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勇者の席は誰の手に〜今はまだ幼き村の少年が無型の剣聖と呼ばれるまでの英雄譚〜  作者: 夏草枯々
第四章 『実技試験 後半戦』

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18/20

18.メープル・ブレイズ

 ぶつかり合う風に握る剣が不安定に揺れている。

 突如、風は向きを変え僕は地面に倒れた。


「君はこの勇者の学校という舞台に相応しくないのに、なぜまだここにいる」


 鋭い剣の先が僕に向けられる。

 青い髪、余裕そうな表情のヴィッグ卿が僕を見下ろす。


「そうだ。僕がこのチームに相応しい新しい生徒を入れてやろう。おい、こいつを叩き出せ」


 待って、と僕は叫んだ。

 遠くなる試験会場を見つめながら手を伸ばす。

 みんなと、まだ……居たいのに。

 面白そうって思えたのに──


 目を開けると自室の天井が見えた。

 暗い部屋の窓からフクロウの鳴き声が聞こえる。

 起き上がると服が背中に張り付いていた。全身に汗をかいている。

 筋肉の張った腕を持ち上げ額を拭う。


「夢か……」


 ゆっくりと息を吐き出す。

 沸々と怒りが湧いてきた。

 奥歯に力を入れる。


「ムカつくー!」


 握った拳をベッドに叩きつけた。


 翌朝、日が昇る前に起きて支度をし学校が開くと同時にある場所へと向かった。


「魔道具保管庫の鍵を開けてください。お願いします!」


 魔道具は朝の短い間と夕方の間、大体図書館が開いてるくらいの時間だけ貸し出しを行っていた。

 全生徒が利用できると入学した頃に説明を受けていたので初めて来てみた。

 警備の人に言われ貸し出し名簿に名前を記入する。


「あー君はダメダメ。使用禁止だから」


 名簿を確認した警備の人にしっしっと手を振られた。


「なっ、なんで」


 一瞬、ヴィッグ卿の差し金かと疑ったが……


「もし魔道具を壊した場合、自己補填になるんだけど君の場合どうするの? 壊したけど払えませんじゃどうしようもないよ」


「……そんな、そこをどうにか」


「うるさい、うるさい。誰が農民のやつなんかに貸したのか後で詰められるのは俺なんだから」


 聞く耳を持ってもらえず、僕は保管庫から追い出された。


「どーしよう」


 顎に手を当て廊下を歩きながら考えた。

 もちろん魔道具は買えるのなら買いたい。

 自分用のなら時間を気にせず練習出来るが、


「すっごい高いんだよな……」


 ルヴィの『蒼き彗星(アズル・コメット)』などはそもそも店に並ぶことがない。何回か実技試験で見た『岩拳の突き上げ(ストーン・アッパー)』ですら村人では一生買えない。


「仕方ない……ルヴィの権威を借りれないか聞いてみるか」


 教室の扉を開く。席に座っているルヴィを見つけた。


「ルヴィ」


 顔を上げたルヴィの顔が少し強ばっていた。


「……なに、かしら」


 僕は先ほど保管庫で起きた事情を説明した。

 ふーん、とルヴィは目を伏せ頷く。


「じゃあ、いきましょうか。あんたに練習してもらわないとわたしも困るもの」


 魔道具保管庫の窓口にルヴィが向かい「彼の貸し出しを許可してほしいのだけど」と僕を指差しながら中の警備員に一言伝えた。


「ええ、もちろん。どうぞ。既に名簿も記入されていますし、どうぞ、ごゆっくり」


 開く扉を眺めながら農民という立場の弱さに呆れた。


「で何にするの?」


 ルヴィに聞かれ、僕は「これ」と木で出来た杖を手に取った。肌触りは滑らかでずっしりと重たい。ここに来る前に既に決めていた魔道具だ。


焼ける秋の木々(メープル・ブレイズ)


 ルヴィは「それは」と杖を見て顔をしかめた。


「わかってる」


 炎を扱う魔道具には明確な弱点と利点が存在していた。

 一応弱点の少ない炎の魔道具はあるが戦闘向きではない。火打ち石に近い汎用品らしい便利な魔道具で、そちらの方は今回使用を見送った。


「魔力充填」


 外に出て僕は杖を握り魔力を流す。

 ゆっくりと結晶に赤い光が灯っていく。

 しばらく握っているとドクンと脈動を開始した。


焼ける秋の木々(メープル・ブレイズ)!」


 杖を前に倒し魔法を放つ。

 燃える炉のような真っ赤な球体が空を飛び、ヘロヘロと近くの地面に落ちて激しく燃える。

 楓の葉を思わせる形の火柱が高く上がった。


「あっつ!?」


 僕は熱波を避けて後ろに飛び退く。


「……炎の魔道具はやめといた方がいいんじゃない?」


 横で見ていたルヴィが腕を組む。

 炎の魔道具の弱点は最初にもらった教科書に載っていた。

 安定性が低く、溜めが長く、魔力の消費が多い。

 それでも……


「うん。でも威力は高いから」


 汎用品の中では一番、破壊力がある。

 これならば一回目に当たった風の盾も炎の余波で倒せる筈だ。

 少なくとも剣のように風に巻き取られて大きな隙を晒すことはない。


「安定性のところは練習してみるつもり。魔道具とちゃんと向き合うから」


 ヴィッグ卿との試合まで後三日。もしそれでもダメなら……


「そう。なら、わたしが魔力操作に関しては教えるわ。どうせ教えてくれそうな教師も居ないんでしょう?」


「ルヴィ!」


「それで、二回目は?」


 うんっと頷いて再び杖を握る。

 今度は炎を落とさないように慎重に魔力を流す。


「あれ……」


 手が震える。

 体が寒い。

 魔力の操作は軍事教練が始まってから何度か練習してだいぶ慣れたはずだったが……


「顔が青いわよ。大丈夫?」


「だっ大丈夫。焼ける秋の木々(メープル・ブレイズ)


 赤い結晶から火の玉が放たれた瞬間、視界がぼやけて僕は膝から崩れ落ちる。

 地面に手をついて倒れることだけは避けた。

 火の玉は落ちる前に空中で消えたらしい。魔力の繋がりが切れたからだと思う。


「にっ二回で……魔力切れって……」


 息を切らしながら冷や汗を垂らし「くっそ」と地面に向けてぼやいた。


「今は休んでなさい」


 近くでルヴィがスカートを折ってしゃがみ髪に触れてくる。少しくすぐったい。


「それで夕方、蒼き彗星(アズル・コメット)を貸してあげる。正しい魔力の操作をそれで覚えなさい。安い汎用品よりはやりやすいと思うわ」


 全然、汎用品も安くはないのだけど。

「ありが……とう」と僕は地面に手を伸ばして潰れたカエルのようなポーズで倒れた。


「一手でも多くの、策を……用意する」


 そして万全の状態でヴィッグ卿に挑む。

 そのためにはなんでもやってみるしかないだろう。


「寝てる場合じゃない……のに、な」


 苦々しく僕は呟いた。

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