14
卒業生の進路は、卒業式典のおおよそ1ヶ月前に決まる。
王宮勤めを希望する場合、式典の2ヶ月前に行われる試験を受け、部署によるが当日か翌日には合否判定が出る。不合格となった者は、そこから違う道を選ばなければならない。無事試験に合格した者は、準貴族としての爵位の授与証と最終的な配属先の通達が、式典1ヶ月前に自宅に届くことになっている。
セドリック様に魔法を教えていただいた日の数日後には、防御魔法を10分保てるようになり、火や水を使った攻撃魔法も、一瞬なら発生させる事が出来るようになっていた。
定期的に行っていた騎士団員とのやり取りの中でその事を伝えたところ、護衛騎士は一人で十分であると判断されたらしく、ワイバーンの飼育員として騎士団に配属する私の護衛騎士は、セドリック様ただお一人となる事をあらかじめ伝えられていた。
私以外の方々の、王宮での配属先が発表されたその日の午後、セドリック様より翌日我が家に訪問したい旨の報せがきた。
……もしかしたら、婚約の申し込みかもしれない、とあの日の約束を思い出して、報せが届いてから夜寝るまで、ずっと落ち着かずソワソワウロウロして過ごした。
(あきらかに、そうだろ)
と、寝る前にメランに呆れられながら言われ、余計に緊張して殆ど眠れなかった。
翌日、応接間で対面したセドリック様は、緊張した面持ちのまま、まっすぐ私の目を見て話し出した。
「昨日正式に、君の護衛騎士となり、君とともに任務に遂行するようにとの報せが届いた。
以前にも伝えたが、改めて言わせてもらう。
今後の人生において、君に危険が及ばないよう、常に全力で君を守る事を誓う。
そして…… それは任務中に限られた事ではない。君と共有する全ての時間においてそうする。
アイリーン、私の婚約者になって欲しい。
君が好きだ。
君を公私ともに守り、支えていきたい。
私の妻になって欲しい」
「は、はいっ。謹んでお受けいたしますっ。
私は、セドリック様をずっとお慕いしておりました。ずっとずっと一緒に、今後の人生を歩んで行きたいです。
私を選んでくださってありがとうございます!
とても嬉しいですっ!」
「良かった…… ありがとう。
公私共に、最高のパートナーとなるよう努力するよ。よろしく頼む」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたしますっ」
二人で微笑み合った。
お互い準貴族となるため、家の承諾は必要ない。
セドリック様が持参した婚姻書に、その場ですぐに記載した。帰り道の途中で、セドリック様が教会に提出して下さるとのことだった。
婚姻書の記載を済ませて、お母様とお姉様を呼んでもらう。人払いをして、家族とセドリック様のみとなる。メランが髪から飛び出して、ぴょんぴょん跳ねながら窓際に行き日光浴し出す。メランの存在に慣れた3人なので、そちらは気にせず、話し合いを開始する。
「ロックウェル伯爵、先程アイリーンに婚約の申し込みをし、受けていただきました。
必ず幸せにします。
何卒、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ。
アイリーンはずっと、セドリック様の事を好きでしたのよ。想いが叶って安心しました。
アイリーンと幸せになってくださいませ。
結婚についてはいつ頃をお考えですの?」
「はい。婚姻後に二人で住む家については、公爵家の別邸の一つが私の名義ですので、問題はありません。
すぐにでも共に暮らす事は可能なのですが、お互いまだ騎士団員としての地位が確立していません。ワイパーンが騎士団の一員となるか、そうならないか、アイリーンとともに飼育にあたり、ワイパーンの行く先が決まった頃、おそらく2、3年後かと……
私としては、そのあたりで結婚式をあげたいと思っています」
「承知しましたわ。私もその流れでいいと思います。
アイリーンには、仕事が辛かったらいつでもこの屋敷に戻ってきなさい、と言ってあります。
でも、きっと、アイリーンは極限まで頑張ろうとするわ。
セドリック様、アイリーンにとって、任務が過負荷となっていたら、無理しないで辞めるように進言してくださる?」
「私からもお願いいたしますわ。
妹は、怖がりなんです。けれど、それを克服しようと頑張ってきました。きっと、無意識に自分を奮い立たせてるのだと思います。
セドリック様と共に職務に当たれるおかげで、今はとても前向きですが、辛さを隠して無理に頑張っている妹の姿が少しでも垣間見えたら、すぐにここに連れてきてください。
この屋敷は、いつでもアイリーンの帰りを待っていますので。
どうかよろしくお願いいたします」
「お母様、お姉様…… ありがとうございます。
お二人の家族で私は本当に幸せです」
「約束いたします。アイリーンが少しでも不安を抱えるようなら、私の判断で任務を放棄させます。
もちろん、常に側で支えますが、決して無理しないよう気遣わせていただきます。
そして、必ず幸せにします」
「良かったわね、アイリーン…… 素敵な方と想いが通じ合って」
「セドリック様のお言葉で安心しました。
どうか、アイリーンをよろしくお願いいたします」
窓際にいたメランが、いつの間にかテーブルに乗っていて、自身の存在を主張するべく大きく数回跳ねた。
「ふふっ、そうね。メランのおかげね。メランに出会わなければ、今の私はいないのですもの。
メラン、ありがとう。大好きよ」
メランは大きく目を開いてゆっくり閉じた。
そして、また小さく跳ねながら窓際へ向かった。
「メランに、感謝や好意を伝えると、照れてしまうんです。ふふっ、可愛いですよね」
「メランがこの姿で良かったよ。男性の姿であれば嫉妬している自信があるな」
「まあ、セドリック様っ!その発言は嬉しいですが、恥ずかしいです……」
「ふふっ、二人を見ていると幸せな気持ちになるわ」
「本当に。もうすぐ行われる私の結婚式には、二人揃って参加してね」
「はい!楽しみにしています!
セドリック様、エスコートよろしくお願いいたしますっ」
「もちろん、喜んで」
明るく穏やかな時間が流れ、とてもとても幸せで、転生させてくれた神様に、心から感謝した。




