3話:頭隠して尻隠して
魔術の練習が終わったその後、俺はアスモを捜すべく商店街の方に赴いていた。
何処か遠くへ行ってしまったのならもう当てがないが、アイツが近くで放浪しているなら、多分色んな人との関わりがある商店街のはず。
「全く、世話のかかるペットだな・・・」
愚痴をこぼしながらも、商店街の人混みを掻き分けながら道を進んでいく。
とは言っても、今日はいつもと比べて人が少ない方で、割とスムーズに捜索が進んだ。
「おやお兄ちゃん、今日はあのドラゴンちゃんは一緒じゃないのかい?」
ある道を通りかかると、一人のお婆さんに呼び止められた。いつもお世話になっている店ではあるが、その口調だとどうやらアスモを見かけていないようだ。
・・・そうだとしても、聞いてみないことには始まらないか。
「婆さん、ここら辺でアスモ・・・、俺がいつも連れてるドラゴン見なかった?」
この婆さんは、人の顔は憶えられるが、その人の顔と名前がどうにも一致しないというボケがある。
俺の顔も憶えているが、実は名前を憶えていないので、お兄ちゃんと呼ばれている。
「おや、なにか喧嘩でもしたのかい?」
やはり婆さんには覚えが無いらしく(ボケの可能性もあるが)、アスモの事を聞いても知らない素振りを見せる。
「喧嘩、というよりは一方的な拒絶というかなんというか・・・」
「はて・・・?まぁまぁ、仲直りの為にこれを持ってお行き」
そう言って婆さんは、アスモが好んでいる木の実を店の奥から取り出してきた。
「おお、ありがたやありがたや」
手ぶらで行くよりかは、何か手土産を持っていった方がアスモも喜ぶだろう。
「んで、いくら?」
「なんだい、こんなものでお金を取ったりしないよ。早く持っていってあげなさい」
おお、心優しい婆さんだ。売り物をタダでくれるとは。
「じゃあ、有難く貰っていくよ。ありがとう婆さん!」
「ちゃんと仲直りするんじゃぞ〜」
婆さんから貰った木の実を学生服のポケットにしまい、婆さんが経営している店を後にしてアスモを捜す。
一体どこにいると言うんだ・・・?
ーーーーー
アスモを捜していると、いつの間にか夜になっていた。
正確な時刻は分からないが、街の賑わい方からするとまだ八時にはなっていないはずだ。
もうそろそろ遅い時間だし、もしかしたら寮の自室に戻っていたりしてるかもしれない。
そうも考えはしているのだが、もしもまだ街中を放浪しているなら見つけてやらねば。
街中を捜す足を速め、アスモの捜索により一層の力を入れる。
-が、商店街を一周してみてもアスモの姿は無い。
やっぱり、もう寮に帰っているんじゃ無いのか・・・?
そう諦め、学園に戻ろうとした時、一つの可能性が思い浮かんだ。
もしかすると、リーナの家とかに行っていたりするか・・・?
アイツの人懐っこい性格ならありえない話ではないはず。リーナは俺とも仲がいいから、世話になるのも気楽だろうし。
少ない可能性に賭けてみる事にし、俺はリーナの自宅へと向かうべく、スラム街に足を踏み入れた。
ーーーーー
〜リーナ視点〜
「・・・お前でも、アイツと喧嘩とかするのな」
「キューイ・・・」
夕飯を済ませたあたしの下に、珍しい客が来ている。
黒い姿に、赤色の瞳をした小さなドラゴンだ。名前はアスモという。
コイツは、あたしが知っているある男にかなり懐いていて、ソイツの下を離れる事なんて1度も無かったはずだけど・・・。
「・・・・・・今からでも、謝りに行ったらどうだ?」
「キュウ・・・」
人語を理解するこのドラゴンは、反省しているのかは知らないけど少し寂しそうな表情を見せる。
正直、このドラゴンの飼い主が知らない人物ならペットにしたいぐらいに可愛い。
「アイツもきっと、お前のこと捜してるぞ?」
「・・・キュウ」
アスモは、それでもあたしの家から出て行こうとしない。そんなに激しい喧嘩をしたのか?
アイツがそう簡単に怒るような奴には見えないけどな・・・。
「リーナ〜、いるか〜?」
アスモがあたしの家の中をウロウロ飛び回っていたところに、玄関の方から男の声がした。
この声は、最近よく出会うようになった男の声だ。
「ユウマか?今出る」
そう言って、あたしは玄関の前にいる人物と顔を合わせた。
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〜ユウマ視点〜
「今日は随分と人通りが少ないな」
スラム街を小走りで駆け抜けている時に、俺はふとそう思った。
スラム街の人たちは、前来た時と変わらず何かを虚ろな目で見ているような感じだが、その数は前と比べて明らかに減っている。
・・・あんな事件がつい先月起こったんだ。当然と言えば当然か。
そのおかげもあって、俺はトラブルに遭うことも無く目的地へと辿り着くことが出来た。
唯一困ったことと言えば、場所がうろ覚えだったので所々迷ったことぐらいか。
藁のような物で造られた小さい家だ。中からは微かに光が漏れている。
俺は意を決して、家の主の名前を呼ぶ。
「リーナ〜、いるか〜?」
・・・。
「ユウマか?今出る」
良かった、外出中ならどうしようかと思った。
中から出てきたのは、赤髪をショートカットにした小柄な女の子、リーナだ。
「リーナ、ちょっと用事が・・・」
「分かってる、アスモの事だろ?」
リーナから俺が言おうとしていた用件を、俺より先に口にする。
どうやら、俺の考えは外れていなかったようだ。
「アスモ、おいで」
リーナは家の中に呼びかける。が、中からは何も出てこない。
あら?あんないい子のアスモちゃんが、飼い主に反抗するなんて。
っと、いかんいかん。アイツにもちゃんと感情はあるんだ。俺がそのような態度ではアイツに嫌われてしまう。
ちゃんと、アイツの事を尊重してやらねば。
「リーナ、中に入ってもいいか?」
リーナに一応許可を取る。この家にはドアのような物が無いので、不法侵入が許されているようなものではあるが、友人の家でそんな事は出来まい。
他人の家でもやりませんけどね。
「ああ、お前から何か言った方がいいかもな」
家主から許可が下りたので、遠慮なく上がらせてもらう。
「それじゃ、お邪魔しますよっと」
そう言って、家の中にいるはずであるアスモの姿を捜す。
アスモは、居間にポツンと置かれたテーブルの下に、頭を守る形で隠れていた。
そんな、俺に何されると思ってるんだよコイツは・・・?
「・・・よかった、見つかって」
アスモが隠れているテーブルを少し寄せて、見つけた事を知らせる。
アスモは、おそるおそると言った感じで顔を上げる。
「全く、一体何時間捜したと思ってるんだ?このバカドラゴン」
少し意地悪な口調になりながらも、アスモを抱き抱えて頭を優しく撫でる。
幸い、アスモの方から抵抗してくるような事は無かった。
「ユウマ、そいつは・・・」
「分かってるよ。ありがとなリーナ、コイツの面倒を見てくれて」
コイツがもしスラム街で放浪していたとしたら、何かしらの悪党に捕獲されてどっかに売り飛ばされていたかもしれない。
それを察してか知らないが、そうならないように匿ってくれたリーナには感謝してもしきれない。
・・・本音を言うと、どうしてこんな時間まで外をほっつき歩いていたのかとか、他人に迷惑かけたら駄目だろとか色々言いたいが、コイツが飛び出したのは俺の責任でもあるので、そんな事を言う権利は無い。
「じゃあ、またな」
リーナに別れの挨拶を告げてから、リーナの家を後にする。
さて、コイツは今どう思っているのか。
「・・・アスモ」
「・・・キュ、キュウ・・・?」
アスモは申し訳なさそうに俺の方を見上げる。
「色々言いたいけど・・・。まぁ、無事で良かったよ」
「・・・キュウ」
アスモは、俺が怒ってないのを理解したのか、安心した表情になる。
そして、しばらくすると俺の腕の中で眠ってしまった。
「・・・やれやれ、仕方のないペットだな」
口で悪態をつきながらも、心の中では安堵に包まれながら、俺は学生寮へと帰宅した。
あ、学校もう閉門してるわ。




