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「魔法を扱える上級者は、魔力を纏いながら魔法陣をどこか一点に集中して思い描く事で魔法を発動することが出来る。だがそれは初心者にはかなり難しい。思い描く魔法陣が完璧でないとならないし、そもそも魔力を纏うという感覚がなかなか掴めない。
一般的な方法として、初心者はまず、使いたい魔法の魔法陣を紙に書いて覚えることから始める。魔力が込められた魔法陣じゃないと魔力に呼応しないから、紙に描かれた魔法陣は使えない。だから完璧に覚えるしかない。
そこをクリア出来たら次は、手の平や手の甲などの描きやすい場所に、魔力を込めた指で魔法陣を描く。そして、その魔法陣に魔力を注いで魔力同士を呼応させる練習を行なう。上手く呼応すれば魔法が生まれる。だが、その方法では魔法発動までに時間を要すから、緊急時にすぐ使うためには先程言ったように魔力を纏って思い描く他ない。魔力を纏って思い描く事で魔法陣が魔力に呼応した状態を瞬時に作り出せるんだ。その域に達するには修練も必要だが、感覚を掴めるセンスがあるかないかも重要となってくる。
アイリーンはメランが側にいるくらいだから、きっとセンスはあるように思う。習得までにそう時間はかからないと思うよ。防御魔法の魔法陣は、もう覚えたかい?」
「はい!覚えました!本を読んで、昨日までに基本の流れは一通り行ってみました。魔力を込めた指で魔法陣を描くことまでは恐らく出来ていると思います。
ですが、その後の魔力を注ぐというところが上手く出来ていないのか、何度行ってみても魔法は発動しませんでした。
とりあえず、そこまで行ってみますね」
庭が広く切り拓かれ、地面が均された場所に二人は立っている。公爵家のメイド達は離れた場所で待機していた。
防御魔法の魔法陣を魔力を込めた指で手の甲に描き、魔力を注いでみた。やはり、何の反応もみられなかった。
「なるほど。想像以上だったな……
魔法陣はちゃんと魔力が込められているよ。だが、注ぐ魔力が大きすぎるんだ。魔法陣の周囲にも魔力が溢れてしまっている事で魔法陣が上手く作動していない。通常は魔法陣のみに魔力が注がれるから、魔力同士が呼応する事で発動するんだが、アイリーンの場合は、注がれる魔力の量が多すぎて上手く呼応出来ていないんだ。
魔力量を考えると、魔力を纏う練習をした方がよさそうだ。感覚を掴めれば、すぐに魔法を発動させる事が出来るかもしれない。
……ほんとに、アイリーンには何度も驚かされるな。魔術師を目指していたら、すぐにでも上級魔術師になれるのではないかな。騎士団からの特命があるから、今さらその道へは進めないけど……
数多の魔法陣さえ覚えれば、騎士団の中においても上位の魔法の使い手になるかもしれない」
「そ、それは、評価しすぎではないですか?
魔法を上手く使えるようになるには、魔力制御も大変重要だと聞きました。たとえ魔法を生み出す事が出来ても、魔力を制御出来なければすぐに消えてしまうんですよね?」
「まあ、そうだな。魔法を維持するためには、魔法陣が消えないように常に魔力を注ぎ続けている状態にしなければならない。魔力を発動した状態のまま一定に保っていなければならないんだ。纏う魔力も同じで、増えたり減ったりしてはならないから、確かにそれが一番難しいかもしれない。だが、それもセンスがあると早目にクリアできる。アイリーンにはセンスがありそうだから、何度か練習すればクリア出来ると思うんだが……
ひとまず、魔力を纏う感覚を覚えよう。
吸った息を深く吐きながら魔力を全身から出すイメージを持つ。そしてその魔力で自分自身を覆う感覚だ。その感覚を維持したまま魔法陣を思い描くと、魔法がうまれる。
ゆっくりでいい。やってみてくれ」
頷き、軽く息を吐いてから、セドリック様に言われた通りの事を集中して行った。
……結果として、魔力を纏う事は練習1回目で出来てしまった。だが、その後は魔法陣を思い描くと、纏った魔力が霧散してしまう事が続く。5回目にはそれもクリア出来たが、集中しないと纏った魔力が変動していまい、防御魔法を維持できたのは、たった1分が限界だった。
「やっぱり、魔力を一定に保つ事は難しいです。練習で維持出来るようになるでしょうか?」
「いや、凄いことだよ。魔法を習って初日でここまで出来るなんて。
センスがあるというのも烏滸がましいくらいだ。一種の才能とも言えるんじゃないか?
感覚を掴めれば、すぐにいろいろな魔法を扱えるようになると思う。もしかしたら、騎士団で随一の魔法使いになるかもしれない。そうなれば、護衛騎士がいなくても危険なくワイバーンを育てられる、と上層部に評価されるかもしれないな」
「えっ?! そ、それは買い被り過ぎですわっ!
魔法を使えるようになるのは嬉しいですが、魔法使いになろうとは思いませんし、出来れば護衛騎士の方!出来ればセドリック様!と一緒にワイバーンを飼育したいです!!」
「え? そ、そうか…… あ、ありがとう…… 俺も、アイリーンの護衛騎士に選ばれたいと思ってるよ……
魔法の腕を磨いて、精鋭と言われる騎士になって、ワイバーンを最強の騎士団の一員となるよう飼育したい。アイリーンとともに」
私の、内心がダダ漏れしてしまった言葉に対し、優しく微笑んで答えてくれる。
対峙していても、心の声が聞こえない事から、本心で言ってくれている事がわかる。
優しい言動に、つい恋の進展を期待してしまう。
甘い雰囲気が漂っているのを感じたが、セドリック様は顔を赤らめながら横を向き、軽く咳払いをした。
「アイリーンは、魔力も多いようだし、センスも抜群だ。今まで、魔術師になろうと思った事はないのか?」
「はい。人と関わるのが苦手で、部屋に引きこもっていましたので。魔法を使う場面を想像した事がありませんでした。
本ばかり読んでおりましたので、将来は平民となって出版社で翻訳のお仕事でもしようかな、と考えておりました。
メランと出会った事で未来が一変してしまいました。全く想像していなかった未来図と、自分の変化に私自身も驚いています。
ですが、今後の生活がとても楽しみなんです!こうして、セドリック様のお側にいられている事も夢のようですが、とっても嬉しくて楽しいですっ!」
「…… 確かに一年生の時のアイリーンとは、別人のように快活にはなっているな……と思う。
だが、以前にも言ったが、一年生の時のグループセッション時に、気分が悪くなった俺に気付いてさりげなく助けてくれただろう?遅くなったが、あの時は助かったよ。ありがとう……
あの当時から、優しくて機転がきき、勇気のある行動をすぐとれる勇敢なところは何も変わっていない。アイリーンは、本質が素敵なんだ……だから、メランもアイリーンには心を開いたんだろう。
俺もこうして仲良くなれて嬉しい。出来ればこれからも、アイリーンの近くで公私共に支えていきたい。護衛騎士となれたら…… 改めて、アイリーンに伝えたい事がある。
護衛騎士に選ばれるよう卒業まで研鑽するから。
それまで…… 待っていて欲しい」
「っ! ……は、はい。お待ちしております……」
セドリック様がその時に何を言ってくださるのかを想像して、更に顔が赤くなる。気まずくて、視線をやや下にずらした。が……
(ちょっと…… いや、かなり卑怯な発言だったかな……いや、だが、待ってくれると言ってくれたし……
婚約者になって欲しいという言葉は、護衛騎士になった暁には必ず言うから。だから、待っててくれ。アイリーン)
心の声が聞こえなくても十分に意図は伝わっていたが、心の声が聞こえて確信でき、顔が更に赤くなるのを感じながら、満面の笑顔でセドリック様を見つめた。
セドリック様は穏やかに微笑みながら、ポケットからハンカチを出して、魔法を維持するために浮かんでいた私の額の汗を優しく拭いて下さったのだった。
――――――
「とても初々しくて、とてもお似合いなお二人だけれど……」
「そうね。お二方ともとても可愛らしいわね……」
「ほんとに…… だけれど、そろそろお茶の用意をしてもいいかしらね?」
「そうね。休憩する頃合いよね…… 誰か、お声かけしてきてくれない?」
「え? いや、あの雰囲気を壊す勇気はないわよ」
「そうよねぇ… まあ、でも近づいたら気づいてくださるでしょうし。ここは、勇気を持ってみんなで足を踏み出しましょう」
壁側に控えていた3人のメイドは、足並みを揃えて、お茶休憩を促すべく二人の元へ向かったのだった。




