外伝:出発準備
賑わう街中にて、1人の女性がメモ帳を見ながら買い物をしていた。
「・・・とりあえず、これで必要な物は揃ったか」
濃い紫色の髪に深緑色のローブを着込んだ、同性の中では高身長の女性。
その女性が持つ袋の中には、多種多様な食べ物や道具が乱雑に詰め込まれている。
「あ、サクラじゃねーか」
そんな女性、サクラの背後からまた別の女性の声がする。
サクラがそれに応えて振り向くと、そこには赤色の髪をした、小柄な少女が少しばかりの荷物を持ってそこに立っていた。
「やぁ、リーナじゃないか。こんな所でどうしたんだ?」
どうやらサクラとその少女、リーナは知り合いらしく、和やかな雰囲気の会話が広げられる。
「あたしは今日の夕飯の買い出し。そういうサクラは旅の準備か?」
「ああ。明日から出発だからな」
「明日からか・・・」
「やっぱりリーナも一緒に行くか?」
「い、いや、あたしは危険な事は避けたいから遠慮する」
サクラの誘いを、リーナは少々申し訳なさそうに断る。
「そうか、リーナがいるなら百人力なんだがな・・・」
「おだてても行かないもんは行かねぇぞ!」
「・・・ダンジョンの最深部のアイテム、欲しくないか?」
サクラは切り札と言わんばかりの話題をリーナに切りだす。
「・・・!!」
リーナもその話がとても気になるらしく、その話題に食い掛かる。
「ここだと話を聞かれるかもしれない。ウルスの家に行こう」
「あ、あぁ」
そして、2人の少女はその場を後にし、商店街を抜けるべく歩き出した。
---
「おかえり、ってシルジアル?」
「よう、ウルス」
「帰りに出会ったから、ついでに誘ったんだ」
部屋の中には、1人の青少年と2人の少女。
彼らはテーブルの椅子に腰掛け、何やら話し合いを始めるようだ。
「・・・で、アイテムってのは『魔法』のことか?」
先に切り出したのはリーナである。それにサクラは答える。
「ああ。それも今まで発見されていなかった洞窟のものだ」
「・・・一体どこでそんな情報を?」
「あくまで風の噂だけどな。
クラスの奴らからダースコル領の西端の方に新しいダンジョンが発見された。その最深部に未確認の力を持ったアイテムがある、って言ってたんだ」
「私たちはその確認をしに行くために、支度をしていたんだ」
「ダースコル領って・・・。一体そこに着くまでに一体どれ位の時間がかかると思ってんだ?」
「そうだな。ダンジョンに潜る時間を丸3日と仮定して、旅道を往復2ヵ月。大体それぐらいだと計算しているが」
「・・・死んだら、どうするつもりなんだよ?あたしは友達を燃やすのなんて勘弁だぞ」
「中の魔物が勝てないような強さだったら、さっさと撤退するよ。でも確かに、中の魔力の事は考慮していなかったな・・・」
ウルスと呼ばれる青少年は、少しの間思考する。
やがて思考を止めて、口を開く。
「まぁ、ダンジョンの奥まで潜れなかったとしても、フィールドワークの内容にはなるから、決して無駄にはならないぜ」
「・・・」
リーナはしばしの間考える。
「・・・そうだな。それくらいの期間なら、別にいいな」
「よっしゃ!そうと決まったら、1人分追加するぞ!」
「私はこうなると思って買ってきておいたぞ」
「え、マジかよサクラ」
サクラは買ってきた荷物の中から、一つの大きな包を取り出して、リーナに手渡す。
「え、い、いいのか?」
「私から誘ったんだ。これぐらいは当然だろう」
「・・・んじゃ、俺ももう1回商業区に行ってくる」
「ああ、行ってらっしゃい」
ウルスはそう言って、部屋の外に出ていった。
「・・・ここ、アイツの家だよな?」
「昔からこんな感じだからな。心配ない」
「む、昔からそうなのか・・・」
---
・・・ここからは、2人の少女たちの会話である。
「・・・昔からあんな感じって言ってたけど、一体いつぐらいからの付き合いなんだ?」
「そうだな・・・。物心つく前から一緒にいるな」
「だいぶ昔から一緒にいるんだな」
「ああ。アイツ、ああ見えても昔は大分大人しかったんだ」
「今でも十分大人しいと思うけど?」
「全っ然。昔は私とも喋れないくらいに大人しかった」
「へぇ、そんなに静かだったのか・・・。どうしてあれぐらい喋れるようになったんだ?」
「さぁ?ただ歳を重ねる度に心は成長するだろう。それに伴ったんじゃないかな」
「あ~・・・。そういうこともあるんだな」
「そういうこともあるんだよ。・・・ところで、私も気になってたことがあるんだが、いいかい?」
「ん?」
「リーナはアイサカ君と大分仲がいいみたいだけど、君たちはいつ知り合ったんだ?」
「・・・別に。あいつと仲良くした覚えはねぇな」
「その割には、君とアイサカ君以外で喋っているところを見たことが無いが?」
「そ、それは周りの奴に話しかけるのが苦手なだけで・・・」
「そうかな?私にはとてもそうは見えないけど・・・。それは別にいいよ、君とアイサカ君はいつから?」
「・・・今年の4月から、だったか」
「随分と最近だね」
「アイツとの出会い方は、あまり良くは無かったけどな」
「へぇ、どうやって出会ったんだい?」
「・・・ん、んなこたどうでもいいだろ!?どうしてそんな事聞くんだよ?」
「単に気になっただけだ。気に触ったのならすまない」
「・・・サクラは、最近になって途絶えた盗人の噂は聞いたこと、あるか?」
「あぁ、俊敏な盗人の事か。それがリーナだった?」
「・・・そうだ。あたしが盗みを働いてる途中で標的になったのが、アイツだった」
「まぁ、何となく予想は出来てたけどね」
「知ってたのか?」
「小柄な見た目っていうのは特徴が一致してたし、君が転校してきてから盗人の噂が絶えたからね。もしかして、とは思ってた」
「・・・何も、言わないのか?」
「罪を悔い改めたいのかい?だったら衛兵に突き出してもいいけど」
「い、いや勘弁だ」
「・・・友達にそんな事、できる訳無いだろう?」
「・・・ありがとう」
「別にいいよ。で、出会い方は確かに最悪だね」
「ああ。でも、アイツは他の奴らとは違ってあたしの事情を聞いてくれたんだ。それからも色々助けて貰ったり・・・」
「彼は優しいからね」
「・・・優しいのは認めるよ」
「好きになったりしたかい?」
「すっ・・・、馬鹿な事言うな!」
「はははっ、どうやら満更でもないないみたいだね」
「あんな奴、一体誰が好きになんだよ・・・」
「まぁ頑張りなよ、応援してるからさ」
「むぅ・・・、そういうお前はどうなんだよ?ウルスの事好きだったりするのか?」
「私?私とウルスは・・・、最早家族みたいなものだからね。好きも何も無いさ」
「ず、ズルいぞ!そんな回答!」
「本当のことだから仕方ないじゃないか」
「ぐ・・・」
「おっと、ウルスが帰ってきたみたいだ」
「・・・いつか必ず、化けの皮を剥がしてやる」
「化けの皮って、人のことをなんだと・・・」
---
「おう、ただいま」
ウルスは若干息を切らしながら部屋のドアを開ける。
「おかえり。手ぶらのようだけど?」
サクラがウルスの状態を見て、疑問を上げる。
「ああ、閉まってた」
ウルスは簡潔に答え椅子に座り、テーブルに俯せる。
「閉まってたって・・・。じゃあどうすんだ?」
「仕方ない、出発は明後日に変更だな」
「そうだね」
「・・・まぁ、そうなるよな」
一行は少々残念そうな顔をした後、サクラが明るい顔で場を和ませる。
「よし、それじゃあ夕飯にしよう。折角だからリーナも食べていきなよ」
「いいのか?」
「いいよ。一緒に旅に出るんだから、親睦を深めるのにも丁度いい」
「・・・そうだな、折角だから食べてけよ」
「・・・うん、じゃあ有難く」
そして3人は、同じ屋根の元で束の間の親睦の時間を過ごすのであった。




