金払いのいいやつは上客
宿の中の探索といっても、勝手に他の部屋に入るのは流石にまずいのではないだろうかということで、公共で利用できる所を見て回ろうと思ったが、そもそもここの構造を知っているわけでもないので入っていいところか悪いところがわからない事に気がついたのが階段のあたりまで出てきた後だった。
どうしたものかと思っていると、どうやら階段の左側から外に出られるようだった。というか開きっぱなしのドアから地面が見えるのと、何かブンブンと物を振っているような音が聞こえるので見に行ってみることにした。
ドアを出るとどうやら中庭のようになっているらしく、周りを宿の建物で囲まれたそこは軽い運動なら出来そうなスペースになっていた。というか現在進行形で長物を振り回している人物がいた。カラさんの持っていたハルバートとは若干形状が違うが、パルチザンというやつだろうか。
柄の限界まで利用するように突き出し、手元に戻すような動作から流れるようにクルリと回し、切ったかと思えばまた薙ぎ払う。健康のための運動とは程遠いそれは鍛錬というやつだろうか、ただ型をなぞるというよりは大小様々な物を相手に想定しているような動きだと理解る。
……はて、なぜわかるのだろうか? 記憶を失う前は槍の名手だったとか? 腰に下げてるのは剣なんだけどなぁ。まあそういう系統全般だったりするのかもしれない。手がかりとも言えるし、謎が深まる感じもするなぁ。記憶を失う前は何をしていたのだろうか。袋の中身を真っ当に稼げるお仕事であることを願うばかりである。
考えていると、此方が見ていることに気がついたのか、手を止めてこちらに近づいてきた。軽装の皮鎧のような装備をした長身の男性だが、何かあっただろうか? なににらんでんだてめぇぶっころ的なあれだろうか。
「おう、どしたい。見た感じ同業のようだが何か用かい?」
どうやら単純に此方が見ていたことに対して用があると思っただけらしい。別に用があるというわけでもないので、素直に鍛錬を見ていたことを伝える。とういか同業とは何だろうか、真っ昼間から武器を振り回す系のお仕事してそうに見えるのだろうかやっぱり。
「ん? まあ鍛錬ってほどでもねえよ、昼飯前に軽く運動してただけだ。連れどもは練兵場で一汗かいて来るって行っちまったが、休みにわざわざ行くのもってなあ。おたくもその口だろ?」
練兵場、そういうのもあるのか。自分は連れもいないし、昼前まで宿を見て回っていただけだと伝える。ついでに兵隊ではないです、旅人やってますとも。
「いやいや兵隊ってなんだよ、冒険者だよぼ・う・け・ん・しゃ。やっぱり同業じゃねぇか。にしても一人旅たぁな。剣なんぞ使うくらいだ、よっぽど腕が立つんだろ? メインは突き主体の槍かハンマーか?」
いやどうなんでしょうね、実際。出来る出来ないでいうならどうも出来るみたいだが、やり方がわからないというか本当に出来るかわからない所だ。むしろ剣は飾りで槍使ってましたという事も考えられる。あ、いや最初剣を持った感じでは大分剣に馴染んでいた気もするが。
というわけで持っているのは剣一本だと曖昧に笑ってごまかす。それにしても剣なんぞとはどういうことだろうか? 何かしら問題があったりするのだろうか? 槍よりリーチが短いとかその辺だろうか?




