1話:波乱会長、襲来!
「ふぅ、行くか」
「キュイ!」
五月の二十八日、今日は学校の登校の一区切りだ。
俺とアスモは、五月の頭からは申請していた寮に住み着き、今から夏休み前最後の登校に臨もうとしていた。
もっとも、アスモは保健室でお休みだがな。
-あの事件から、既に一ヶ月が経とうとしている。
リーナはあの後、しばらくは学校に来なくなっていたが、来た時に色々とは吹っ切れていたようだ。
今は、前と変わらない日常を過ごしている。
唯一変わった事と言えば-。
「お、おはようユウマ」
「おう」
リーナが俺の事を『富豪』と呼ばなくなった事ぐらいだ。
事件直後からもう俺の事を富豪とは呼ばなくなった。最初こそは何かこそばゆいものがあったが、今ではすっかり慣れてしまった。
教室で窓際の席に着き、ふと空を見上げる。
そこには、フワフワと空を浮遊しているアスモの姿があった。
なんでコイツ、保健室にいないんだ・・・?
ーーーーー
「それでは、これより1学期の修了式を始めます」
場所を変えて体育館。俺はアスモを抱えて生徒会の話を聞いていた。
まさか、先生直々に許可が下りるとは思ってもなかった。
ーーー三時間前。
「先生、どうしてアスモが教室で飛んでるんですか」
授業が終了した直後、急いで保健室に向かい先生に確認を取る。
そこにはやはり、アスモの姿は無かった。
「いやー、なんでも校長先生直々に許可してくれたのよ」
「はえ?」
「『あの子は小っこいし、邪魔にならないから今日1日ぐらいは一緒に参加させてもいいよ』ですって」
「は、はぁ・・・?」
話の意図が全く掴めない。
そもそもアスモを一緒に参加させて一体何の意味があるんだ。
「まぁ、そういうことだから授業参観させてるわけよ。何か問題でも起こしたの?」
「いえ、別に・・・」
アスモは窓の外から見ているだけだし、俺たちのクラスの授業の邪魔をしている訳では無い。
もっとも、名前も知らない一部の女子は、アスモに見とれて授業に集中出来ていなかったが・・・。
「じゃあ、あれは公認として放置してていいんですね?」
念のため、最後に確認を取っておく。
「いいよ、今日だけだかんね」
「・・・有難うございます」
保健室の先生に向かって一礼する。
「私に言われても困るよ。礼なら校長先生に」
「分かりました」
-そうやって、アスモは今日だけエニストル学園の生徒と同列の扱いとなった。
正直、校長先生には感謝している。
俺がアスモを部屋で飼うのを申請した時も、特例として認めてくれた。今回も色々図ってくれて、今俺は学習時間中にアスモと一緒にいられる。
メリットは何も無いと思うが。
にしても眠いな。やっぱりこういう、長話系の集会は苦手だな俺。
「-次に、生徒会長の演説です。生徒会長、お願いします」
生徒会の書記であろう女子が舞台裏に下がり、代わりに反対側から生徒会長と思しき人物が姿を現す。
そうだな、生徒会長の顔ぐらい見物してから眠るか。
そう思って舞台の人物に目を凝らす。
「・・・おはよう皆の衆!我が名はキュリエス・ストライフである!」
「・・・ん?」
尖った耳に少し白く見える肌、なんか偉そうな顔立ち。
はて、どっかで見たことあるような・・・?
「やれやれ、我の顔を忘れたか?ユウマ・アイサカよ」
「えっ!?」
生徒会長は俺の方をしっかりと見据え、愉快といった表情でこちらを指名する。
な、なんでこんな人数多い中で俺の顔が分かるんだよ・・・!?
「・・・まぁ無理もなかろう。2ヶ月前に出会ったきり、1度も顔を合わしてはおらぬからな」
「二か月前・・・?」
二か月前といったら三月二十八日、俺はまだこの世界に生まれてないはずだが・・・。
「まぁ良い。ユウマよ、我の元に来い」
「え?えぇ??」
意味もわからず生徒会長に呼び出される。なんで俺なんだよ・・・?
さすがに公衆も面前で断るわけにはいかず、渋々席を立ち上がり生徒会長の下に向かう。
舞台の階段を上り終えると、突然生徒会長に肩を引っ張られた。
「え、ちょ」
「紹介しよう、この男はこの大陸で“初めて”タメ口を聞いた男だ!名をユウマ・アイサカ!」
生徒会長は演台に設置されたマイクを取り、大きな声で俺の名前を全生徒に公開する。
この世界にもマイクってあんのか・・・。って、今はそうじゃないだろ。
この生徒会長一体何がしたいの??
文句の一つでも言ってやろうと顔を見てみると、その顔には確かに見覚えがある。
「・・・あ!商業区の!」
そうだ、思い出した。
商業区でギャングから救ってくれた人だ。確かにク〇ウドと間違えた記憶がある。
まさか、この学園の生徒会長だったのか・・・。
「おお、記憶を取り戻したか!そうだ、あの時から我は貴様を気に入ってな」
別に記憶喪失という訳ではないが、記憶が蘇ったことに生徒会長、もといストライフは歓喜している。
・・・で、その後の言葉だが。なんで俺気に入られてんの?
「我はここに宣言する!明日、この男と我は演習場にて決闘を行うと!」
いきなり何言ってんだこの生徒会長。
「ユウマ、貴様にはもちろんこの決闘を受けてもらうぞ。拒否権はない」
うわ、さらっと人権を踏みにじるような発言しましたよこの悪魔。
ん?そうか、コイツ悪魔だった。
「・・・せめて、どういう経緯でそういう思考に至ったか説明して貰えると有難いのですが」
なるべく逆鱗に触れないように、丁寧な口調で説明を要求する。
「ふむ、確かに貴様には闘う理由が皆無だからな。よし、我が直々に説明をしてやろう」
ストライフは、右手で掴んでいた俺の肩を離すと丁寧に説明してくれた。
「まず、我と貴様の出会いを覚えているな?」
「確か、悪党共を助けてくれた時だったな」
「そうだ。その後、我は貴様に『大丈夫か、少年よ』と問いかけたな?」
「まさか、会話内容まで覚えているのか」
「その後、貴様は何と答えた?」
「えーと・・・、確か『あんたも少年だろうよ』的なことを言った気が・・・」
「そう、そうだユウマよ!貴様は我に『あんた』とタメ口を使用した!身分の違いも分からずに!」
「・・・もしかして、激おこですか?」
だとしたら、俺の命は軽く吹き飛ぶことになるな。
「そうではない。我は先にも言ったはずだ、『貴様の事を気に入っている』と」
はぁ、有難うございます・・・。
「じゃあ、どうして決闘を?」
「なに、我の事をあんた呼ばわりした貴様の実力を測りたいだけだ」
気付けば速攻で額を地面につけていた。
「どうもすみませんでした勝てませんので許してください何でもしますから」
「頭を上げろ、ユウマよ。我は何も貴様を木っ端微塵にして喰ってやろうと言っている訳ではない」
頭を上げていいとの許しが出たので、腰を上げてストライフの顔を見る。
「ただ純粋に、貴様の現時点での実力を測りたいだけだ。我からは別に貴様に危害を加えない」
「・・・本当に、何もしないんですか?」
「約束しよう。この決闘を受けてもらうぞ」
「だが断る」
・・・。
「・・・・・・・・・」
体育館全体が凍りついた。
「冗談です」
半ば強引に、俺は生徒会長との決闘を受けることになった。




