第四.五話:3ヶ月
柊さんから変わるの、ちょっと寂しくて、不安だった。
村瀬さんとの顔合わせでは、「広く届けたい」っていう言葉、嬉しいと思った。
いい人そうだな、何とかなるかなって。
二ヶ月が、過ぎるころ。
テーマを決めて、文章を書き始めて。
「ここは少し、伝わりにくいかもしれません」
村瀬さんに言われるたび、言葉を足す。
少しずつ、足して。
なんとなく、変な感じ。
でも、「読みやすくなりましたね」って言われるから。
そうなのかな、って思った。
できた原稿を、読んでみる。
「読みやすい」かなって、考える。
自分では大丈夫だと思って、提出する。
やっぱり「足すところ」が返ってきて。
言葉を、足す。
そういえば。
『柊さんの時は、足さなかった』。
『説明しすぎです、と言われて、削った』。
「たくさんの人に届くように」。
必要なことなんだろう。
だからきっと。
言葉を足すのは、間違っていない。
メッセージを、開いた。
お昼間は、来ないから。
前のメッセージを、読み返す。
『お昼は、きちんとご飯を食べて、休憩しなさい。いいですね?』
時計を見た。
13時10分。
カフェを出て、公園へ向かう。
木陰のベンチ、お昼の定位置。
鞄から、お弁当を取り出した。
また、1か月くらい過ぎた。
書くことが、あんまり楽しくない、ような。
編集部に、打合せに行く。
細かいところを、対面ですり合わせる。
「最後は、どのような結末を考えていますか?」
「…まだ、ぼんやりしていて。希望がある感じには、したいんですけど」
村瀬さんが、笑顔になった。
「いいですね。分かりやすい希望がある結末の方が、読者に受け入れられやすいと思います」
「わかりやすい、きぼう」
ちょっと、自信がない。
分かりやすい希望って、どういうものだろう。
「…やってみます」
そう、答えたけれど。
できた物語に、ため息をついた。
「…たぶん、こうじゃない」
保存せずに、消した。
同調、してみようか。
気持ちの変わるきっかけが、見えるかもしれない。
けど。
柊さんに事前連絡は、必要ない。
なんだか、落ち着かない。
ノートパソコンを閉じて、鞄に入れた。
いつもは、夕方までカフェで書く。
でも、今日はもう、書きたくない。
家に、帰る。
まだ明るい時間。
高く青い空。
すれ違う人々。
なんだか眩しくて、目を逸らす。
家について、ほっとした。
まだ、お昼だから、柊さんはいない。
いつものソファに、横になった。
冷たい。
担当が変わって、書けないなんて。
柊さんの迷惑に、なるかもしれない。
「少し休んだら、書かなくちゃ」
目を、閉じた。




