第三話:四角い光
目が覚めた。
まだ薄暗い部屋の中、四角い光。
紡の携帯の画面が、光っている。
昨日は、体調が悪かった。
だから気の迷いを起こした。
紡は、寝ている。
手から落ちたそれを、電源を切ろうと手を伸ばす。
何気なく見えた画面に、「柊」という字。
手が、止まる。
『柊さんの手の熱さに気づいて。
熱を測ったら37.7℃。 なのに大丈夫ですって言うから。
柊さんの真似をして、「命令です、休みなさい」と言った。
驚いたあと、くしゃってなった柊さんが、好きだなって思った。』
震える指を、握りしめた。
紡の寝息だけが響いているはずの部屋の中、心臓の音が大きく鳴っている。
『忘れても、物語に入っていれば、残りますから』
「…聞きたい」
零れた言葉は、暗闇に静かに溶けた。
紡がもぞ、と動いた。
4:45。
朝が、来る。
目を閉じたまま探している手に、携帯を渡した。
紡が、ゆっくりと目を開く。
スマホを見て、視線は壮一郎へ。
「おはようございます、紡さん」
「…おはようございます、」
ノートを取ろうと、目線を外した時。
袖が引っ張られた。
紡を振り返る。
「…紡さん?」
困ったような表情で、しかし袖は掴んだまま。
紡の手の上に、手を重ねた。
「柊壮一郎。あなたの、…恋人の、つもりです」
紡の手から力が抜けた。
「おはようございます、紡さん」
「おはようございます、柊さん!」
ノートがなくても、繋がる。
離れた手を、見下ろした。
視線を感じて、目線を少し上げた。
紡が壮一郎を見上げている。
「体調はどうですか?」
「おかげさまで大丈夫です」
「よかった」
紡がとろりと笑った。
ゆっくり起き上がろうとする紡の背を支える。
紡が「そういえば」と切り出した。
「黒い、くまみたいなのが、いました」
「…夢ですか?」
「うん。いつの間にか、となりにいて。ただ、そばにいました」
記録ノートを手に取り、記入する。
『4:45 起床。黒い「くまみたいなの」がいる夢を見たとのこと。いつのまにかいて、ただそばにいた、と。』
紡を見ると、にこにこしている。
「…どうしました」
「へへ…。柊さんと、一緒にいるなって」
「そう、ですね…?」
ノートを閉じたところで、手を差し出され。
手渡したノートを、紡はリズミカルにめくった。




