11.チームメイト
「二年後の選択科目で後悔しないよう今からよく考えて行動するように」
午前の授業終わり、黒板に書いた文字を消しながら担任が言う。
──兵科か錬金術の専門分野、もっと幅広く勉強をする総合学科。そして……
「特に二年後、エリートコースを目指す者は今から成績を積み重ねていかないと後々焦っても取り返しがつかないなんて事態になりかねないからなー」
成績上位者、三十名のみが入れるエリートコース。
二年後は選択した科目ごとにみんな分かれていく。
僕は、と考えていると授業が終わっていた。帰宅する者や食堂へ向かう者たちがゾロゾロと教室から出て行く。
「ルヴィ」
席に残ったまま教本を片付けていたルヴィに話しかけた。
考えていたエリートコースの話を振ってみる。
「当たり前でしょう? そのために来てるんだから」
当たり前……か。
ルヴィらしい答えに、そっかと頷く。
そういえば初めて出会った時も「あんたも勇者を目指してるの?」とか言ってたな。
「なに? あんたは違うの?」
僕を見るルヴィの目がいつもより鋭いように見えた。
いやっ、と言葉を濁し視線を逸らす。
シュレッジ王立士官学校の頂点。剣と魔道具を極めた者たちの呼び名、勇者。
それがエリートコースの卒業生たちらしい。想像すら出来ないような遠い話に思えた。
「……で、でもさ。怖くない? エリートコースっていろんな噂があるよね?」
「そうね。実際前回エリートコースのまま卒業した生徒は十名。その生徒の殆どが既に歴史に名を残すような偉業を成し遂げている」
その代わり、とルヴィは続ける。
「残りの二十名は途中でエリートコースから変えたり、退学したり、死亡事故も起きてるのも事実よ」
「だよね」
僕も耳にしたエリートコースの噂。
英雄が死に絶えた今、次世代の英雄を作る場所としてエリートコースではより激しい選抜が行われる、らしい。
「だから、目指さないの?」
僕は目を伏せ首を横に小さく振った。
「……正直なところ分からないんだ。目指す理由が」
勇者も英雄も僕には遠い存在で目指すようなものじゃない。
教会にあった本の主役じゃない僕は羽があるからといって太陽を目指したりはしないだろう。
「じゃあ、どうしてこの学校に来たのよ」
「ルヴィに魔道具を見せてもらってワクワクしたから、入りたいって思った」
「あっそ」
ルヴィは興味なさそうに言って席から立ち上がり先を進む。
「いつか見つかったら良いわね。ワクワクする理由が」
僕は「うん!」と答えルヴィを追いかけて走る。
「まぁ、今は分からなくてもあいつじゃないけど、後悔しないように成績は良くしておかないと」
「あいつ?」
「前で喋ってる」
「ああ」
担任のことらしい。
あいつ呼びって、と苦笑いをする。
ルヴィにしてみればここの教師も全員平民なのだろう。さすが貴族。
「だから今度のチーム対抗戦。一緒に勝つわよ」
ルヴィが僕を指差して言った。
「え?」
「やっほー、昨日ぶりーって当たり前か。おんなじチームだし」
食堂で僕らに向けてエーデさんが手を振っていた。
「エーデさんは、しっ知ってたんですか」
「え? 伝えてなかったの?」
「邪魔が入って言い忘れてたみたい」
そう言ってルヴィが席に着く。
ああー、とエーデさんはぎこちない笑みを浮かべていた。
「そうそう。あと一人も決まったよーさっき誘ったら後で行くって言ってた」
そう、と答え頷くルヴィ。
「じゃあメンバー全員決まったんですね」
あと一人誰だろ、と僕は首を傾げた。
話したことがある人なら良いけど。
不意に後ろから「おーす!」と聞いたことのある声が食堂に響いた。
「お待たせぇい!」
「ジッキー!」
振り返るとこちらに手を上げニッと笑ったジッキーがいた。
僕も手を上げる。
「よっ!」
「ちょうど良いっしょー前衛が担当できて、かつアルケムくんと知り合い。ね?」
「そうね」とルヴィはジッキーを見て頷いた。
僕とジッキーが話しているところを見ていたらしい。
「よろしくルヴィ嬢。俺の名前はジキルド・シルロード。ジッキーって呼ばれてる。呼びやすいように呼んでくれ」
「……よろしくジッ、ジッキー?」
若干引き気味に手を差し出す。
ジッキーは「ああ!」と笑って手を握った。
「ねっ、せっかくチーム四人揃ったし時間もあるしここじゃなくて王都でお昼ご飯にしない? うち、みんなで行きたいお店見つけててさー」
「おっ、さんせー!」
ルヴィの方を見る。
遠くを見るように目を細めて二人を見ていた。
「二人はー?」
「行くわ」
「うん。行くよ」
僕らは立ち上がって食堂を出た。
昼休みは二時間。食堂はあるけど家に帰れる人は皆帰るのが一般的らしい。
家にご飯無いし普段は食堂になると思うと今日みんなと一緒に外で食べられるのは良い思い出になりそうだ。
「ジッキーって年いくつだっけ? 最年長組?」
ジッキーとエーデさんが話しながら少し前を歩いている。
「いや、その一個下っすね」
「じゃあうちがこのチームで最年長ー? えージッキー、一歳老けてよ」
「ああゴホゴホ、一歳と言わずめっちゃ老けてしまったわぁ」
しわがれ声で腰を曲げて咳き込むジッキー。
それを手を叩いて大笑いするエーデさん。
「楽しそうねー」
二人を隣のルヴィは冷ややかな目で見つめていた。
「ルヴィは楽しくない?」
「さあね。でも、少なくともああいう風に面白く答えられる自信は無いわ」
「僕も無い。だからジッキーは凄いよ」
丸めた背中をエーデさんに叩かれジッキーはつんのめった。
僕は笑う。
「あんたも……」
「今、俺が凄いって言った?」
ジッキーが振り返って言った。
突然のことで僕らは固まる。
「言うわけないでしょー、そっちは二人で話してたんだから突然絡みにいくなっての」
「ええー?」
「言ったわよ」
「「ええ!?」」
声をハモらせる二人に仲良いなと僕は笑う。
ルヴィは「こっちがね」と僕の方を見た。
「ええー? アルが? えへへへへ」
気の抜けた笑い方をしながら頭の後ろをさすっている。
「あはっ、照れんなよキショー」
「ひどくない!?」
辛辣なエーデさんにジッキーが突っ込みを入れた。
フッとルヴィが鼻で笑う。
「まぁ、つまらないチームよりかは良いわよね」
そんな呟きが聞こえた。
「じゃーん! ここです」
エーデさんが走って行って大きな建物の前で手を広げた。
劇場とも違う、知らない建物だった。




