表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/38

第二話:37.7℃

「帰りました」

「おかえりなさい?」


いつも通りにリビングから紡が顔を覗かせた。

近づいてきた紡の顔の近くへ手を伸ばしたところで、止まった。

この手を、どうするべきか。


紡が手を見て、笑った。

そして――


手に、やわらかな感触。紡の頬が、手のひらに。


「……なぜ、くっつきました?」

「え、…あれ? そこに、手があったから…?」


へら、と笑った紡は、手の甲に彼女の手を重ねた。


「というか、手。あつくないですか?」

「…大丈夫です」


紡が不満そうな顔になった。


「むー…。よし、測りましょう!」


返事をする前に、パタパタと駆けていく。

柊は宙に浮いた手を、ゆっくりと下ろした。



洗った手を拭いたところに体温計が差し出される。


受け取って、脇に挟むこと数十秒。

ピピ、と鳴った体温計を、無言で見下ろす。

37.7℃。


「ほら、あります」

「喉の痛みなどもありませんし、…ちょっとした疲れです」

「疲れてるなら、休みましょ?」

「大丈夫ですよ」


色々あったせいだろう。

心配は不要だと、笑いかける。


紡が、袖に手を伸ばしてきた。


「めいれい、です。休みなさい」


袖を、掴まれて。

見上げてくる目は、真剣で。

自分がいつも、使っている言葉で。


「…はい、と言うしかないじゃないですか……」

「お利口さんですね、柊さん!」


柊は寝室のベッドへと、放り込まれた。



食欲を聞かれ、普通だと答えた。

紡のいない部屋で、目を閉じる。


その場で感情が発生しているとして。

毎日、同じ感情だとしたら。

あの不意打ちのキス、以外の時も。

いま、この瞬間も、もしかしたら。


小さくノックの音がして、扉が開く。


「夕食、できました。食べれますか?」

「ありがとうございます。行きます」


食卓には、食器が並んでいた。

おにぎりと梅干し、卵焼き、きゅうり、味噌汁。


「いただきます」


二人で食卓を囲み、しばらくした時。

はっ、と紡が顔を上げた。


「ちくわ、出すの忘れてる!」


斜めに切られた竹輪が、きゅうりの隣に追加された。



夕食後、再びベッドに戻された柊は天井を見上げる。

暗い部屋の中、キッチンの音が微かに聞こえる。


非常にシンプルな夕食だった。


切ってマヨネーズを乗せたきゅうり。

斜めに切った竹輪は、遅れて出て来た。


味噌汁と卵焼きは、今日も計量したんだろう。

塩加減が分からないからと、紡は計量を欠かさない。


シンプルで、紡そのものだ。


小さなノックがして、扉が細く開いた。

覗いた紡と目が合う。


「あ、起きてる。眠れませんか?」

「…まだ20時ですから」

「んー…。トントンしましょうか?」

「…大丈夫です、そのうち寝ます」


部屋に入ってきた紡は、壮一郎の隣に横になる。


「柊さんが寝るまで、ここにいます!」


元気よく、そう言ったのに。

15分も経たずに寝落ちした紡を見る。


行動に意味があるのか、ないのか。

分からないことが、増えていく。


規則正しい寝息を聞きながら、壮一郎は目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ