5話:旅の始まり
翌日。
「・・・よし、これで準備はいいか」
寮の自室、俺は荷物の入ったバッグの最終確認をしていた。
俺はこれから、あの傲慢な生徒会長の引率の下、船に乗って西の大陸に向かう。
・・・今思えば、どうしてこうなったんだろうか。
ーーーーー
-前日。
昨日のあの出来事の後、速攻でウルスとサクラに謝りに行った。
「悪い、そういうわけだから夏休みの宿題は三人でやってくれ」
「そうか・・・。まぁしょうがないな」
「キュウ・・・」
ウルスは残念そうにしていた。隣のサクラも少し拗ねたような表情をしているように見える。
二人には悪いが、あの生徒会長にはなんか逆らえないような威圧感がある。あそこでもし断っていたら、俺は死んでいたかもしれない。
「ユウマか。丁度良いところに」
「・・・か、会長」
後ろから俺を呼ぶ声に振り向いてみると、そこには顔を合わせたくない人物が立っていた。
・・・この人と初めて会った日に戻って、出会わないようにしたいな。そうしたら、今の俺はこんなことにはならなかったはずだ。
「な、何か用すか・・・?」
「そんな面倒くさそうな顔をするな。少し明日のことについて話しておきたいだけだ」
会長はこちらに近づいてくる。
・・・少し気になったが、俺がこんなにビビっているのに、アスモはこの会長にあまり嫌悪感は無いらしい。むしろ、ストリエス先輩といる時よりよっぽど人懐っこそうな態度をしている。
もしかして、人の考えとか読めるんだろうか?
「・・・ん?そこの二人は、貴様の友人か?」
「は、はい!ウルス・グランディと言います!」
「お、同じくサクラ・サウザンドです」
ウルスはカチコチに、サクラは少し緊張した様子で会長に自己紹介をする。
やっぱり、この二人も威圧感を感じてるんだろうなぁ。
「ふむ。知っているとは思うが、キュリエス・ストライフだ」
会長もそれに答えて、簡潔に自己紹介を済ませる。
「で、明日はどうすれば?」
「む、そうだったな。
明日は午前10時に、商業区の港に集合だ。持ち物は適当な服を2、3着持ってこれば良い」
遠足にしては、随分と少ない荷物では?
「他には?」
「・・・そうだな、その雛竜の餌を1ヶ月分ほど持ってこい。あっちにも売ってはいるが、家畜用の飯は不味いものばかりだ」
「キュ、キュウキュウ!!」
会長が説明をしていると、静かに聞いていた突然アスモが騒ぎ出した。
多分、家畜と同等に扱われたことに怒っているのだろう。
「人間用の飯は?」
「人間の口に合うかは分からんが、普通に食す分の料理は美味だ」
「じゃあそれで。いいよな、アスモ?」
「キュウ」
アスモはちゃんとした料理にありつけることに安心したのか、大人しく引き下がった。
「人間の料理を食す雛竜、か・・・。それはまた愉快な生物だな」
会長は愉快そうにククッと喉を鳴らす。え、ドラゴンに人間と同じ飯をあげたらダメなん?
いつも美味しそうに食べるから、てっきり食べても大丈夫なのかと思っていたけど・・・。
「・・・では、我はこれから支度があるのでな。また明日に会おう」
「ウィッス」
会長は踵を返して、出口の方に歩いていった。
「「・・・ふぅ〜」」
会長がいなくなると、それまで黙っていた二人が緊張の紐を解いた。
そ、そんな息を詰めるほどに威圧感があったのだろうか?
「・・・ユウマすげぇな。あの会長と話していて、そんな平然としていられるなんて」
「果たして肝が据わっているのか、ただの鈍感なのか・・・」
しれっとサクラにバカにされた気がするが、別に事実なので気にしないでおこう。
「別に、人と話すぐらいで緊張はしないだろ。面接じゃあるまいし」
俺はただ会長と日常的な会話をしていただけだ。俺はそこまでコミュ障というわけでもないし、他人との会話ぐらいは普通に出来る。
・・・あの会長が面接官とか考えると、かなりゾッとするが。
「・・・まぁ、西の大陸に行くなら思う存分に楽しんでこいよ!きっとこの国とは違う発見がたくさんあるぜ!」
「お土産、期待してるぞ?」
俺が西の大陸に行くことに対して緊張しているのが分かっているのか、二人は励ましの言葉をかけてくれる。サクラのは若干ズレているような気がするけど。
「ああ、帰ったら土産話をたくさん持ってくるよ」
ウルスたちとそう約束し、俺たちは別れた。
ーーーーー
そんなわけで、家を出た俺は今港に来ている。
・・・少し早い到着だったようで、集合場所である港には誰も来ていなかった。
「・・・やらかしたな」
港のあちこちを歩いている内に、俺は一つ、重大な問題があることに気付いた。
港広スギィ!!
・・・確かに集合場所が『港』とは言っていたが、港の中のどことは一言も会長から聞いてねぇや。
こんな広い港を一人で探すのにはさすがに骨が折れるぞ。
と、いうわけで。
「アスモ、上から探してきてくれるか?」
「キュイ!」
ここは空を飛べるアスモに任せよう。上から見た方が、歩くよりも確実に早く見つけられるはず。
俺とアスモがはぐれては元も子もないので、俺はこの場で待機することにする。決してアスモだけに働かせようてしているわけではない。
アスモは鳴き声を元気良く出すと、俺がジャンプしても届かないような上空にひとっ飛びし、どこかへと消え去った。
・・・一人で、大丈夫かなぁ?
-三分くらい過ぎて、アスモは戻ってきた。俺が予想していたよりずっと早い帰還だ。
「見つかったか?」
「キュイキュイ!」
アスモは俺の言葉に頷くと、誘導するようなスピードで通りの少し上を飛んでいく。
俺はその背中を頼りに、会長たちが集合している場所へと向かった。
ーーーーー
「・・・」
「会長、ヤツがまだ来ていません」
「知っている」
「・・・会長、本当に連れていくつもりですか?ヤツは・・・」
「無論だ。彼奴は、ユウマはこの遠征で大きく成長するだろう。後輩の育成は、上級生である我らの役目だろう」
「ですが・・・」
「・・・貴様のみならず、我を除く生徒会のメンバーがユウマを避けているのは薄々感づいている。何故避けているのかは知らんが、彼奴は貴様らが思っているような人物ではない」
「・・・」
「ユウマを連れていくことを決めたのは我の独断だ。不平不満を挙げるのは勝手だが、今回だけは生徒会長権限として従ってもらうぞ」
「・・・分かっています。ですが、それとヤツが遅刻するのは話が別だと思います」
「問題無い、彼奴は今こちらに向かっている。
自らの下僕を使って我らの居場所を特定したか・・・。中々頭の冴える男だ」
「・・・時間までに到着を確認出来なければ、すぐに出発すべきかと」
「ハッハッハッ!そう慌てなくとも、我の船は逃げんぞ」
「そうでなく、団体行動において規律を乱す者はここにいるべきでは無いと・・・」
「心配するな、ユウマはしっかりと到着したようだぞ」
「何・・・?」
ーーーーー
「おい兄ちゃん、ちょっと付き合えや」
俺は今、ガラの悪そうな男三人組に絡まれていた。
アスモは俺の異変に勘づいたのか、俺の下へと戻ってきていた。
・・・なんか、どっかでこういうシチュエーションがあったな。
そうじゃない、今俺は急いでいるんだ。こんな臭そうな男たちと絡んでいる暇はない。
「・・・そうだ」
俺の頭に、一つの名案が思い浮かんだ。
失敗すると大損だが、ここは集合場所に辿り着くことが最優先だ。あの会長に怒られたらどうなるか分からんし。
ここは人を傷付けることなく、穏便に事を済ませるとしよう。
「アスモ、頼むぜ」
「キュイ?」
俺はポケットから、一つの丸い物を取り出した。
「・・・ハイハイ皆さんご注目!!ここに一枚の金貨があります!!」
俺が大声を出し、金貨を持った右手を掲げると、道行く人たちは皆俺の方を振り返った。
「それを・・・こうだ!!」
俺は金貨を、遥か上空へと投げ捨てた。
「んなっ!?」
いい男たちは、俺のアホみたいな行動を理解出来ないらしく、その場で数秒硬直していた。
その隙に俺は、男たちの横を一気に走り抜けた。
「・・・キュイ!」
アスモも俺の言いたい事を理解したらしく、俺の肩を離れて金貨の落下地点の真下に飛び込んだ。
アスモは金貨を口に咥えると、すぐさま俺の下に戻ってきた。
「さっすが、分かってますねぇ!」
「キュイ!」
金貨を受け取ると、アスモは俺の肩に乗ってきた。
ということは、もう道案内の必要は無いってことか?
「ここを真っ直ぐでいいんだな?」
「キュイ」
アスモは俺の質問に頷く。
それなら、また先程のようにいい男たちに絡まれないことを祈るだけだ。
俺にそんな趣味は無いからな。
ふと先程の男たちが気になり、後ろを振り返ってみる。
後ろ側では、先程の金貨の影響か道のど真ん中に人々が密集していた。
・・・なんか、ちょっと申し訳無い気分になってきた。
人々にごめんなさいと心の中で一言謝って、俺は集合場所へと足を運んだ。
ーーーーー
9時55分。
「や、やっと着いた・・・」
息を切らしつつも、どうにか集合場所である船着場に到着した。
良かった、遅刻したらどうしようかと思った・・・。
船着場の中央広場に設置された噴水に、時計が取り付けられてある。それによると、今は五十五分。ギリギリ間に合ったところか。
「そんなに息を切らして、あなたは時間の配分も正確に出来ないんですか?」
会長の隣にいた女子が、俺に難癖を付けてくる。
「・・・あ、あの時の」
よく見ると、昨日邪魔してきたあの嫌な女子だ。
名前は確か、えーと・・・。
「・・・思い出した、アルトだ」
「・・・下級生が、気安く呼び捨てしないで下さい」
アルトは、昨日のようにどこからか小刀を取り出した。
えぇ?俺はただ名前を思い出そうとしていただけですが・・・?
「アルト、ここで問題事を起こすつもりか?」
「・・・副会長」
生徒会のメンバーである堅物そうな副会長も、ちゃっかりとバッグを持ってきている。
「よし、全員揃ったのなら早速出航するぞ」
会長が俺たちの不穏な空気を取り締まる。
会長は、俺が生徒会メンバー全員に嫌われていることを知っているのだろうか?
「ユウマ、貴様には先に我が生徒会の人員を紹介しておこう」
会長は俺の為に生徒会のメンバーを紹介してくれる。正直、関わることは無いと思うから別にいいんだけどな。
一応、頭の片隅ぐらいには記憶しておくか。
「まずは生徒会書記のアルト・ディアルだ。先程は無礼を振舞ったな、我から非礼を詫びよう」
「会長、こんな奴に謝る必要は無いです」
翡翠色の髪をポニーテールでまとめ上げた、紫色の瞳の少女は俺がよっぽど嫌いなのか、俺から半径五メートル以内に入り込もうとしない。
うん、やっぱりスゲェ嫌われてるわ。何で俺は生徒会に嫌われてんだ?
「次に生徒会会計のシルヴィ・ダートナー、貴様と同じ1年生だ。此奴は無口でな、良ければ仲良くしてやってくれ」
「・・・」
銀髪の女の子は、俺と目が合う(合ったと思いたい)とすぐに逸らし、ペコリと浅い礼をした。
・・・多分、これはコミュ障とかそういう類ではなく、嫌われているからなんだろうな。
目の色は、眼鏡の反射で分からなかった。
「次に庶務の二人だ。猫の獣人の双子のソーマ・テールナーとシーナ・テールナー。此奴らも同じく1年生だ、仲良くしてやってくれ」
「よろしく」
「頼むぜ」
二人は茶髪の髪を左右対称にしてある。目の色まで一緒だ。声を聞かないと分からないレベルで髪型以外の外見は似ている。
先に喋った女子に続き、男子が後に続く。
てか、普通庶務から先に発表するんじゃないすかね?
「コイツは副会長のアイク・ノルド、3年だ。堅物だが人当たりはいい。何かあったら頼るといい」
「頼りにはならないだろうが、何かあったら遠慮なく言ってくれ」
高身長の紅蓮の男は、口ではそう言うが目は笑っていない。
これは、俺に威圧を与えようとしているのか?
「よし、では一通り紹介したな。船に乗り込むぞ」
会長が生徒会の全員に号令をかけ、予約していたのであろう船に乗り込むと、生徒会の役員たちも会長の後に続いていった。
「・・・はぁ」
なんだか憂鬱だ。もしかして、俺はこの旅で生徒会の誰かに殺されるんじゃないか?
そんなことにならないように、目立たないように行動しなければ・・・。
「キュウキュウ!」
アスモは俺の服の裾を引っ張り、船の方に誘導しようとする。
「・・・そうだな」
この旅で唯一の頼りはアスモだ。それ以外は全員敵と見ておいた方がいいかもしれない。
疑心暗鬼な気分のまま、俺の旅は始まった。




