第二話:スタンプ
水曜日。
壮一郎は紡を助手席に乗せ、車を発進した。
「楽しみです、水族館!」
パンフレットを握る紡の声は、弾んでいる。
「気になる展示がありますか?」
「全部、気になってて。回りきれるかなぁ?」
「大丈夫だと思いますよ」
信号で止まり、壮一郎はちらりと隣を見た。
紡は外を見ている。
信号が青に変わり、アクセルを踏む。
話をしながら、しばらく車を走らせていると。
「あ、海です!」
紡側の道沿いに、海。
「砂浜もあります!」
「…寄りますか?」
「んー、今日は水族館なので、大丈夫です!」
白雨は、海を見ている。
「紡さんは、海遊びといえば?」
「ええと、砂の上を歩いて、きれいな貝殻ひろったり、カニを追いかけたり?」
「…カニ。…捕まえるんですか?」
「はい! そのほうが、よく見えます!」
「…なるほど」
遠くに、水族館が見え始めた。
「また、海に来ましょう」
壮一郎の言葉に、「はい!」と元気な返事が返った。
水族館の受付で、壮一郎は招待券を提示した。
「ご招待券ですね、ありがとうございます」
受付の女性が、券を受け取った。
「再入場はご利用されますか?」
「お願いします」
即答した壮一郎を、紡が不思議そうに見る。
「では、再入場スタンプを押しますね」
壮一郎が左手を差し出すと、手の甲に小さなスタンプが押された。
紡は目を輝かせ、自身の左手を差し出す。
「かわいい!」
青いペンギンのシルエット。
にこにこと手の甲を見つめる紡に、壮一郎は声をかけた。
「では、行きましょうか」
壮一郎の隣に、紡が並ぶ。
壮一郎は屋外展示へと足を向けた。
「あ、アシカです!」
少し早くなった紡に、壮一郎は合わせた。
岩の上。
横たわり目を閉じているアシカを、紡はじっと見る。
「乾いています…」
「濡れている時とは、印象が変わりますね」
「触るとどんな質感でしょうか…」
「…何でも触ろうとするんですね?」
「だって、極上の手触りかもしれませんし」
壮一郎も、乾いたアシカを見つめた。
順路に沿って歩き、ペンギンの展示へと移動する。
柵の前でしゃがんだ壮一郎に、紡は首を傾げた。
「柊さん?」
「…本当に来ましたね」
紡が壮一郎の視線をなぞる。
群れから離れ、走ってくるペンギンが一匹。
「わ、こっちに来る!」
紡も壮一郎の隣にしゃがんだ。
柵越しに、ペンギンと見つめ合う。
首を傾げたペンギンに、紡がへらりと笑った。
「かわいい」
壮一郎は紡を見て、小さく息を漏らした。




