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4話:魔術火力診断テスト

 翌日、夏休みの初日。


 昨日はアスモのおかげで学生寮で寝ることが出来ず、仕方なく自宅で寝ることにした。


「キュウ、キュウ!」


「・・・ん、もう朝か」


 いつものようにアスモに起こされ、愛しい布団を渋々手放す。

 アスモはというと、元気よく俺の頭の周りを飛び回っていた。


「・・・お前は朝から元気が良いなぁ」


「キュイ!」


 コイツを見てると、その元気が羨ましく思えてくる。少し分けて欲しいぐらいだ。


 さて、ここは自宅なのでそんな事を言っている暇はない。

 今日は、昨日の約束通りに学校の演習場に出向かないといけない。何で出向かないといけなくなったのかは俺にも詳しく分からない。


「・・・めんどくさいなぁ」


 気だるげにしながらも、約束を放置してるとどうなるか分からないので、仕方なく学園に赴く事にした。



 ーーーーー



 数十分後、学校の演習場前。


 俺は制服を着た翡翠(ひすい)色の髪の女子と少しばかりトラブルを起こしていた。


「生徒手帳を見せて下さい」


「え、えぇ・・・?」


 左腕には、赤と黄色で塗られた腕章。その腕章の中央にはこの学園の校章が描かれている。

 その腕章は、うちの生徒会のみが付けることを許された腕章だ。


 つまり、俺は何故か生徒会の役員に捕まっているのだ。

 それもそうか。今回の騒動の主催者は他でもない生徒会長なのだからな。


「あ〜、時間無いんですけど・・・?」


 現在の時刻は午前十一時五十分、約束の時間は正午だ。


 約束を破れば、あの生徒会長が何をしでかすか分からない。もしかしたら殺されるかもしれない。

 ・・・いや、あんな生徒会長に限ってそんな事は無いか。


 ここで大人しく生徒手帳を見せれば済む話ではあるのだが・・・、今日に限って何故か寮に忘れてきてしまった。

 今、アスモが全速で取りに行ってる最中であり、俺はその間にもどうにか説得できないものかと懐柔している最中だ。


「ユウマ・アイサカ本人と確認出来るものが無い限り、ここを通すわけにはいきません」


 めんどくさい人だなぁ。生徒会っていうのはみんなこんなに堅苦しいのか?俺がユウマ本人だっていうのは、この人だって理解しているだろうに。

 やりたくはないけど、この人を押し飛ばして強行突破でもするか・・・?


「・・・何か考えているようですが、ここは死守しますよ」


 あら、考えが読まれてる。

 やっぱりストリエス先輩の言う通り、俺は考えが顔に出やすいタイプなのだろうか。


 だけど、通さないって言われてもなぁ・・・。ここで呑気にアスモを待ってたら確実に遅れるし・・・。


 -これは余談だが、演習場から学生寮までの道のりはかなり離れている。同じ敷地内であるにも関わらず、ここから走っても往復で二十分はかかる。


 なので、いくら空を飛べるアスモとはいえども十分はかかるはずである。

 アスモが飛び立ったのはついさっき。今から十分かかったら、約束の時間に遅れてしまう。


「・・・しょうがない、どかないなら強引に通らせてもらいますよ?」


 そう言って俺は、左手に火炎球(ファイアボール)を生み出す。

 もちろんこれは単なる威嚇であり、本当に攻撃するつもりは無い。


 しかし彼女は、


「そうですか、ではこちらも全力で死守させて頂きます」


 と言って、どこから取り出したのか手頃な長さの小刀を手にした。


 ・・・え?マジ?挑発乗っちゃう系女子?

 単なる威嚇だったんだけどなぁ・・・。今から「すみません嘘です」って言っても、多分通用しないだろうなぁ。

 てかまず、刃物って。勝てるわけないやん。こっち近距離武装無しですよ?この間合いならサックリやられちゃいますよ。


「すみません嘘です」


 無駄だと分かってはいても、とりあえず謝ってみる。

 もしかしたら殺すことには躊躇いがあって、刀を下げてくれるかもしれない。


「・・・そうですか、残念です」


 そう言って目の前の女子は、刀をこれまたどこかに消失させた。

 よ、よかった・・・。とりあえず命は助かったようだ。

 何が残念なのかは気になるが、ここでは追求しないことにしておこう。


「見当たらないと思ったら、こんな所で何をしている。アルト」


 俺と女子がドタバタを起こそうとしていた所に、また知らない人物が女子の後ろ、会場の選手控え室出入口から現れた。


「ふ、副会長!これは・・・」


 どうやら、後ろの紅蓮色の髪の高身長の男子は副会長らしい。

 ということは、この女子の戸惑いようは逆らえないからか。


「・・・アルト。その男が気に食わないのは分かるが、ここでその男が遅れた原因がお前となると、会長の好感が下がるぞ」


「・・・も、申し訳、ありません・・・」


 そう言って、アルトと呼ばれた女子は出入口の前からやっと退いてくれた。

 これは、通ってもいいということだよな・・・?


「キュキュー!!」


 ゴタゴタがひと段落した頃に、アスモが生徒手帳を持って俺のところに戻ってきた。

 予想していたよりずっと早い帰還だ。


「ありがと、アスモ」


「キュ!」


 アスモから生徒手帳を受け取り、一応女子に見せる。


「これで、文句は無いな?」


 ドヤ顔で。


「・・・通れ」


 女子は悔しそうに、言葉を紡ぎ出す。

 おや、先程の威勢はどうしたのかなぁ?アルトちゃん?


「おい、会長をあまり待たせるなよ。あの人はああ見えて割と短気だからな」


 余裕こいてドヤ顔を継続していると、高身長の男に怒られた。

 この人は何故か、アルトより威圧感がある。

 それもそうか、副会長だもんな。


「ウィッス」


 短く挨拶をして、俺は選手の控え室に入った。


 ・・・そういえば、あの副会長「気に食わないのは分かる」って言ってた?

 俺ってもしかして、生徒会から嫌われてる・・・?



 ーーーーー



「む、来たか」


「はぁ、はぁ・・・」


 ギリギリ間に合った。ホント危なかった。

 まさか、選手控え室から会場までこんなに距離があるとは思わなかった。

 何で生徒たちの更衣室は会場から近いくせに、選手控え室からは遠いんだよ・・・?


 ちなみにアスモは、ここに来る途中で観客席の方に別れた。


「す、すみません・・・。まさかこんなに走ることになるとは・・・」


「ハッハッハ、良い!我が生きてきた人生に比べれば短すぎるくらいだ!むしろ驚いたぞ、時間通りに来たことに」


 会長は高笑いした後、俺に許しをくれた。


「・・・だが、一つ気に食わない事があるな」


 会長は少し険しい顔になる。

 どうやら、俺の行動に怒りに触れるような所があったようだ。服装とかちゃんとしてるよな?


「な、なんすか?」


 おそるおそる聞いてみると、会長はまた先程のように、陽気と取れるような不敵と取れるような表情に戻った。


「そう、それで良いのだ」


「?」


 分からない、この会長の沸点がさっぱり分からない。

 俺は今何かしたのか?


「さて・・・。少し外野が多い気がするが、始めるとしようか」


 会長は、観客席に埋まっている人たちを一通り眺めて、また俺の方に向き直ってそう言った。


 会長の言う通り、演習場に設けられている観客席には空きが見当たらない。どこもかしこも人だらけだ。

 ・・・今から一方的な虐殺が行われるだけだというのに、一体何を見物しに来たんだ?


「よし、では今から貴様の魔術の腕を見せてもらうぞ、ユウマ!」


 会長はそう言って、バチ来いやと言うような姿勢になった。

 ・・・え、何?この会長何してんの?


 ・・・。


「・・・どうした?早く貴様の魔術を見せてみろ」


 どうやら会長は、俺の魔術を受けてくれるらしい。

 ・・・本当に、この会長は一体何を考えてるんだ?

 ともかく、会長が受けてくれると言うので、これは魔術の練習の成果を見せる時だ。


 俺は右手に、昨日練習したように火炎球を生み出す。


「・・・」


 会長はこの動作を、ただ見守っている。

 どうやら本当に、全力を撃っていいらしい。


「なら、遠慮なく・・・!」


 右手の火炎球の魔力の流れをコントロールする。


 -魔術というのは、主に魔力の塊が何らかに変換されることによって生成される。

 炎、水、雷・・・。その形状は変幻自在である。

 それ故に魔力は、事象や目に見えない力にも変換する事が出来る。

 これは昨日のストリエス先輩の言葉だ。


 炎が大部分を占める魔力の半分を、«速度»という概念に変換させ、火炎球の先端を尖らせて円錐状にする。


「ほう・・・?」


 左手でしっかりと右手を固定して、狙いを会長に定める。

 喰らえ、俺のオリジナル-!


「-煉獄弾(フェーゲルライフル)!!」


 俺が叫ぶと同時に、込めていた魔術が勢いよく発射される。

 魔術の反動で、俺の体は尻餅をついた。


「・・・ほう!」


 放たれた魔術に、会長は興味を抱いたような声を出した。


 放たれた魔術の行方を追おうとして会長の方を見てみると、


「・・・気に入った!!油断していたとはいえ、この我に風穴を開けた人間はユウマ、貴様が初めてだ!!」


 会長の腹に大きな穴が空いていた。

 ・・・え?


「・・・や、ヤバくね?」


 まさか、こんなに殺傷力がある魔術だったとは。

 先輩と訓練していた時は、先輩は防御魔術使ってたからちゃんとした火力が分からなかったんだよな・・・。


「どれ、自動治癒(リヒール)


 会長は自分の腹に右手を添えると、治癒魔術をかけた。

 それだけで、腹の傷はみるみる内に塞がっていき、最終的には完全に塞がってしまった。


「ユウマよ、あの魔術は見事だった!炎熱系魔術では我より上かもしれんな!!」


 会長はいつもの高笑いをしながら、俺の魔術の評価をしてくれる。


「・・・だが、その様子だとあれでもまだ全力では無いらしいな」


「え?・・・」


 どうして見抜かれたんだ。


 あの時俺は、魔力全体の八割をこの魔術に込めた。何故全ての魔術を込めなかったかと言うと、先程のようなことを懸念して魔術の火力を調整したからだ。

 だけど、あの魔力でも普通にこの火力なんだから、本当に手加減して良かったと思っている。

 全力で撃ってたら、今頃会長が気絶していたかもしれない。


「・・・よし!ユウマよ、今年の夏休みは我の故郷へ招待しよう!」


 ・・・?何言ってんのこの人。

 コイツの故郷って?え?


「それって、まさか地獄とか?」


 俺まさか、閻魔様の腹に風穴を開けたとかじゃないよね?まさか、そんな事で死ぬなんてないよね?


「どこだそれは?我の故郷は西の大陸だ」


 ああ、良かった。西・・・。


「西ィ!?」






 -俺の夏休みは、こうして地獄を迎えることになった。

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