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勇者の席は誰の手に〜今はまだ幼き村の少年が無型の剣聖と呼ばれるまでの英雄譚〜  作者: 夏草枯々
第三章 『実技試験 前半戦』

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15/20

15.初動

「「ええ!?」」


「おーす! おはよう! 何してんの?」


 背後からジッキーの声が聞こえてくる。

 騎士団の朝の仕事が終わったらしい。


「僕らのチーム、指名されたらしいよジッキー」


 振り返りながら僕は言う。

 ジッキーは手を上げたまま「ほえ」と目を点にした。


「なんでぇ!?」


「そーそー! なんでうちら?」


 紙を持ったルヴィに視線が集まった。

 神妙な面持ちでルヴィが口を開く。


「そんなの知らないわよ」


「「「ええ!?」」」


 僕らの声が重なる。

 何かもっとルヴィには理由を聞かされているものだと思っていたけど違うのか。


「メンバーも全然知らない生徒ばかりだもの」


 はい、と紙を渡された。

 対戦相手のチームらしいが……リスト上位の生徒は一人。

 でも……


「あっこの子知ってる。東方から来るカーペットを売ってる所の子で、ちょー美人さん!」


「うおっ!? マジか! 上がるなぁ!」


 ガッツポーズをするジッキーの横で僕はルヴィに目配せをした。

 ルヴィが気付いて無言で頷く。


「あいつじゃなかったみたいね」


「そうだね。でもヴィッグ卿と同じクラスだ」


「……そうね」


 ふと僕は夜の間に考えていたことを思い出した。

「あの」とみんなに声をかけて手を上げる。


「一個試験が始まったらやってみたいことがあって」



 試験開始を知らせるラッパの高い音が鳴った。


「頑張ってー!」


「ファイトー!」


 扉が開き僕らは校庭と同じくらい広い試験会場に進む。

 まず目に入るのは扉を開けてすぐ相手の出てくる扉まで続く長いひらけた一本道。

 そしてその横に仕切りのような壁や遮蔽物となる箱、坂道がある横道。試験会場内は主にその二つのエリアに分かれていた。

 僕らは既に周りの観客席から見下ろし確認している。


 ──僕の手札は既に割れてると思った方がいい。


 僕の少ない魔力量では沢山の魔道具は扱えない。

 そもそも、ろくに魔道具の練習もできなかったし持ってきたのは風の加護(ブースト・エア)零によく似た加護(プロテクト・ゼロ)の二つだけ。多分、相手は僕の持ってきた道具の構成を予想しやすいと思う。


 ──だから。


 僕は一人、横道に入って走った。


「農奴なんかに負けんなよー」


 ハハハ、と観客席から笑い声が聞こえてくる。


風の加護(ブースト・エア)零によく似た加護(プロテクト・ゼロ)


 一つずつ魔道具を手で握って起動させていく。

 僕だけ先に当たって相手の情報を落としたい。


 ──見えた。


 中央の道を固まって進む相手チーム、四人。

 走りながら体を前に倒す。剣を抜き放ち腹の辺りに引き寄せて構える。水滴を上下逆さまにしたような盾を持った生徒に狙いをつけた。

 口をキツく閉めたまま素早く斬り込む。


「なっ!?」


 彼の零によく似た加護(プロテクト・ゼロ)が一撃で砕け、キラキラと破片が宙に舞っていた。

 少し仰け反ったまま思わず僕の唇は吊り上がる。

 

「「うおおおお!!!」」


 会場が湧いているのが聞こえた。

 みんなの驚いた顔を見たいけれど、あくまで試験中。相手から目を離さない。


「次」


 相手の彼は両手を広げて後ろに引いた姿勢。目を見開いて剣が構えられていない。

 不意打ちは成功している。まずは僕が一歩先をいったらしい。


 ──小さいのが功を奏したかな。


 僕は体勢を立て直し剣を構え、踏み込む。

 次も僕の剣が先に届くと思うけど……意識を周囲に向ける。


穿つは雨の雫(トレント・アローズ)


 少し離れたところからエーデさんと同じくらいの歳の長髪の女性が杖を構えた。汎用品では無いと思う。

 杖の先が青く光り、宙に浮いた球体の水が形を変えて矢のようになって飛んでくる。

 一つ一つが小さな竜巻のように渦を巻いて尖った先端を向けていた。当たれば死ぬ。虹色の膜一枚に守られている現状に胃が縮む。


 ──大丈夫。


 剣を握る手に力を込め、タイミングを見ながら宙返りで飛び退く。

 飛んできた水は手前に刺さり地面に穴を開けた。

 扇状に穿つは雨の雫(トレント・アローズ)が撒かれて盾を持つ彼と距離が出来る。


「ナイスカバー」


 ふと気付く。

 チームメイトに対し親指を立てる彼の顔に見覚えがあった。


「ヴィッグ卿の横にいた……」


 ──居ました!


 あいつか、と思い出しつつ僕は踏み込み距離を詰め直す。

 彼は片手に盾、もう片方の手に剣。零によく似た加護(プロテクト・ゼロ)の掛け直しはさせない。

 試験用の剣を構えた。斬れはしなくてもまともに当たれば骨は折れるし歯は欠ける。


「一旦補助役は隠れてろ! 様子見だと思う!」


 彼は後ろに向かって叫び、僕の視線を遮るようにして前に出ながら盾を構えた。


「了解!」


 そんな声と共に壁の後ろへ駆けていく姿が見えた。

 盾の周りで風が不安定に揺らぐ。

 あの盾も魔道具らしい。既に脈動を開始させた後だったか。

 剣を縦に振りかざし飛び掛かる。


「はっ!」


 斬りつけようとした剣の向きが盾の前で急に捻れた。


「なっ……!?」


 手をついて着地、地面を蹴って追撃を躱す。風を切る剣の音が背後で聞こえ、鳥肌が立つ。

 零によく似た加護(プロテクト・ゼロ)の距離を上手く把握出来ていないのでかなり大げさに距離をとってしまった。

 視界の端で魔道具が光った。向けられた殺意に怯み、足が止まりそうになる。


 ──考えるな。


 風の加護(ブースト・エア)に集中して横道の方へと高く飛ぶ。もう、みんなと合流しよう。予定通り、情報は得られたはずだから。


「なに!?」


 彼は二撃目を振り抜いたまま僕の方を見上げていた。


「いつ、からだ……」


 みんなの元へと走る僕に向けて彼のそんな呟きが聞こえた。

 まずは良い感じ。一人剣を握りしめて頷く。自然と口元には笑みが浮かんだ。


「おーい! 冷や汗かいてんぞー」


「いや流石に負けるわけないっしょ」


 茶化すような声がして観客席の方を見上げた。

 知らない生徒なので多分彼のクラスメイトか彼の知り合いなのだろう。

 そこ静かに、と先生から観客席へ注意が飛ぶ。やりづらそうだ、と彼らのチームを少し不憫に思った。もちろん手は抜かないけど。


「おつかれー! 陰で見てたぞ、ナイスー!」


 プレートアーマーに身を包んだジッキーがヘルムを腕に抱えたまま手を振っていた。


「ヤバいねアルケムくん。ちょー凄いじゃん。ほんとさっきまでとは別人みたいだったし!」


 ありがとう、と答えながら僕はみんなと合流する。

 エーデさんの言うさっきまでというのは多分試合が始まる前のガチガチに緊張していた時のことだと思う。確かにあの時と比べるとだいぶ落ち着いて試験を進められている。


「あんた本当にこういう時だけは落ち着いているわよね」


 ルヴィは腕を組んだまま言った。


「こういう時?」


「入試の実技試験も」


 そうだっけ、と首を傾げた。

 ただ単純に必死になるとあまり色々と考える余裕がないからかもしれない。


「ていうかマジ驚いたんだけどアルケムくんのあの魔道具っていつから起動させてたの?」


 え、と僕は固まる。

 そういえば彼も同じようなことを言ってたような。


「初めからずっと……ですね」


 ジッキーが「マジかよ!?」と大袈裟に声を上げた。


「あんな戦いしながら(ちから)抜いてたの!?」


「まぁ風吹いてても邪魔ですから」


 力むとすぐに風が暴れ出す。

 なるべく力を入れすぎないようにはしていたけど完全に抜いていたわけじゃない。

 それより、と僕はルヴィの方を見た。


「多分対戦相手の彼はヴィッグ卿の指示で僕らに指名をしてきたんだと思う」


「……じゃあまずは様子見ってところかしら」


 ルヴィが客席の方を見上げる。

 視線の先を追うと客席に僕らを見下ろすヴィッグ卿がいた。椅子の肘掛けに肘をついて足を組み偉そうな感じがやけに堂に入った姿をしている。


「そういうことね」


 ルヴィが鞘から魔剣を抜いて零によく似た加護(プロテクト・ゼロ)を張った。


「じゃあ俺もアルの活躍に負けないよう一発ぶちかましてやりますかね」


 ジッキーがヘルムを被り歩き出す。

 後をついていこうと僕も一歩踏み出した時、ジッキーが不意に立ち止まり振り向いた。


「アル、一気に行くぜ」


 ヘルムの中からくぐもった声がして、隙間から覗かせた目が細く曲がった。

 多分ジッキーは笑ってる。


「うん!」


 腕を大きく振り上げガチャガチャとアーマーを鳴らしながら走るジッキーの背中を僕は追っていく。


「見てろよ! 岩拳の突き上げ(ストーン・アッパー)


 僕の目の前で岩に突き上げられ浮き上がるジッキー。

 彼は宙に浮いたまま空気を掴むように片腕を横に伸ばし握る。


岩拳の横殴り(ストーン・スイング)


 伸ばした片腕がみるみるうちに岩に覆われていく。圧倒的な質量攻撃は村の家くらいなら粉砕しそうな雰囲気がある。

 狙いは、地上で七色の膜に包まれた彼に向かっていた。


風呼びの盾(コールオブウィンド)


 彼の前に構えた盾が風を呼ぶ。巻いた風が地面の土を巻き上げて薄く濁りながら盾の前を回っていく。


 僕はジッキーの振り下ろす拳を見上げながら走り盾を構える彼に近づいた。

 二つの魔道具がぶつかり地面を揺らす。

 跳ねるような足場の中で頭上から岩の砕ける轟音を浴びた。

 小石が七色の膜にぶつかりパラパラと落ちていく。


「絶対……負けるわけにはいかない、から」


 晴れた視界の中で僕は苦しそうな彼の声を聞いた。

 接近する僕に気づいた彼が眉を吊り上げ睨む。歯を食いしばり剣振りの構えに素早く入る彼を見ながら、僕の耳は遠くの観客席から聞こえてくる笑い声を捉えていた。

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