19.魔道具
今日最後の授業が終わった。だるい体を起こし僕はルヴィの元へと向かう。
魔力欠乏症の方はあまり回復していないみたいだ。
「じゃあいきましょうか」
ルヴィが魔剣を持って立ち上がる。
初めの方こそルヴィの周りに集まっていた人たちもそれぞれの生活が始まり最近はあまり見かけなくなった。
「おっ、ヤッホ!」
廊下で前からやってきたエーデさんが手を振っていた。
僕は手を振り返す。
「二人でどこ行くん?」
「今からルヴィに魔道具の使い方を教えてもらうんですよ」
「うわ、良いなー」
「来たらいいじゃない、あなたもチームメイトなんだし。家庭教師に教わったことをあなたたちに伝えることくらいはできるから」
「うーん……じゃあ蠢く砂漠の薔薇取って来るね!」
僕らはエーデさんを待つ為、廊下の端に寄った。
今日はちょうどエーデさんのレッスンがない日らしい。よかった。
僕はなんとなく隣を見た。
凛とした立ち姿のルヴィがいる。端整な横顔だった。
「ルヴィってさ、面倒見良いよね」
ルヴィは「そう……かしらね」と僕の方を向いて小さく首を傾げた。
「あまり深く考えたことは無かったけれど」
「貴族ってもっとお金と権力が全ての人だと昔は思ってたよ」
「あとプライドね。あながちその認識で間違ってはいないわ。それでも、長期的な視野を持てば持つほど人に嫌われると損なだけだから」
実にルヴィらしい答えに僕は笑う。
そんな話をしているとエーデさんがやって来た。手を振る腕に宝石のついたブレスレットのような魔道具が見えた。
学校の敷地内の外でルヴィが片手で魔剣を構える。
「魔力充填、脈動開始。夜焦がす蒼き彗星」
帰宅途中の生徒たちの視線を浴びながら青い炎が真っ直ぐ伸びて地面を焼き焦がした。
「これが蒼き彗星の届く最長距離よ」
「「おおー!」」
僕らは拍手をする。
「この一本で剣の時代に建てられた要塞なら落とせると言われているわ」
確かにな、と僕は頷いた。青い火が要塞の内部の狭い通路なんてあっという間にひと舐めにするだろう。
ルヴィは血を払うように魔剣を振ってから鞘に戻す。
だから、と付け加えるように言って蒼き彗星を僕に向けて差し出した。
「すっごく高いの。扱いには本当に気をつけてね」
初めてみるルヴィのぎこちない表情に僕は手を伸ばしたまま固まる。
「ルヴィっちがそう言うってことは相当高いねー」
僕はエーデさんに「プレッシャーかけないでくださいよ」 と言いながら蒼き彗星を受け取った。
「おっす! みんな集まって何してんの?」
校門の方から声がかかり顔を上げる。
赤いコートを羽織ったジッキーが手を振っていた。
「ジッキー!」
「ルヴィっちに二人で鍛錬してもらってる、そのとちゅー」
「おお、そっか」
「ジッ……キーは、お勤め終わったのかしら?」
「いや、そもそも詰所にいったら今日非番だったんだって知らなくてさ」
アッハハと豪快にジッキーが笑う。
「それでアルが今ルヴィ嬢の魔道具を借りて練習中か?」
僕は頷く。
それからルヴィと同じように片手で蒼き彗星を構えた。
「じゃあ、いくよ」
目標はルヴィが出した蒼き彗星の最高距離。
焼けた地面と地面の境目を見つめる。
「魔力充填、脈動開始」
汎用品の魔道具よりもずっとすんなり魔力が入った気がする。
そのかわり失った魔力の分だけギュッと内臓を掴まれるような感覚に寒気がした。
それでもせっかくの機会なんだから、と下唇を小さく噛み顔を上げた。
魔剣を振りかぶり斜めに切り下ろす。
「夜焦がす蒼き彗星!」
目の前からリーンと高い音が鳴り、青い炎が放たれる。
真っ直ぐ伸びた炎はルヴィの作った黒い道の三分の一程度で止まって消えた。
これが汎用品ではない魔道具か、と手の中の蒼き彗星を見つめる。
思っていたより伸ばせなかったが、すごく制御しやすい。
「「おおー!」」
エーデさんとジッキーがパチパチと手を叩く。
「良い感じ!」
「炎も真っ直ぐだしフォームも綺麗! お見事!」
僕はえっへっへとだらしなく笑い頭を掻く。
二人がいるとめちゃくちゃ褒めてもらえるから正直、超気持ちがいい。
でも……これじゃあ全然ダメだ。
ルヴィに蒼き彗星を返す。
僕が使うのは『焼ける秋の木々』で、これに慣れちゃダメだ。これだけ安定しているものは多分火の魔道具ならかなり珍しいと思う。
「まずはしっかり寝ないとダメそうね」
「うん」
「あとは……特に思いつかないのだけど」
腕を組んだままルヴィが目を逸らした。
まさかの指導終わり。
瞬きをしてルヴィを見つめ返す。
「え、何か。魔道具を使う秘訣みたいな」
「そんなものあるわけないでしょ」
バッサリと言い切られる。僕はジッキーとエーデさんの方を見た。
何か、何か解決策が欲しいのだ。魔道具に頼らない何か。
「いや、普通に上手上手。ルヴィ嬢が慣れてるだけで多分俺もそのくらいになるって」
ジッキーがニッと歯を見せ親指を立てていた。
「そうじゃなくて……」と首を横に振る。
「何か」
何かって僕は何を求めているんだ。
「色々と考えるよりも一度少し休んだら」
声がして顔を上げた。
ルヴィの言葉に頷く二人が見える。
「そうする」と答え、いつのまに寄っていた眉間から力を抜く。軽く息を吐いた。
「魔力の操作は上手だから、落ち着けてやればちゃんと使えると思うわ。そこは安心して」
その後、ルヴィから魔道具を持った時の立ち方や腕の動きを実践で見せてもらう。教科書に載っていない細かいところを見て学べたのは良かった。
「うおおおおおお!!」
僕らは手を止めて声の方を見た。
ジッキーが腕を振り上げながら校庭を走っていた。
「いけっ蠢く砂漠の薔薇」
ジッキーの踏み出した足の横に砂で出来た蔦が一瞬で生え出す。
走り続けるジッキーの足に次々とその蔦は出てきた。
エーデさんが「最後ー!」と声をかける。
「うおっと」
ジッキーの足元に出てきた蔦が丸くアーチのようになって片足に巻きつく。ジッキーはつんのめりながらもなんとか堪えていた。
器用ね、とルヴィが呟く。僕は拍手を送った。
「お見事エーデさん!」
エーデさんは笑顔で「イエイ」とVサインを返す。
しんどそうな様子は微塵も感じ無い。魔力効率が相当いいのか。エーデさんの魔力が多いのか。どちらにせよ眩しいくらいの笑顔に羨ましいと思った。
日が傾き始めた。
そろそろ解散の雰囲気となりそれぞれ魔道具の手入れをして帰宅の準備を始める。
「あー、お腹減った」
僕は空腹感に任せて本当に他意無くぼやいた。
「じゃあうちに食べにくる? 多少の来賓に対応できるくらいの用意はあるでしょうし」
その代わりあんたは後で勉強も込みでね、とデメリットとして機能していないことをルヴィは言う。
「あーうん。じゃあルヴィが良いならお言葉に甘えようかな」
「どうぞ。二人は?」
ルヴィはエーデさんとジッキーにも聞いていた。
「おっマジ。じゃあ俺も行っていい? 一旦騎士団の寮に帰ってからになるけど」
「うちも、うん。一旦家に帰って荷物置いてから行くね。一緒に何か家から持っていく」
「そっ、じゃあそれで」
その後はお喋りをしながら歩き、それぞれの帰り道で別れた。
僕とルヴィはそのまま屋敷の方へと向かう。
道中、珍しくルヴィが「ねっ」と熱を入れた調子で僕に声をかけてきた。
「あの二人、良い感じだと思わない?」
「良い感じ?」
「わたしの屋敷に二人で向かう話をしていたし」
それは僕らも同じじゃないかと思ったけれど口には出さなかった。
「どうだろう。でも性格とかは似てる二人だよね」
分かるといった具合にふんふんと鼻息を荒くして頷いている。
「横に並び立つ姿が自然よね。本来そうあるべき姿だったみたいな」
「ロミジュリ的な?」
「うん? まぁちょっと、いや全然違うけど」
全然違うらしい。
そうなんだ、と返す。
そんな調子で僕らは会話を続けながら屋敷に着いた。
「お久しぶりでございます。アルケム様」
「サラさんこそ、お久しぶりです」
久々にサラさんに出迎えられながら、どこか懐かしい久々のルヴィ邸を歩く。
その後、夜食が出来るのを待つ間、軽く学校の勉強を教わっていると──
「「お邪魔します」」
ジッキーとエーデさんがやってきた。
手には何か袋を持っている。




