12
長期休みに入ってまもなく、卵が孵ったと連絡がきた。その2ヶ月後の騎士団からの連絡では、餌を与え少しずつ大きくなっているが、今のところはまだ雛の状態で、その成長度合から、自我が出始めるのはちょうど一年後くらいだろうとの見込みであり、飼育員としての騎士団所属は卒業後で問題ないとのことだった。
図書館に出向き、ワイバーンやその他の魔獣についていろいろ調べたけれど、メランから大体の事をすでに教わっていたので、本から得られた新たな知識はなかった。
精霊は、産まれた時から自然界のあらゆる知識が備わっているため、魔獣についても詳しいらしい。けれど、昔から変わらない自然や生き物たちについての知識が豊富な反面、人間が築き上げてきた建物や魔術についてはほとんど知識がないため、メランは森以外の景色に興味深々だったとのこと。魔法についても、昔から存在する結界魔法や防御魔法は得意とするものの、攻撃系の魔法は最近発展したため、メラン自身も植物を枯らしたり切ったりは出来るけれど、それ以外の発動方法が今一わからない、と、少し不満気に話していた。
卒業して騎士団所属となると、あまり領地へ戻れなくなるだろうと思い、二年生の長期休みも領地でゆっくり過ごした。
昨年の同じ時期は、セドリック様の夜会のパートナーが気になっていたけれど、今はお手紙を送り合う仲となり、お手紙の中で、騎士となる自分はヴァルハイト家から離籍して準貴族となるため、今後夜会に参加する必要がなく、参加予定もない、と書かれていたので、安心して過ごす事が出来ていた。
お手紙ではお互い当たり障りのないやり取りを交わしていたけれど、ともに騎士団の一員として国に貢献したい事、セドリック様が護衛騎士となった際には、ともにワイバーンを立派な騎士団の一員に育て上げたいことを、お互いが同じような文面で書いていた。セドリック様も少なからず私と同じような気持ちを抱いているかもしれない、と思わせてくれる文面で、共に歩んでいける未来を期待して毎晩幸せな眠りについた。
騎士科の三年生は、長期遠征を3回行うため殆ど学院にいない。騎士団のワイバーンの育成については、上層部の極秘任務となるため、私が卒業後に騎士団所属となる事やワイバーンの飼育に当たることは、卒業までは秘匿するようにと厳命された。また、私の能力が他の人に知られる事のないよう、三年生での遠征同行は禁止された。そのため三年生は一般科で通常講義を受けている。卒業後の進路について聞かれた際は、王宮のどこかの所属を目指しているとやんわりと濁して伝えた。
学院が始まってからもセドリック様とのお手紙は続き、遠征に出向く前にいただいた手紙では、三年生の遠征日程を知らせてくれていた。けれど、二年生が演習遠征に入るまでは、厩舎には行けない。なぜ一般科の令嬢が厩舎にいるのか疑問に持たれてしまうから。
厩舎に行きたい気持ちを抑えて過ごし、二年生が遠征に出向き、三年生が演習から戻ったタイミングで厩舎に向かったのは、三年生がもうすぐ終わるという時期だった。
「皆様、お久しぶりです。演習中、誰もお怪我はありませんでしたか?お馬さん達も大丈夫でしたか?」
「やぁ、アイリーン。久しぶり。この通り、みんな無事だよ」
「アイリーン、メラン。本当に久しぶりだねっ!僕達も馬達も、みんな元気だよっ」
「アイリーンも元気そうだな。久しぶりの俺達は成長したと思わないか?みんな背が伸びたぞ」
「アイリーンも少し背が伸びたんじゃないか?俺ら程じゃないけど」
「本当に皆さん、体が大きくなられましたね。私も背が伸びたのに、それ以上に皆さんが大きくなってしまったので、見上げなくてはなりません。もう立派な騎士様という感じですね」
「だろ?俺達みんな、魔力制御が上手くなって弓の腕も褒められたし、魔術との組み合わせで魔法もたくさん使えるようになったんだ。セドリックが一番上手だけどな」
「だな。セドリックはもう騎士団の中でも上位の魔法の使い手だよな。俺らも頑張ってるのに、追いつけない」
「悔しいけど、セドリックはほんと凄いよね。間違いなく護衛騎士に選ばれるよ。僕はどうかなぁ〜」
「キリアンは、弓の扱いは一番上手いじゃないか。魔力制御も上手だし、前線ですぐに活躍出来るぞ」
「そうかな?ありがとう。まあ、護衛騎士に選ばれなかったとしても、同じ職場だしね。一緒に騎士団の一員として頑張ろうね、アイリーン」
「誰が護衛騎士に選ばれるかわからないけど、騎士団員として顔を合わせる機会は多いだろうし、これからもよろしくな、アイリーン」
「だな。とりあえず、騎士団の精鋭となれるように卒業まで腕を磨くのみだ。セドリックより強くなれるよう頑張るぞ」
「怖いな。気を抜くとあっという間に追い越されそうだ。俺も引き続き、魔法をもっと上手く繰り出せるよう精進するよ」
「皆様、すでに立派な騎士様のようで、素敵です。
私も、ひ弱ですがひ弱なりに、ワイバーンに叩かれそうになっても、すぐに防壁を張れるくらいには魔術を学びたいと思いますっ!今からでは遅いですか?
メランが防御魔法を施してくれるというので、自分で学ぶ予定はなかったのですが、皆様のお話を聞いて流石に甘すぎると反省しました。どなたか、わたしに魔術を教えていただけないでしょうか?」
「そうだな……アイリーンなら、魔力制御は上手そうだし、魔術を学べば防御魔法くらいは張れるようになるかもしれない。俺が教えるよ」
「いいのですか?嬉しいですっ!」
「そうだな。セドリックが一番教えるのも上手いし適任だな」
「だね。僕が教えてあげたいところだけど、セドリックの方が教え方は上手だし。魔術師科だったら、きっとアイリーンはもう魔法使えてるんじゃないかな?
セドリックに教えてもらったら、きっと魔法を使えるようになるよっ」
「卒業までの目標が出来たな、アイリーン。俺達も頑張るからアイリーンも頑張れ」
「皆様、ありがとうございますっ!」
メランが足元でピョンピョンしていた。注目すると、
(俺が守ってやるって言ってるのに。お前が魔法を覚えなくても確実に守るぞっ!だが、セドリックとの距離は縮めた方がいいからな。セドリックからなら学ぶのを許してやる)
「ふふっ、メランが、俺が守るが、学ぶのは許すと…… 許可が出たので、セドリック様、改めてよろしくお願いいたしますわ」
「メランの許可が出て良かったよ。次の休日に迎えを寄越すから、家にまた来てくれ。家で教えるよ」
「わかりました。それまでに魔術の本で勉強しておきますね。早速図書館に行ったてまいります。
では皆様、ご機嫌よう」
微笑んで一礼すると、二年生の時と同じようにセドリック様が出口まで付き添ってくださる。
遠征の合間に、カフェテリアで騎士科の皆様の姿を見つけて会釈する事はあったが、こうして近くにいるのは約一年振りだった。騎士らしい逞しい身体つきとなったセドリック様は、大人の男の人のようでドキドキした。出口までは、魔術に関しての本のお勧めを紹介してくれたが、顔を見るとときめいてしまうので下を向いて歩いた。出口で別れて、図書館に行く途中でいつものように振り返ると、当然のように手を振ってくれた。次の休日をとても待ち遠しく思いながら、笑顔で手を振り返した。
――――――
「やっぱり、セドリックには敵わないかなぁ〜。護衛騎士になれれば僕にもチャンスがあるかなぁ〜と思ったんだけど」
「キリアン、諦めろ。どうみても相思相愛だ。騎士となってから、みんなで良い子を見つけようぜ」
「だな。きっとあの二人のように、いいパートナーが見つかるさ。活躍する騎士はモテるらしいから」
「よし。キッパリ諦めて、精鋭の騎士となれるよう励むことにする。弓を極めてみようかな」
「いいんじゃないか?きっと前線で活躍して名を轟かせることが出来るぞ」
「うん。そうなれるよう頑張るよ」
出口まで歩く二人を見つめながら、3人は小声で話し合ったのだった。




