だったんだ?」
アスモが先程発生させた結界。
あんなものを使っている所は見たこと無い。使えるなら前のあの戦闘で守ってくれているはず。
ん?そういえばあの時はディーネを呼びに行かせていたか。それは守れるもんも守れないな。
「あの結界は最古魔術の一つ、『吸収障壁』。如何なる魔術も無効化し、元の術の半分の威力で跳ね返す魔術」
「い、如何なる魔術もか・・・」
それって割とチートスキルなのでは?世界を滅ぼす魔術も、世界大戦レベルの火力で相手に跳ね返すわけでしょ?
「・・・と、とある文献に記載があったが・・・。どうやら今の状態を見るに、その魔術は完璧では無さそうだな。あるいは術師が未熟か・・・」
「・・・先輩。まだただの小さなドラゴンすよ?さすがに完璧には無理すよ」
アスモが何でそんな魔術を使えるかは謎だが、アスモはまだ産まれたての雛竜だ。あれだけ魔術を使える時点でかなり凄いと思う。
「・・・ふむ、それもまた然り。今後の成長次第だな」
「・・・会長。船の進行が止まっております」
「む、そういえばそうだな」
先輩と副会長は短い会話をすると、船内に戻っていった。
・・・。
「はぁ~・・・」
緊張の糸を解き、その場に倒れ込む。
空は青い。波の音は至って穏やかだ。
先程までここで戦闘があったとはとても思えない。
その場にしばらく仰向けになり、波の音を聴きながら昼寝についた。




