2話:ハンドメイド・スペル
「はぁ〜・・・」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか!生徒会長自ら指名してくるなんて、そうそう無いことだぞ?」
「そうだな。あのストライフ家の現当主自らがアイサカ君を気に入ったんだ。多分どうとでもなるさ」
集会が終わり、教室に担任が帰ってくるまでの少しの時間、俺とウルス、サクラは廊下で話をしていた。
会話の内容は、先ほどの意味の分からない演説の内容についてだ。
「大体、なんであんな無茶苦茶なスピーチして先生は誰も止めに入らないんだよ・・・」
普通、あんな人間は舞台上から退場させるだろ。いや、そもそもどうしてあんなんで生徒会長になれた・・・?
あ、アイツ人じゃなくて悪魔だったわ。
「まぁ頑張れよユウマ!会長に一泡吹かせてやれ!」
「無理に決まっとるやん」
相手が人間なら、もしかしたら俺のフルパワーの火炎球で傷ぐらいはつけれるかもしれないが・・・。
相手は人外だ。しかも、よく分からんけど偉そうな位にいるであろう悪魔だ。
さすがに俺如きの魔術で傷を付けるなんて無理がある。
「また、練習するかなぁ・・・」
「お、付き合おうか?」
ウルスは練習に付き合ってくれるらしいが、それをサクラが拒む。
「ウルス、私たちは今日は忙しいだろう」
「あー・・・、そだったな」
・・・一体この二人に何があるのかは知らないが、用事があるのだけは確かなようだ。
だったら、ウルスにも無理に付き合ってもらうことはない。今回は俺一人でどうにか打開策を考えるしかない。
キーンコーン・・・
おや、どうやら帰りのHRの時間のようだ。
廊下の奥から、うちの担任が何かを持ってこちらに向かってくる。
「じゃあウルス、終わったら校門前で待っておくんだぞ」
「おう、後でな」
サクラは、俺たちの隣の教室に戻っていった。
「お前ら、そこに突っ立ってないで早く席に戻れ」
「ウィッス」
俺とウルスも自分の教室へと戻り、それぞれ席に着いた。
ーーーーー
「魔術の練習?」
「・・・付き合ってくれますか?」
図書館の学習スペースにある机の一つで、何かの本を読んでたストリエス先輩に練習の相手を頼んでみる。
自分から女子の先輩にお願いをするのは少し恥ずかしいが、この際仕方がない。
ちなみにリーナは、何か用事があるらしく学校が終わるとすぐに何処かへ行ってしまった。
「やれやれ、可愛い後輩の頼みなら仕方ないなぁ!」
先輩は口ではそう言うが、割とノリノリな感じで承諾してくれた。
良かった、この先輩に断られたらどうしようかと思っていたところだ。
「・・・でも、その子こっちに向かって威嚇してくるんだけど、大丈夫なの?」
「え?」
先輩が後方を指差すので、後ろを振り返ってみる。
今までに見たことがないような厳つい表情で喉を鳴らしているアスモが、そこにいた。厳ついとは言っても、まだまだ全然可愛い感じはあるが。
・・・そういえば、アスモは何故か先輩にだけはこんな態度なんだよな・・・、何でだろう?
「アスモ、先輩は時間割いて教えてくれるんだからそんな表情するなよ」
「グルルルル・・・、ギュイ!!」
アスモは喉を鳴らしながら何処かへと飛び去ってしまった。
「ちょ、こらアスモ!」
俺が制止を呼びかけても無視し、図書館の出入口から外へ飛び出していってしまった。
な、なんか危険な所に行かないよな・・・?
「大丈夫だよユウマ君。愛情を受けて育ったペットっていうのは、どんな所にいてもしっかりと飼い主の下に帰ってくるから」
「そ、そういうもんですか・・・?」
アイツは中々の頑固者だから、俺が見つけ出さない限り帰って来なさそうなんだが・・・。
アスモの捜索に向かうべきか・・・?
「・・・で、あの子を追う?それとも練習する?」
・・・いや、先輩が折角俺のために時間を割いてくれると言うのだ。その優しさを踏みにじるわけにはいかないな。
アスモには悪いが、捜索は後にさせてもらおう。必ず見つけてやるからな。
「いや、魔術の練習をしましょう」
「そっか。じゃあ早速演習場に向かおうか!」
「演習場?」
先輩はそう言うと、強引に俺の手を引っ張り図書館の出入口へと向かう。
「いいからいいから!早く行こう!」
「ちょ、先輩・・・!」
先輩に引っ張られるがままに、俺たちは図書館を後にした。
ーーーーー
「・・・で、なんで演習場に?」
本校舎の後方にある運動場、そのさらに先にある演習場。
そこで魔術の練習をする、と先輩は言ったが真意が図りきれない。
「門の外に出ると魔物出ちゃうし、かと言って街中で魔術を撃つわけにもいかないでしょ?」
なるほど、なるべく広くて人が少ない所で練習をするということか。
確かに、周りには俺たち以外の生徒は誰も見当たらない。
余程学習意欲が無いのか、はたまた人気が無いのか。
「ちょうど夏休みだからね、皆浮かれ気分で冒険者区とかに行ってるんだよ」
「そうなんですか?」
「多分ね。あっちにはカジノとかもあるから」
カジノて。学生がそんなんやってて良いのか?
「よし、じゃあまず何から始めようか・・・」
先輩はその場でしばらくウンウン悩んだ後、突然俺に一つの物体を渡してきた。
「ユウマ君、これ持って」
「何ですかこれ?」
先輩に手渡されたものは、何やら木の実が乾燥したもののようだった。
こんなの持ってて何になるっていうんだ・・・?
「それは、魔力を瞬間的に回復させる薬。魔力切れを起こしたらすぐに食べてね」
先輩は俺に木の実を渡した後に、俺から大きく距離を取った。
「じゃあ、ユウマ君そこから最大威力の魔術撃ってみてー!!」
先輩は大きな声で、俺に指示を出す。
え、先輩に向かって最大の威力を込めて撃つの?怪我とかしない?
ちょっと躊躇ってしまう。
自分で言うのもなんだが、魔術の殺傷力はそれなりにあるつもりだが・・・。
「・・・どうなっても知りませんよー!!」
先輩に警告をしてから、右手にいつもの要領で魔力を込める。
最近では、意識をしないでも魔力を込めることが出来るようになった。最初の時は魔力の込め方すらも知らなかったのに。
やっぱり、人間なんでも練習してみるもんだな。
魔力をため終えると、魔力は次第に赤色に変色していき、やがてそれは炎の球と化した。
いつ見ても、魔力が火炎球に変化する様子は分からない。どういう原理で炎になるのだろうか。
「行っきますよー!!」
野球の投手のように、大きく振りかぶって投球の姿勢を見せる。
先輩もそれを見て、受けの姿勢に入ったようだ。
「・・・『火炎球』!!」
そして、右手に込めた全魔力の塊をシルジアル先輩に投げつける。
球は一直線にシルジアル先輩の方に、ブレること無く向かっていく。
そして、着弾。
バアアァァァン・・・!
豪快な音を響かせて、火炎球は爆散した。
・・・、え、これ先輩生きてるよね?
「せ、先輩!」
安否の確認のために、急いで先輩の下に駆け寄る。
そこに先輩が倒れている、なんてことは無く、平然としてニッコリ笑っていた。
「いやー、すごい威力だね!これなら練習する必要無いと思うんだけど・・・?」
いや、なんか笑いながらそんな事言うのやめて頂きたい。何を考えているのか分からない人物ということもあって、なんかすごい怖い。
「はぁ・・・、ありがとうござ・・・」
瞬間、視界が歪んだ。いつもの現象だ。
「もぉ、ちゃんと木の実渡したでしょ?ホラ」
先輩が、意識を失いかけた俺の口に何かを放り込んでくる。
それを噛むと、不思議なことに目眩が治まった。視界もハッキリしていて、ちゃんと立つことも出来る。
「え、なんで?」
いつもならここで気を失い、保健室で目を覚ますのがテンプレなのだが。
「この木の実はね、『リカバの実』って言うの。回復量ではポーションより劣るけど、噛めば直ぐに効果を発揮するからその場しのぎには最適だよ」
「へぇ〜・・・」
俗に言う『MP回復薬』というやつか。ヒメリの実、的な。
どの世界でも、装備をしないと効果が無いのは共通らしい。
「・・・この目眩って、魔力切れによるものなんですよね?どうやったら魔力切れを回避出来るんですか?」
ここで先輩に疑問を投げかけてみる。先輩ならいい打開策を知っているはずだ。
「うーん、魔力切れそのものを回避することは出来ないよ。
ただ、魔術っていうのは同じ魔術を使えば使うほどに、熟練度?みたいなのが上がって、より少ない魔力でより強い魔術が撃てるようになるから、魔力切れは自然と無くなるとは思うんだけどね」
「熟練度、ですか・・・」
同じ魔術を使えば使うほど、威力も上がって魔力の消費も少なくなる。
・・・と言うことは、もしかして俺の今のフルパワーの火炎球も、威力が大分上がってるんじゃないのか?
もしかしたら、最初のテストで撃った火炎球レベルの威力なら、魔力切れを起こさずに撃てるようになってる、とか・・・。
あれどれ位の威力かは分からないけど。
「・・・で、ユウマ君に一つ聞きたいんだけどいいかな?」
「?、何ですか?」
今度は先輩から俺に質問が来る。
まさか、あの魔術のダメ出しとか?
「・・・ユウマ君のその魔術、もしかしてオリジナル?」
「え・・・?」
一体どういう事だ?俺はただ単に火炎球を撃ったつもりなんだが・・・。
「あの威力は明らかに火炎球の威力を超えてるし、速さも比べ物にならない。・・・もしかして、使っているうちに別の魔術になったとか?」
いや、そんな事は無いはずだ。最後に火炎球を使ったのも、五月の中旬に一回使ったきりだ。
ちなみに何に使ったかと言うと、それは言えない。
俺が火炎球を撃った回数的にも、リーナとの練習の時に大きく稼いだぐらいで、五十もいっていないはずだ。そんな簡単にオリジナル魔術が出来上がるとは・・・。
「・・・よし、じゃあ今日はその魔術の練習をトコトンしようか!」
その後、先輩にレクチャーしてもらいながら、俺のオリジナル(と思われる)魔術の熟練度を高めた。
名前はまだ無い。




