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勇者の席は誰の手に〜今はまだ幼き村の少年が無型の剣聖と呼ばれるまでの英雄譚〜  作者: 夏草枯々
第三章 『実技試験 前半戦』

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12/20

12.ティーガーデン

「ティーガーデン?」


 看板に書かれた名前を読み上げる。


「そっ、コーヒーハウスに続く流行の最先端!」


「「へー」」


 ぽかんと店を見上げる僕とジッキー。

 こういう娯楽用の施設に僕は行ったことがない。どこか胸の奥がむず痒く、口の端がちょっと持ち上がりそうになる。憧れはあったものの行く機会が無かった。一人で行くのは気まずいし。


「ささっ行こ行こー!」


 扉を抜けるとまず目についたのは女性の多さだった。

 こんなに性別が偏った施設も珍しい。

 店内は割と混んでいて話し声で満ちているものの酒場のような騒がしい感じはしない。

 自分の場違い感に小さくなる僕の横で「うおっ、たっか!?」とジッキーが大きな声を出した。

 壁にあった値段表を見たらしい。


「大丈夫、大丈夫。ここはうちが持つからさーみんなは気にせず楽しんでね」


「あざっす! 姉貴!」


 勢いよく頭を下げたジッキーに「ちょーし良いんだから」とエーデさんは苦笑いで言う。


「ありがとうございます」


「全然ー、気にしないで良いからねー」


 ヒラヒラと手を振ってエーデさんは受付に向かう。

 その後ろを僕らはついていった。


「四人分でお願いします」


「あちらのお客様の会計はすでに済んでおりますので……」


 従業員の方の視線の先、一歩後ろに引いたところにいたルヴィに視線が集まった。


「そういうことだからわたしは大丈夫よ。ありがとね」


「はいはいー、じゃあ三人分でお願いします」


 エーデさんが支払いを済ませると僕らは席に案内される。

 芝生の庭にある並木の道を進んでいく。途中、お茶の甘く香ばしい匂いが鼻先をよぎった。

 色鮮やかな花々や流れる水を見ていると村にいた頃を少し思い出して僕は目を逸らす。

 庭のあちこちに屋根付きのボックス席があって、そこで皆それぞれが話を楽しんでいる様子が見えた。


「あら、シュレッジ士官学校の生徒さん?」


 席へ向かう道中に上品なドレス姿の二人組の女性が僕らに話しかけていた。

 僕らは頷いて返事をする。


「じゃあ未来の勇者様たちね。凄いわぁ」


「お国のため、大変だと思うけど頑張ってねぇ」


 お礼を言ってから僕らは席に着く。

 この制服を着てから街を行く人の視線が少し変わったのを感じる。


「やっぱり、この制服はすげぇな」


「ねっ、うちら横切ってただけなのに学校の名前まで出てくるって相当だよ」


「それだけ期待されてるってことでしょ」


 みんな当たり前のように期待を背負いながら過ごしている。

 着せられているように感じている僕とはやっぱり根本から違うらしい。


「ん?」


 横から袖を引っ張られる。

 ルヴィがこちらに顔を寄せて……


「なに? 体調悪いの?」


 と耳元で囁いた。

 僕は小さく首を横に振る。


「色々、緊張しちゃって」


 ぎこちなく笑う僕にルヴィは「ああ、そうだったわね」と頷いた。


「はいはい! 俺も実は緊張してます!」


「はい! うちもー!」


 勢いよく手を上げる二人を見て、つい笑ってしまう。


「……失礼いたします」


 やって来た店員さんの口の端が少し上がっていた。


 僕らのテーブルへやってきたのはお茶とビスケットだった。


「ほかにも色々と食べられるらしいよー」


 ほらっとエーデさんが壁に書かれたメニュー表を指す。

 おー、と僕は壁を見上げた。


「この後、動くことになるでしょうしわたしは軽いものにするわ」


「うわっ、そうだった」


 この後、と考える。

 昼休みの次の授業は──


「軍事教練か」


 言葉の並びだけ見るとかなり物々しい。

 ただ軍事に関して素人は僕以外にもいるだろうし、そこら辺の調整はどうするのだろうか。


「多分、月末のクラス対抗戦に向けての練習だろうなー」


「もうチーム戦、始める感じかなぁ?」


「だったら組んでる俺らの勝ちっしょ!」


 手と拳を合わせるジッキー。


「有利なことに変わりはないと思うけど油断はできないわね」


「そーそー、うちなんて剣振ったことないし」


「ええ?」


 声に出ているジッキー。僕も思わずエーデさんの方を見た。

 あはーとエーデさんは眩しいくらいの笑顔を見せる。


「いやっほんと、ほんと。実技試験、魔道具にお祈り全力って感じだったし」


 なるほど、そういう勝ち方もあるのか。

 確かによくよく考えてみれば剣を持たずとも試験を突破した人だっていたしエーデさんのような人もいるか。


「そういえば魔道具って変わらず持ち込みも使えるのかな?」


「まぁ使えるでしょうね。校内への持ち込みは許可されているわけだし」


 そうですよね。

 相変わらず不公平な……


「てことは僕らがもしヴィッグ卿と当たったら王の名を冠する役者(アン・ロル・ロイヤル)が出てくるってことかぁ」


 僕はため息をつく。

 首を傾げるジッキーとエーデさん。

 どうやら入学式前の騒動は知らないらしい。


「あいつね、まぁもし当たったら……そうね、コロ」


 ルヴィは言いかけた何かをお茶と共に流し込んだ。


 それからティーガーデンで軽食とおしゃべりを楽しんだ僕らは学校へと戻った。

 初めての軍事教練の授業が始まる。


「月末の試験は一週間かけて各チーム二回、行われる。一人一人チームへの貢献度や試合通しての活躍を成績に反映させるから個人技とチームへの貢献の両方を考えながら動くこと」


 室内に集められた僕らは「えーあとは……」と手元の資料をみながら担任の先生が前で話すのを聞いた。


「二周目は相手チームへの指名も出来るから一回きりの戦術ではなく、ちゃんとチームワークを育てて挑まれた場合対抗できるようにすること。もちろんこちらから得意な戦術を押し付けることも一つの戦術としてまた評価対象になる」


 じゃあ、と顔を上げて手を叩いた。


「一旦、仮組みでもいいからチームを作ってみること。分かったか」


 はい、と皆返事をしてザワザワと動き出す。

 まずはすぐに友達同士で固まる人が大半で、そこから溢れた人や逆に人数が足りないチームができた。

 僕はルヴィの元へと向かう。ジッキーとエーデさんも同じようにルヴィの元へと歩いてくる。


 ──先にチーム組めてて良かった。


 僕は夜会のことを思い出し心の底から思った。


「よっしゃあ、やるぞー!」


 ジッキーの声に僕らは「「おー!!」」と合わせて声を上げた。

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