第六話
「後宮を牛耳る『黎様』とかいう冷血な執政官も、四妃の派閥争いも、まとめて私の薬膳料理で手なずけてやるわ!」
意気揚々と後宮御用達厨房の選考会会場へ足を運んだケイ。
会場には貴族御用達の老舗料亭の料理人たちが並び、フカヒレや熊掌などの超高級食材が与えられていた。一方、町娘で新参者のケイの調理台に置かれたのは、皮の剥けた梨、蓮の実、百合根、そして少量の干しナツメといった「余り物」ばかり。
露骨な嫌がらせに周囲からクスクスと嘲笑が漏れるが、ケイは眉一つ動かさなかった。
(ふふん、前世で『限られた予算と素材でヒット商品を作る』開発競争を勝ち抜いてきた私をなめないでよね!)
ケイは上座に座る審査員(後宮の高級官僚たち)の表情を観察した。
彼らは連日の政務や「筆頭執政官・黎様」からの厳しい要求、そして四妃の派閥争いに胃を痛め、重度のストレスで顔色を悪くしていた。
(ターゲットは極度のストレスを抱えた官僚たち。今彼らに必要なのは胃に重い高級食材じゃない。疲れた身体細胞にしみ渡る、至高のヒーリング・フードよ!)
ケイは迷いない手つきで包丁を握った。
梨の皮を剥いてスライスし、蓮の実と百合根は蒸してエグみを抜く。ナツメとともに薬膳スープでじっくり煮込み、仕上げに持ち込んだ「金木犀の濃厚花蜜シロップ」を投入。
香ばしくも甘美な香りが会場全体を包み込み、油っこい匂いを一瞬で吹き飛ばした。
ケイが差し出したのは、『金木犀と白梨の薬膳コンポート〜翡翠スープ仕立て〜』。
気乗りしない様子で一口食べた筆頭審査員が、目を見開いた。
「……っ!? な、なんだこれは……! 疲れ切った胃に優しく染み渡っていく……! そしてこの金木犀の爽やかな香りは……頭痛がすうっと引いていくようだ……!」
「美味い! 胃が、身体が軽い!」
審査員たちが争うようにスープを飲み干し、筆頭審査員は感極まった面持ちで宣言した。
「満点合格だ! ケイ、お前を即刻、後宮御用達厨房の宮廷料理人として採用する!」
「ありがとうございます!」
ケイは胸の銀簪にそっと触れ、不敵に笑った。
(よしっ! 第一関門突破ね! 待っててねジンさん、後宮のトラブルをちゃっちゃと解決して、またあの街で美味しいお菓子を食べさせてあげるからね!)




