19話:狼少女
翌日。
「よし、じゃあ行くか」
朝食を終えた俺とアスモは、学校に向かうために家を出た。
それにしても、ペットの連れ込み許可なんてどうやって取ればいいんだ?普通の担任に伝えればいいのだろうか。
しかし、多分コイツは他の生物たちとはわけが違うからなぁ。小さいから他のペットに襲われたりしそうだし・・・。
「なぁアスモ、他の生物たちと一緒にいても大丈夫か?」
おそらくコイツは人間の言語を理解しているので、生物小屋に入っても大丈夫かどうか聞いてみる。
「キュ、キュキュウ!キュウキュウ!」
アスモは、首を大きく横に振る。嫌ということだろうか。
でも結局、学校に居るためには生物小屋に入ってもらうしか無いんだよなぁ・・・。いつまでも保健室の先生に迷惑掛けるわけにもいかないし。
でもコイツを他の奴らと一緒に入れとくのも心配だなぁ・・・。
・・・もしかして、俺って過保護かもしれない。
「キュキュウ!キュウ!」
アスモは翼を休めるためか、俺の肩に乗ってきた。
「っとと」
いきなりの事なので、少し肩に負担がかかる。
「キュウ、キュウ」
俺の頬に顔を擦り付けてくる。やっぱりコイツ人懐っこいな。
「はは、・・・まぁどうにかなるかやってみるさ」
五月頃から学生寮が使えるようになる事だし、そこで世話をすることも出来るかもしれない。
とにかく、コイツを生物小屋には入れきれない事は確かなので、どうにか打開策を考えておこう。
そう考えながら、学校への足を進めた。
ーーーーー
「へぇ、そいつの名前決まったのか」
昼休み、おそらくこれから日課になるであろうメンバーで昼食を取っていた。
ウルスとサクラ、リーナに名前が決まったことを伝えると、ウルスは興味津々で話に食いついてきた。
「あぁ、アスモって名前だ」
「キュウ!」
アスモも元気よく鳴き声で「よろしく」と言う。(自己解釈)
「アスモか、いい名前じゃないか」
サクラも、アスモという名前を褒めてくれる。
アスモも嬉しそうな表情をして、サクラの膝の上に座り込む。
サクラも、アスモの頭を優しく撫でる。
なんか絵になるなこのペア。
ふと、リーナが俺の左手を見て声をあげる。
「って、富豪その絆創膏どうしたんだ?」
絆創膏とは、昨日アスモに噛まれた箇所に貼ってあるやつの事を言っているのだろう。
「ん、これか?ちょっとな・・・」
アスモに獰猛なイメージを持たれても嫌なので、適当に誤魔化しておく。
可愛い見た目して噛んでくるとか、怖いもんな。昨日のは完全に俺が悪いけど。
「ふーん、まぁ何があったのか大体想像つくけどさ」
だったら聞かなくてええやん。
「そうだ、ユウマは夏休みに何か予定あるか?」
今度はウルスが夏休みの予定を聞いてくる。
「夏休み?なんでそんな先の話を・・・」
今はまだ四月下旬で、夏休みまでは後三ヶ月近くある。
今聞く事では無いはずなんだが・・・?
「ん?ユウマって転校生なのか?」
転校生、か。なんて言えばいいんだ?さすがに転生しましたなんて言える訳ないしなぁ。
そうだ、他の国から来たことにしておこう。この国は学問の国とか言ってた気がするが、さすがに学校ぐらい他の国にもあるだろう。
「転校生っていうか、高校になってからこの国に来たんだ」
とりあえずこう言っとけばウルスを誤魔化せるはず。
すると、ウルスの口から前世では信じられない言葉が飛び出してきた。
「そうか。この国では、夏休みは6月の頭からだぞ」
夏休みは六月から・・・。
「マヂで!?」
思わず身を乗り出してしまう。脇目でリーナが少し驚いていたが気にしない。
「お、おう。8月いっぱいまで・・・」
「やったぜ。」
なんて最高な国なんだ。転生した場所がここで良かった。
ふと、隣のリーナが疑問を口にする。
「で、夏休みに何かあるのか?」
「良かったら夏休みの課題一緒にやろうぜ、って思ったんだけど・・・」
は?何言ってんだコイツ。
夏休みの課題っていうのは普通やらないだろ?少なくとも、俺は今までの人生で一度足りとも夏休みの宿題なんてやったことない。
あれ?転生してるから当たり前か。俺がこの世界に生まれてまだ一ヶ月も経たねぇや。
「夏休みの課題って言ったら、フィールドワークか」
今まで黙っていたサクラが口を開く。
「そうそう、皆でやった方が早く終わるだろ?」
「フィールドワークッテナンデスカー」
夏休みの課題がフィールドワークとは、聞いたことがない。アサガオの観察でいいの?
俺の質問に答えてくれたのはサクラだ。
「その名の通り、国の外に出てなにかをしてくるんだ。魔物の討伐、観察とか・・・」
ふーん、それを写真か何かで証拠を残して提出する的な?
そもそもこの世界に写真というものがあるのかどうか分からないが。
「・・・そんなの富豪に出来るのか?」
ん?若干リーナにバカにされた気がする。
舌でチッチッチッと鳴らして、俺が前のテストの時とは違うということを説明する。
「俺ゃ昨日のテストの時とは違うのですよシルジアル君」
「殴っていいか」
どうやら癪に障ったようだ。ごめんなさい。
「俺は密かに家で魔術の練習してるんだ!テストの時よりは確実に魔術の精度は上がってるぜ!」
「・・・まぁ、確かに現場で倒れたりしたら困るのは俺たちだけどな」
「全くもってその通りです」
横からウルスに正論を言われた。
一応、魔力の使いすぎには気をつけながら練習してるんだけどなぁ・・・。
突然、サクラに抱かれていたアスモが元気に鳴き声をあげる。
「キュイ!キュイ!」
急にどうしたというのだ。トイレか?
そういえばコイツってトイレどこでやってるんだろうな。
「そうだユウマ、アスモも連れてこうぜ」
急に何を言い出すんだこいつは。
でも、俺が行っている間はコイツ一人だもんな。それは駄目だ。
「だ、大丈夫なのか?」
安全が確証されない限りは連れていきたくないのだが。
それに、もし危険に陥ったとしてアスモが自己防衛出来るほどの強さを持っているわけじゃないしな。
「そんな危険な所に潜り込むわけでもないし、いざという時は飛べるんだから大丈夫だろ。・・・多分」
確証はされない。
「不安やなぁ」
「キュウ」
アスモも同じ気持ちなのか、元気の無い声を出す。
「・・・この事は、夏休みが近づいてから話すか」
ウルスが話題の転換を図る。
「そうだな。今から浮かれてても仕方ないしな」
リーナがそれに乗っかる。
夏休みの話題が終わり、それからは他愛もない世間話をしながら残りの昼休み時間を過ごした。
ーーーーー
放課後。
昨日は保健室で寝込んでいたせいで来れなかった図書館に来ている。アスモには騒がしくしないようにと言っているので、俺の肩で大人しくしている。
・・・なんか、転生してからよく図書館に潜っている気がするが、別に本が好きな訳では無い。
ただ、別の世界の知識を得るにはこういう所が効果的だと思うので来ているだけだ。前世では図書館には中学に上がってからは行かなくなった。
さて、どれから調べようか。
大罪戦役、古代魔術(今日の授業で習ったものだ)、この世界での聖徳太子・・・。調べたい事が沢山ありすぎる。
・・・とりあえず、アスモデウスに関係のある大罪戦役について調べてみるか。
そう思って適当な席に鞄を置こうとした場所で。
「やっほ、ユウマ君」
ストリエス先輩と鉢合わせした。
「先輩、どうしてここに?」
「そろそろ君が来る頃合かな、って思ったんだよ」
予知能力者か何かですか?
「おっ!その肩に乗っている可愛いのは?」
先輩はアスモに強く食いついた。
アスモは人気だなぁ。
「俺のペットです。アスモって言います」
「キュウ」
アスモはいつものように元気よく挨拶をせず、控えめな音量で挨拶をした。
どうやら、俺の言いつけを守っているようだ。
「へぇ、ギューッてしてみていい?」
「どうだ?アスモ」
アスモは首を横に振る。
あ、あれ?人懐っこいはずなのに・・・。
でも、本人(人?)が駄目というのであればどうしようもない。
「すみません、なんか今は駄目みたいです」
「そっかぁ・・・、まぁ仕方ないか」
ストリエス先輩は、いかにも残念ですという仕草をする。
「で?今日は何を調べに来たの?」
「あ、今日は大罪戦役につい、て・・・」
なんで俺が何か調べに来たことを知っているんだ?
ちょっと怖いよこの先輩。
「今どき熱心に調べ物をする人ぐらいだからね、こんな所にいるのって」
また心を読まれたかの如く、先輩は俺の疑問を言ってもいないのに答える。
「別にそんな魔法を使っているわけじゃないよ、ただ君の顔ってわりと分かりやすいもん」
「分かりやすい、ですか?」
そんな顔はしていないと思うんだけどな。
「君ぐらいだよ、こんなに分かりやすい人って」
「はぁ、そうっすか・・・」
きっと、ウルスたちも表情を見て会話をしているんだろうなぁ。
ポーカーフェイスの練習しとくか。
「で、大罪戦役?こりゃまた昔の歴史について調べるね」
「大罪戦役と古代魔術って、どっちの方が古いんですか?」
「大罪戦役でも古代魔術は使われていたけど、それもほんの一部だよ、ちょっと待っててね」
ストリエス先輩は本棚の奥へと姿を消した。
・・・もしかして、どの本がどの位置にある、とか全部把握してんのかな?
「・・・キュウ、キュキュウ」
先輩を待っていると、アスモが突然俺に話しかけてきた。
「ん?どうかしたのか?」
耳を傾けるが、もちろん分かるわけがない。
「キュキュウ、キュキュウ」
「『あの人からは少し危ない匂いがするから早く逃げた方がいい』だってさ」
いつの間にそこにいたのか、ストリエス先輩は二冊の本を手に持って俺の隣の席に腰掛ける。
「言葉、分かるんですか?」
「んー、私は色んな生物の血を引いてるからね。もしかしたらドラゴンの血も混じってるのかも」
もしかしたらって・・・。もっと他の種類の生物の血も引き継いでいるのか?
「はい、これ。『大罪戦役』と『古代魔術の発端』っていうタイトルだよ」
「あ、ありがとうございます・・・」
本を差し出されて、ぎこちなくそれを受け取る。
一体、この先輩は何者なんだ?
「ふっふっふ、疑心暗鬼になってるかね?ユウマ君よ」
また心を読まれた。顔に出ていたのか。
「ならば教えてやろう。
・・・我は第287代目ストリエス族魔王、クルシア・ストリエスである!」
・・・は?
いやいや、魔王様がなんでこんな所にいるんすか。
でも、アスモは危険だって言っているし・・・。あれ、よく考えればアスモの言葉を翻訳したのって・・・。
「・・・・・・ぷっ、アハハハハ!!なんでそんな硬直するのさ!冗談だよ冗談」
ストリエス先輩は俺が思考を巡らしている様子を見て、大笑いする。
「・・・先輩、狼少年って知ってますか?」
「私は嘘にまみれた人間だよ。私の言う事はあまり信じない方がいいかもね」
知っている、というよりはこの世界にその話があるのか。ちょっと驚いたぞ。
「あー。大丈夫、その本はちゃんと君の知りたいことが載ってるはずだから」
「・・・先輩って、なんだかよく分からない人ですね」
「幻術使いですから」
幻術使いだったのか。そういえば、先輩との出会いも幻術の練習をしている時だったな。
・・・。
「祓魔」
「へ?」
何も変化は起こらない。まぁ、当然か。
「いきなりどうしてそんな魔術・・・」
「いえ、なんでもないですよ。忘れてください」
なんとなく、この魔術を使えば先輩に何か変化が起こるかも、と思ったがそんなことは無かったか。
・・・よくよく考えれば、俺にこの魔術扱えんの?
「おっと、私はそろそろ用事があるからここら辺で」
「あ、分かりました」
先輩は椅子から立ち上がると、鞄を持って早々に立ち去ってしまった。
約束あるなら、普通は家に直接帰ると思うんだけどな。
まぁいいや、先輩が見つけてくれたこの本で調べ物をすることにしよう。




