27.根性
水の矢が僕らに向けて降り注ぐ。
「大丈夫。岩拳の突き上げ」
ドドドと岩の拳に水の矢が当たる音がする。
これで『穿つは雨の雫』は三回目。
すぐさま岩の拳の先から眩い光が溢れてくる。
「来るっ!」
「避けろアル!」
僕は咄嗟に横に飛ぶ。
振り返るとジッキーは避けずにシールドで受けていた。
「ありがとう」
向かう光の先にはルヴィがいた。
だから、どちらかは必ず受ける必要があるけど……
「ジッキー僕、魔力がもう」
火の石をベルトにしまいながら言う。
「分かってる。今は全部俺に任せろ」
ヘルムの奥から頼もしい返事が聞こえた。
でも、ジッキーもそれなりに魔力を使っているはずだ。前回以上にシールドが割られているのに、既に三回は岩拳シリーズを使っている。もう残り少ないはず……
「来いよ。俺が相手だ」
ジッキーが暗い顔になっているであろう僕の前に立ち、ヴィッグ卿と壁役に向けて剣を向ける。
ヴィッグ卿は「ハッ」と鼻で笑い剣をしまう。
「下らない」
腕を組んで後ろへと下がった。
「良いのかよ。自称主役が舞台から降りて」
「良いさ。前座に主役は出ないものだからね」
ヴィッグ卿は顎でしゃくり壁役に指示を出す。
「舐められたものだな」
ジッキーはヘルムを地面に置いて髪を払う。『零によく似た加護』を使わないまま斬り込んでいった。
相手は盾を構えながらシールドを貼り直す。
その瞬間、会場からブーイングが起きる。
「タイマンに魔道具は卑怯だろ」
「男らしくねぇぞ!」
壁役は「うるさいな」と苦々しく表情を歪ませる。
それでも魔道具を使い続けるのは……
「オラァ!!」
ジッキーの剣が相手に深く斬り込む。
咄嗟に壁役の方は盾で防いだものの魔力操作までは気が回らず盾に振り回されていた。
さらにジッキーは斬り込んでいく。
激しい剣の打ち合いの中、ジッキーの剣は相手の一歩先をいく。
壁役は剣を何度も振り回す割に精度が悪く、ジッキーの剣を前にいなされ続けていた。
「良いぞー!」
周りから応援と拍手が聞こえてくる。
ヴィッグ卿側の観客も白けて静かになっていた。
「ここだろ!!」
相手のシールドが割れ、ワッと歓声が起きた。
「あーあ、勝負あったね。もう良いよ」
ジッキーは剣を構え「まだまだだろ!」と大声を出す。
ヴィッグ卿は無視したまま後ろの穿つは雨の雫を持つ生徒を前に寄せる。本格的に二人でルヴィを狙うつもりだ。
「その手には乗らないからさ」
剣が光を放つ。
狙いはルヴィ、咄嗟に僕は腰のランタンに手を伸ばす。
「零によく似た加護」
ジッキーがまた攻撃を受けた。
額には脂汗が浮かび大きく肩で息をしている。
普段後ろに上げている銀の前髪が垂れて張り付いていた。
「そろそろ舞台を降りろよ、三下風情が」
「ジッキー……」
思わず僕は声をかけた。
「そんな顔するなって」
ジッキーは振り返りニッと歯を見せて笑った。
限界だと思った。
後ろを振り返る。
ルヴィと目が合い、頷く。ルヴィの準備は終わっていそうだ。
側に立つエーデさんが拳を握り小さく振っていた。
相手の魔力量は……多分、あと少しだろう。
「大丈夫、ジッキー。やるから」
僕は少し早口で言葉を紡ぐ。
そのくらい大丈夫。大丈夫だ。
「これにて余興は終わり、お待たせしました。ここからクライマックス。主役の全力をお見せしましょう」
ヴィッグ卿が仕切り直す。
彼に向けられる拍手と声援の中で、
「ジッキー! 頑張れよーー!」
騎士団の集団、その最前列から一際大きな声がした。
サレッドだった。
ジッキーが小さく笑い拳を突き上げてヴィッグ卿の方へとゆっくり進んでいく。
「正直、結構悔しかった。前の試合に負けたこともだけど、この前二人とやってみて届かなかったこと」
「うん」
俺も練習してんだけどなぁ、とジッキーは呟くように言って頭を掻いていた。
鉄の背中が小さく揺れる。
「もう良いって、剣振りはさぁ」
ヴィッグ卿は白けたように言って手を払う。
水の矢がジッキーに向けて降り注ぎ、盾に再び風が宿った。
壁役が前に立って近づくジッキーを待ち構える。
「見とけよ、アル」
斜めに走りながらジッキーは拳を握った。
「これが俺の根性だああああ!!」
ジッキーは『岩拳の横殴り』で三人まとめて横道の壁に叩きつけた。
水の矢を振り上げた拳で受け止め、壁役の盾に叩きつけた拳が勢いよく少し後方に控えていた二人を巻き込んだのだ。
割れた三人分のシールドが濃く光って煌めく。虹色に輝いたそれは綺麗だった。
「託したぞ」
ダウンと試験官の声がした。
ジッキーがうつ伏せで倒れたまま石になっている。
「行くぞ、風の加護!」
風の力が宿り、髪と服が大きく揺れていた。
僕は倒れたジッキーを追い、剣を構えて前に走り出した。




