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勇者の席は誰の手に〜今はまだ幼き村の少年が無型の剣聖と呼ばれるまでの英雄譚〜  作者: 夏草枯々
第三章 『実技試験 前半戦』

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13/20

13.役割分担

 チームを組んで外に出た僕らは魔剣を縦に構えたルヴィを見ていた。

 青い光が剣身に灯る。


「夜焦がす、蒼き彗星(アズル・コメット)


 昼下がり、校庭に炎が舞った。

 おおっ、と他のチームからも声が上がる。

 夕暮れに伸びた影のような黒い線が地面に出来ていた。


「さすがルヴィっち!」


 はしゃぐエーデさんの横でジッキーは深く頷いていた。珍しく真面目な表情をしている。


「溜めも少ないし攻撃範囲も長い。攻撃の主力になる一品だな」


「そうね。これを活かす方向でチームの形は決めたいわ」


 僕は首を傾げて手を上げる。

 エーデさんが「はい。アルケムくん」と僕に手を向けた。


「形って何があるんですか?」


 まだ僕は今回使う汎用の魔道具すら決まっていない。


「基本的には前に立つ壁役、攻撃役、補助役が一人ずつ。残りの一人は攻撃役を増やすか補助役を増やすかってところね」


「なるほど……」


 じゃあ今のところルヴィが攻撃役で、それを活かす形にするところの話し合いって感じらしい。


「はい! うち、サポートの方したいです!」


 エーデさんがギュッと目を瞑って手を上げた。


「それで良いんじゃないかしら」


 僕らも頷く。

 後は自由枠か、壁役か。


「壁役って何をするの?」


「名前の通り、味方の前に立って攻撃を引きつける役割ね。エーデは基本的に味方の補助に徹するからわたしのような遠距離まで届く攻撃にやられやすい。それをさせないために敵と味方の間に入ることが求められるわ」


 はい、とジッキーが手を上げた。

 すぐにエーデさんが「はい、ジッキーどうぞ」と手を向ける。


「それだけじゃなく、一番前に立つから後ろの人よりも情報を得やすい。後ろに指示を出す役割も求められるぜ。他にも語り出したら止まらないくらい色々役目があってだな」


「……ジッキーできる?」


 聞いた感じ僕には無理だ。

 戦いながらそんなに色々考えていたら頭から火が出る気がする。


「もちろん。騎士団では勇気と奉仕の精神を求められるからな。必然的に前に出やすい」


「じゃあお願いします」


 僕は頭を下げた。


「他のみんなも俺でいい?」


 ルヴィとエーデさんも頷く。


「あんたは、まぁ……攻撃役でしょうね。補助役二人の場合、攻撃役が前に出ないといけないから、わたしの蒼き彗星(アズル・コメット)と相性が良くないのよ」


「うんっ任せて」


 僕は拳を握った。

 チームでの役割。攻撃役……あれ?


「え? 生徒同士で攻撃するんですか?」


 蒼き彗星(アズル・コメット)を生身の人間に向かって撃ったりしたら……ああ、考えたくもない。


「それは大丈夫」


 後ろからドンと肩を叩かれた。

 振り返ると担任の先生がいた。


「倒された判定を受けた生徒は事前に用意されていた魔道具が発動して守られるようになってる。そのかわり、その試合は離脱することになるけどな」


「はい。ありがとうございます」


 ただ、それだと凄く大味な試合にならないか?

 相手を見つけたらジッキーが前に飛び出して、ルヴィが一気に焼く。終わり。

 僕の出る幕なんて無さそうだけど。


「さーて、じゃあ役割分担も決まったところだし汎用の魔道具を借りに行こうぜー」


 僕らは校内の廊下を進み厳重に管理された魔道具保管庫へと入った。

 保管庫は薄暗い。小窓しか光が無いから仕方ないけど。

 えーと、とジッキーが棚から何かを探している。


「これは持っとけよな、アル」


 金属とガラスで出来たランタンのような小さめの魔道具。


「これって……」


零によく似た加護(プロテクト・ゼロ)。魔力の消費は少なく、かつどんな攻撃でも一度シールドが身代わりとなって防ぐ。魔道具自体の再使用間隔も短い。攻撃を受けやすい俺たちには必須の汎用魔道具だ」


「これが」と僕は息を呑む。

 確か騎士団長の息子、サレッドが使っていた魔道具だ。


「基本的にはみんなこの魔道具を起動し続ける感じだよね?」


「そうだな。エーデ以外」


「ええ?」


「うちはみんなのために魔力を使うから」


 任せて、とエーデさんは親指を立てている。


「最悪わたしが近いから彼女の盾になって倒れるわ。チームの心臓だもの」


 補助役というのはルヴィにそこまで言わせる役割らしい。

 あまり具体的なことが僕には想像できない。


「うちの魔力が無くなったら見捨てられるんだけどね!」


「そうね」


「ルヴィっちはうちの魔力しか興味ないんだね」


 およよよ、と嘘泣きを見せるエーデさん。

 ルヴィは涼しい顔で「当たり前でしょ」とバッサリ切り捨てていた。


「さてと……」


 僕は小さく笑って、一人みんなから離れた。

 魔道具を眺めながら考える。


「攻撃役として役立つ魔道具」


 以前使った風の加護(ブースト・エア)を見つけて手に取った。

 少し分厚く重たい布のマント。肌触りはゴワゴワしている。

 目を閉じると地面に膝をついて吐き気を堪えた実技試験の日を思い出す。

 正直なところあまり使いたいとは思えない。


「でも……時間が」


 他の魔道具を試す時間はあまり残されていない。

 何より……


「剣を信じたい」


 貸し出し用の剣を抜く。

 部屋に置いてある練習用の木剣と重さや長さが完璧に同じ物らしい。

 確かにこんな感じだったかもしれない。


零によく似た加護(プロテクト・ゼロ)


 縦に長い楕円型の空気の膜のようなものにジッキーは包まれていた。うっすらと七色に変わっていく膜は石鹸の泡のように見える。


「よしっ、こい!」


 ジッキーが手を広げる。

 僕は頷き、軽くステップを踏んで息を吐き出す。

 多分、大丈夫だとは思うけど当てないように気をつけつつ、一歩踏み込んで真っ直ぐ剣を振り下ろす。


「おお!」


 剣が膜に当たった瞬間弾かれて少し仰反った。ガラス片のようなものが辺りに広がり消えていく。

 確かにジッキーがシールドと言ったように盾のような役目を果たしているらしい。


「この魔道具が出来て騎士の戦術だった槍での突撃(ランスチャージ)をした側が転けるっていうね」


 ワッハッハッとジッキーは豪快に笑い飛ばした。


「馬に乗ってる騎士側が負けるんだね」


「それ蒼き彗星(アズル・コメット)も防ぐもの」


「……あれ?」


 となると相手を見つけたらジッキーが前に飛び出して、ルヴィが一気に焼くことは零によく似た加護(プロテクト・ゼロ)に防がれて出来ない。

 うーん、と目を閉じて腕を組み唸る。

 でも……じゃあ、どうなるんだ?

 思っていた以上に状況は複雑っぽい。


「先、出てるわね」


「はーい。うちもー」


 はいよ、とジッキーが答えている。

 僕は目を開けてニッと笑う。みんながいる廊下の方は少し眩しく、逆光になっている。


「でも、みんなとなら面白そう」


 ジッキーが「おう!」と言って親指を立てて振り返る。


「うん! 一緒に頑張ろうね!」


 エーデさんが拳を握り締めて笑う。


「……練習するから使う魔道具が決まったら早く出なさい」


 一瞬、ルヴィは立ち止まり先を行く。


「うん!」


 僕は保管庫から飛び出し、みんなの後を追った。

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